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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第8章 「天の恵み」回収作戦最終局面
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第97話 決戦最終フェーズ Ⅱ

 学校で行われる模擬戦は、基本的に「魔導力」なしの限定された闘剣場で行われる。

 5人対5人の模擬刀を用いての打撃戦で、相手に打撃を加えるとポイントとなり、5ポイント先取で行われる。

 この模擬戦闘でアップルの率いるチームはトップだった。

 5人のうち3人が剣士で、1人は戦士、一人は防御剣士で、探索士や、医療回復士を含まない。

 攻撃型のチームである。だからこそ模擬戦の勝率は高い。


 オオネスカのチームに対しても今のチームに対しては3勝1敗の成績である。

 だが、ディアムロが在籍していた時は2勝4敗と負け越していた。

 相手には医療回復士のアスカ、探索士のオービットがいるのにもかかわらずだ。


 アップル子爵家は王家との血縁はない。

 それだけでもオオネスカのバッシュフォード伯爵家に対して、劣等感を覚えてしまう。

 さらに伯爵家と子爵家の格の違い、男であるにもかかわらず、女のオオネスカに剣圧で負けるこの体力差。


 ダージリンはチームで勝っている筈なのに、全く劣等感は解消されない。


 実際のこの作戦で、自分たちの実力が示せるはずだった。

 自分たちが優秀であることをオオネスカに認めさせることが出来るはずだった。


 だが、実際はどうだ?


