第93話 「天の雷」
「ランスロット」は25分割されたモニターを見ながら、緊急会議を必要とした理由を説明していた。
「この「魔物」はその大きさと言い、強固な皮膚と言い、レーザーを吐くことと言い、すべてにおいて規格外です。メガホエール級をさらに超える「魔物」など、この1000年に報告はなかったと思います。現在、我が国の軍・騎士団が対応していますが、「テレム」濃度の低いオオノイワ大平原であの巨体を維持して、なおかつあの速度で「天の恵み」回収用搬送車を追いかけてきています。通常ではありえない。どこから「テレム」を補給されているのか?今のところ不明です。」
「「ランスロット」、確かにその化け物としか言いようのない「魔物」の存在は解った。君たちのもとに届くはずだった「天の恵み」が、ガンジルク山にずれて不時着した。その回収のため、巡り合ったという事もわかった。だからと言って、我々が君たちのことを助けねばならない理由にはならない。」
「我が国の「天の恵み」は海に落ちたよ。回収のしようもできない。それに比べれば回収可能なところに落ちているんだ。まだましだろう。」
「確かにそうです。ただ、そちらの件については、代替を送ると連絡が来たという事ですが…。」
「そうだとしても、積み荷が来るのは1か月程度先だ。補修しなければならない箇所があることに変わりはない。」
「ここで我々の「天の恵み」が破壊されれば、次に我々の番が来るまでにはその何倍も待たねばならない。それどころか、往還船である「天の恵み」そのものが破壊されたことによる賠償を求められれば、そうそう見過ごすこともできない。」
「そのこと自体は君の国の事情だろう。とはいえ、この化け物、ツインネック・モンストラムと名付けたのだな。「2つ首の怪物」とはそのまんまだが…。こんなものがいるという事は、他にも「魔物」の巣窟と呼ばれるところは、この星には結構な数の場所がある。今後、「向こう側」の精密な軌道航行がうまく機能しなければ、このような事態は多くなるかもしれん。確かに検討に値すると私は思う。」
「ルシエルの「アマデウス」の意見に賛成するよ。「向こう側」と連絡報告しか通じない状態がかなり長い。一応はこちらの要望の物が届いてはいるが、今後のことを考えると、ここは協力体制を作るべきだろう。基本、国内のことはこちらの人民に任せておけばいい。「魔物」絡みの件と、空より上のこと以外はこの星の人類が決める。大前提だ。クワイヨンで内戦状態だとしてもな。」
「これは手厳しいですな、「ガリレオ」殿。クワイヨンの実験体の叛乱は、一応極秘という事で、だったと聞いておりますが。」
「「ヨハネ」、口の利き方は気を付けてくれ。ここ、23国会議は基本的にこの星の最高決定機関だ。今回、クワイヨンをはじめ、4か国の最高責任者が出席していないとしても、だ。」
痛いところをついてくる。
この23国会議は基本的に、「バベルの塔」最高責任者の出席を原則としている。
このクワイヨン国の「バベルの塔」最高責任者は「ヤマトタケル」だが、20年ほど前の肉体の消失から、「適応体」が見つからないこと、さらに前肉体保有者との融合が深すぎたための睡眠深度があいまって、起きられない状態が続いてる。
状況によっては最高責任者の交代と言ういまだかつてない事態になるかもしれない。
だが、変わるとして、誰がいる?
「緊急性は理解できた。で、そのツインネック・モンストラムに対抗する手段の話だな。」
「はい。今の戦力で対抗出来れば問題ないのですが…。最悪の場合について。「天の雷」の使用許可をお願いしたい。」
この言葉に25分割されたスクリーンに映っている22の顔が、一瞬引き攣ったのが分かる。
だが、23国会議を緊急招集する案件などそんなに多くはない。
他国に救援を要請する以外には共同管理しているものの使用許可ぐらいしかないのだから。
「あれを使う事は、この制度が出来てからは2度しかない。1度は600年ほど前の機器検査のためのエネルギー放出。もう一度は、200年ほど前の海上都市「アクアリウム」の件だけだ。分かっているのかね、その意味が。」
「分かっています。使う事態を避けるために、対抗策を検討しています。ですが、打てる手は打っておかなければ、手遅れになります。」
「クワイヨン国の考えは皆、理解できたであろう。では承認をするもの、しないもの、その意思を。」
モニター上に18の顔が残り、3つに棄権、1つが完全に消えた。
ワイスパー・オー・エアス国「ヨハネ」の部分が完全に消えたという事は、否決である。
「では、以上のように、今回のクワイヨン国の非常事態に「天の雷」の使用を許可する。これから24時間、「天の雷」の操作権をクワイヨン国「ランスロット」に譲渡。」
「承認、ありがとうございます。」
その言葉とほぼ同時に、モニターが一度完全に消え、すぐに「天の雷」の操作用モニターの回線が開いた。
「これで、万が一の時の対応は出来た。だが、これを使うことなく終わらせてくれ、「スサノオ」。」
「ご苦労だった、「ランスロット」。あとはこちらに任せてくれ。」
「スサノオ」の声が「ランスロット」しかいないこの部屋に響いた。




