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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第8章 「天の恵み」回収作戦最終局面
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第99話 作戦変更

 「天の恵み」回収部隊の配置に変更はない。

 先走る「魔物」達を駆除しつつ、緩やかに後退を続けている。

 右翼に乱れがあるが、ただの寄せ集められた部隊だけに、隊形を維持するのが難しい。

 上空から見る敵と我が陣営の統率力には歴然と差があった。

 学生たちがなかば逃げ出し始めたのだ。


 ミノルフは、正直に言えば学生たちにはとっとと逃げてほしかったのだが、ここまで連れてきてしまった。

 かなりの学生がその命を散らしている。


 当初の計画に、この撤退戦など想定されていなかった。


 「魔物」達が、こんな「テレム」濃度の低い場所に出てくることがあるわけがなかった。


 あんな巨大な「魔物」、ツインネック・モンストラムの存在など考えてもいなかった。


 さらに「魔物」達が大挙して追ってくることなど、誰が想像できるだろうか?


 上空から見るツインネック・モンストラムの周りにはB級以上の「魔物」達が並走している。

 モンキー級やウルフ級はすでに力尽きたようだ。

 B級もだんだん速度が遅くなってきている。

 結果的には、「魔物」達が密集をし始めている。

 特に正面には何列もの「魔物」達がツインネック・モンストラムを守るように迫ってきている。


 対「魔物」駆逐弾頭をツインネック・モンストラムにぶつけるにしても、その前を覆う「魔物」達をある程度は駆除しないと、射線が通らない。

 しかも、大きな「魔物」達が弱っていたり殺されている「魔物」達を喰らいながら近づいてきている。


(ツインネック・モンストラムに近づくことが、かなり難しいな。どうするミノルフ)


「この厚みのある「魔物」達の群れを飛び越えられればいいんだが…。飛べる奴は何人もいるが、あの砲撃車を飛ばすことはできない以上、リノセロス級やエレファント級を蹴散らして、射線を通すしかないか。」


【ミノルフ司令!賢者「スサノオ」様より、通信です。開きます】


「了解。回してくれ。」


 ペガサスが後退させ、「天の恵み」回収用搬送車の上空に速度を合わせる。


【すまない、ミノルフ卿。上空偵察が君にしかできないものでね】


「それは構いません。ですが、低級の「魔物」達は確かにいなくなりましたが、代わりにツインネック・モンストラムに重厚な防御の様に、でかい「魔物」達に囲まれてます。対「魔物」駆逐弾頭を打ち込むすきがなくなりつつあります。できうる限りツインネック・モンストラムの弱体化を狙う計画が遂行できません」


【確かにミノルフ卿のいう事は正しい。部隊を使い、周りの「魔物」達を削いでいく戦術はそのままだが、「魔物」達を駆逐するためにこれから作戦を行う。そこで空いた隙に騎士団と国軍の戦力を突入させる。換装していない装甲砲撃車も使用する予定だ。君も上空から支援をお願いしたい】


「了解です。が、何を?」


【無人の車両に爆裂薬を積み込み、奴らに突入させる。その車両がツインネック・モンストラムに極力近づけ、後方から砲撃、爆散させる。車両は8両。今準備中だ。君にはアイ・シートに指示される車両を爆撃して欲しい】

 あの頑丈な奴らにどこまで通じるか分からないが、やれることはやっていかないと対策がそこをついてしまう。


【作戦開始は今から15分後。よろしく頼む】


「了解です。」


 15分後に作戦を始動し、その後1時間程度で追いつかれる計算か。


 空は明るくなっている。

 もう間もなく夜明けだ。


 先の接触でシリウス騎士団も1割程度の損失を出しているようだ。

 弓部隊もほぼ撃ち尽くしたと聞いている。


 国軍はそれほどの損失はないが、やはり駆逐弾がそこをついた。


 右翼の混合部隊が一番ひどい。

 冒険者たちは一歩引いての守備的な戦いに終始していて、逆に被害が少ない。

 が、騎士団たちは、この機会に実績を積みより高い地位を求め戦いに出た結果、多くの死亡者を出している。

 そして学生たちも…。


 だが、「魔導力」を高めたのは学生だけではなかった。


 フォルク・ガスタング。ルーノ騎士団団長。

 自分より若いとはいえ、もう、25は超えていたはずだ。


 その彼でさえ、空を跳ねるためのフライングソーサーを発動させていた。

 自分自身でさえ、「天の恵み」上での超A級の「魔物」との戦闘で使えるようになった代物だ。

 「特例魔導士」の卵だけではないのだ、成長できるのは!


「右翼の部隊の配置を変更!ルーノ騎士団、エーユーディー騎士団、ハレイマ騎士団、ホンディーズ騎士団を前面に移動。突撃隊形を取らせろ!冒険者、学生は各チームリーダーをバックアップで騎士団の後ろに配置。拒否は認めん!「バベルの塔」が作った間隙に突入させる。10分後に作戦発動!配置に着け!」


 ミノルフは戦闘用リングから指令を発した。

 冒険者と学生には全く期待をしていない。

 それでもチームリーダーの職責にかけざるを得ない自分が、ひどく矮小に思えてしまった。


 「天の恵み」回収用搬送車から次々と小型の兵員輸送車が降りてきた。

 そのまま走り始めて戦力の集中した部隊を抜け、前線に達した。


 8両のその車体から国軍兵士が降りてきて、ミノルフに準備完了を示した。


 右翼が少し混乱しているようだが、4つの騎士団を中心に突撃態勢を整えている。


「ペガサス、大丈夫か?」


 少し高度が落ち始めている。アイ・シートにペガサスの「テレム」が減りつつあることを示した。

 飛べる飛竜がペガサスだけで、かなりの負担を強いてしまっている。


(俺を誰だと思ってる?まだまだ、余裕だぜ)


 そう言うとは分かっていた。

 だが、最後の起爆のためにももうひと踏ん張りしてもらう必要がある。


「頼むぜ、ペガサス。我が相棒。」


(当然だ、ミノルフ)


 もう一度、力強く羽ばたき、上昇する。


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