第94話 最終フェーズ決戦 Ⅰ
既に日の出まで、2時間を切っている。
ツインネック・モンストラムは全くその速度を緩めず、逆に上げることもなく、「天の恵み」を追い続けている。
直線距離で10㎞。
かなり近づいてきている。
この段階で、この「天の恵み」回収作戦に従事しているすべての人員にリングから、精神波通信が入った。
「私はこの「天の恵み」回収作戦総責任者の賢者「スサノオ」だ。これより、この作戦の成否をかけた最後のフェーズに入る。即ち、ツインネック・モンストラムの討伐である。」
すべての人員が、起き上がり、その「スサノオ」の言葉を聞いている。
逃げることもできなくはないが、それをしたが最後、クワイヨン国には戻れない。
「既に国内での叛乱は鎮圧されている。このことに、特に家族が心配だったものもいるだろう。全くの被害なしとはいかなかったが、犠牲者のほとんどは、叛乱側である。君たちの憂慮するべきものは取り除かれた。今後の君たちの行うべきことに集中してほしい。すでに作戦概要と携わる役割に対しては、各責任者から届くことになる。また、ツインネック・モンストラムの息の根を止めるための装備もすでに準備してある。君たちは任じられた職務にその才能をいかんなく発揮してほしい。」
砲撃装甲車は既に「天の恵み」回収用搬送車に格納され、新兵装に換装を終えていた。
「カエサル」が中心になり、国軍機械化部隊兵装取り扱い小隊がその操作法と、対「魔物」駆逐弾頭の装填法を練習していた。
この新砲塔に換装された砲撃装甲車は、ツインネック・モンストラムを「魔導力」の波状攻撃で弱体化させたのちの、最終手段としてこの「天の恵み」回収用搬送車から出撃、目標近くに移動し、対「魔物」駆逐弾頭を放つ。
弾頭弾は全部で9発と取り扱う兵士たちは聞いている。
砲撃装甲車自体は、遠隔操作をするが、今回の砲撃の後に弾道の装填は人力になる。
従来の砲撃用の弾頭とは大きさが異なり、自動の装填方法が使えなかったためである。
この新型砲塔と砲弾は、もともと「バベルの塔」内で、新型の砲撃装甲車に搭載予定であった。
今回の事態を受け、急遽通常の砲撃車の砲塔との換装を余儀なくされたのである。
「このツインネック・モンストラムが、この搬送車を破壊した後方には、我々のクワイヨン国がある。しかも、今回のこの回収作戦と、国内の叛乱で戦力はかなり低下してしまっている。この「天の恵み」のみならず、我々が愛する祖国、クワイヨンの防衛であることも自分の胸にしっかりと刻み付けろ。」
「スサノオ」は「天の恵み」のみならず祖国をもその防衛対象に入れることで、兵士のモチベーションをあげる試みを絶妙に組み込んだ。
「それでは、30分後に最終フェーズに移行。各自、各責任者の命に従うように。諸君の全身全霊を捧げよ!我々の祖国、クワイヨンのために!」
最後は政治家のアジテーションのように、祖国への忠誠を煽って終わった。
オオネスカチームとデザートストームの面々はその演説を粛々と聞いていた。
そこに賢者「サルトル」の小さな体が現れた。オオネスカが跪いた。
それに倣いチームの学生たちは同じように跪き、首を垂れた。
しかし、デザートストームの者たちには、そんな礼儀はなかった。
それが冒険者の矜持でもあった。
「そのままで聞いて欲しい。」
「サルトル」が落ち着いた口調で話し始めた。
「君たちが、この作戦行動中に見せた働きは素晴らしい実績だ。それだけでもクワイヨン大十字勲章ものだ。だが、この最終フェーズに勝たねば、すべてが水泡に帰す。そこで、上層部から君たちに特命を果たしてもらいたい。」
賢者「サルトル」の言葉に、オオネスカたち学生は短く「はい」と答えた。
だが、ダダラフィン達は単純にその言葉には喜びを示さず、冷静、というにはさらに低い温度で「サルトル」の小さい体を見ていた。
「我々は「冒険者」だ。我々を使うのであれば、それなりの報酬を出してもらいたい。すでにアイ・シートで我々に対する報酬も多額になっているはずだ。それに見合うものを要求する。」
俺たちをいいようには使わせない。
ダダラフィンは暗にそう告げていた。
「それは当然の要求だ。こちらの提示する報酬だ。アイ・シートで確認してくれ。」
ダダラフィンのアイ・シートに条件と報酬が流れた。
「まあ、いいだろう。受けよう、「サルトル」。」
「大将、しかしこれは…。」
バンスが驚愕の表情でダダラフィンを見た。
「人体実験込みだ。もっと吹っ掛けてもいいが、下手に賢者を刺激してこの子たちから離されては本末転倒だ。ミノルフ卿は唯一の空中兵力だ。こちらの学生達は守りきれないだろうからな。」
「ああ、確かに。彼らは強いが、経験不足は否めないからな。見守る存在は必要か…。」
デザートストームのメンバーはすでにオオネスカ達に情が湧いている。
それと同時に偉大な才能の開花をこの目で見るという贅沢な瞬間に立ち会えることの喜びに目覚めてしまったというのもある。
「では、交渉成立ということでいいかな。では、この特命について説明させてもらう。」
「サルトル」は、彼らにこの特命について、説明を始めた。