 自分たちは野営地で初めて見る「魔物」のあまりの凶悪な雰囲気にのまれ、無様に逃げ惑うばかりだ。


 「天の恵み」回収用搬送車を守るための「魔物」の排除を懸命にやりきれたと思っていた。

 だがオオネスカのチームは空を飛び、あの巨大なツインネック・モンストラムと戦い、これを封じていた。

 さらに化け物の次の攻撃を封じる作戦には、オオネスカのチームが指名されていた。


 ダージリンは学校1位というプライドがズタズタにされた。


 それは他のチーム、アムロシアン、ミカルフェン達も同様な想いであった。


 今、オオネスカのチームはいない。

 これは前回の戦闘でツインネック・モンストラムの爆発に巻き込まれて重傷を負ったと聞いていた。

 逆転できるなら今しかない。


 何度も司令からの命令に対して、明確な違反であったが、ここは曲げるわけにはいかなかった。

 それにミノルフ司令は「()()」シリウス騎士団だ。

 終わればいくらでも、言いくるめることが出来る。

 ダージリンはそう考えていた。


「来るぞ!超攻撃の陣で行く。かかれ!」


 ダージリンの前に防御剣士・アッサムが片膝をつき障壁を張った。

 ダージリンの右に剣士・ジャスミンが、左側に剣士・ルイスがつく。

 後方に戦士・ギョクロが配置している。


 そのダージリンチームに「魔物」達が迫ってきた。


 様々な大きさ、形ではあるが、皆黒い皮膚や毛をはやし、表面に多くの赤い目が開いている。


 ダージリンはその異様な光景にたじろぐ心を無理やり封じ込めた。


 迫ってくる黒と赤の集団。言いようのない殺気と圧力。


 皆、緊張してるのがわかる。


 ダージリンは一瞬目を閉じ、すぐに目を大きく開いた。


「行くぞ!」


 迫る「魔物」達に向かい5人で突進した。

 そのままアッサムがウルフ級にぶつかっていく。

 大きく口を開け、牙がアッサムの防御障壁にぶつかる。

 そのままウルフ級に対し固定化、左のルイスが防御障壁から飛び出し、ウルフ級の首を切り落とした。

 さらにルイスを襲おうとした他のウルフ級が飛び掛かってくる。

 右のジャスミンがそのウルフ級に切りかかる。


 が、そのウルフ級はジャスミンの動きに気付き、空中で体を反転させ、ジャスミンにその前足の鋭い爪をくり出してきた。


 ジャスミンの顔が一瞬で強張った。

 思わず右ひじでその太い爪の攻撃をしのごうとした。


 ダージリンの後ろからダージリンの肩を踏み台にして、ギョクロが飛んだ。


 そのままジャスミンを襲おうとしたウルフ級の後頭部に力を込めた右手の拳を叩き込んだ。

 その「魔導力」の籠った拳によりウルフ級の頭が爆発し、ジャスミンの白磁を思わせる肌を赤く染めた。


 ジャスミンはそのまま、アッサムの前に転がったため、慌ててアッサムがジャスミンの前に障壁を作った。

 そのジャスミンを狙っていた別のウルフ級が襲おうとして、障壁に弾かれた。


 ギョクロはそのまま空中で回転して、眼下のタートル級の甲羅に左手の拳を叩きつけようとした。

 そこに宙を跳ねるタイガー級が大きな口を開き、ギョクロにその牙を向けてきた。


 反射的に右手をタイガー級に向け障壁を張ろうとした。

 が、間に合わず、右手の肘から下に上下の牙が突き刺さり、骨の砕ける音がギョクロの耳に届く。


 今まで感じた事のない強烈な痛みの感覚が全身を駆け巡り、ギョクロの口から人とは思えない絶叫が迸った。

 が、意識が消えそうになるのを寸前で堪えて、左の拳をタイガー級にぶつける。

 しかし、「魔導力」の全く入っていないその拳が「魔物」にダメージを与えることは出来なかった。


 ギョクロは右手を失い、少なくない血を流しながら、大地に叩きつけられた。

 右手がなくなったため、受け身も取ることが出来ず、その衝撃が背骨にひびを入れた。


 その上から、ギョクロの右手をかみ砕き、飲み込んだタイガー級が首元を狙い、襲ってくる。


 何とか立ち上がり、逃げようとするギョクロ。

 そのギョクロを助けようと、血だらけのジャスミンが剣を突き入れるようにタイガー級とギョクロの間に入ってきた。

 

 しかし、タイガー級はそれに反応。

 ジャスミンの剣をその強力な顎で咥えて首を横に振った。

 あっけなくジャスミンは自らの剣を奪われ、そのまま這いつくばっているギョクロの上に覆いかぶさるように落ちる。

 そのジャスミンの背中を、空中で体を回転しているタイガー級の爪が肉を抉った。


「ぎゃああああああああ――――――!」


 ジャスミンの叫びが、ギョクロの鼓膜を強打する。


 落下してきたタイガー級の後ろ脚の爪が、ジャスミンの右太ももに深々と突き刺さり、大腿部の骨の砕ける嫌な音が周りの仲間にも聞こえてきた。


 その痛みはあっけなくジャスミンの意識を刈り取った。


 動かなくなった折り重なっている二人の獲物に、タイガー級の口元が残忍に開いた。


「やらすかよー!」


 ルーン騎士団団長フォルクがフライングソーサーをジャンプ台にして、超低空で飛んで、その勢いのままタイガー級に盾ごとぶつかり、二人から引き離す。

 もんどりうったタイガー級の首を、フォルクは剣であっさり跳ね飛ばした。


 だが、その後ろからも主にタイガー級とベア級が迫ってきていた。


「バカ学生!とっとと仲間を連れて逃げろ!」


「しかし、手柄を…。」


 いまだにオオネスカの影が心にちらついている無傷のダージリンが、細い声で呟く。


「死にたくなかったら逃げろ!」


 既にルイスがジャスミンを抱えていた。

 アッサムも痛みと恐怖でボロボロになったギョクロを担ぎ上げ、障壁を張っている。


「回復士もいねえのか、このチームには!早く逃げろ!」


 フォルクはそう言うと、向かってくる「魔物」達に、剣を薙ぎ払った。

 見事なロングソードが、近づいていた「魔物」達を切断した。


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