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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第7章 追撃のツインネック・モンストラム
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第92話 対ツインネック・モンストラム作戦会議

「「ランスロット」から、実験体1号、アイン・ドー・オネスティーの報告は受けている。この報告は現段階のGシリーズにも適用可能だと思う。このことから「テレム強化剤」使用は学生の中のGナンバーに託すのが最善だろう。だが、学生たちの中に、血気盛んと言うか、オオネスカたちへの嫉妬心から、過激な行動をとる輩がいることは間違いない。すでにこちらでも、危険監視対象はリストアップしている。で、協議内容だが、この学生たち、総数23名の処遇をどうするか、君たちの意見を聞かせてほしい。」


 戦闘装甲司令車のうち3台が今、搬送車に格納されて、上層部7名が作戦内容の最終段階の詰めに入っている。


 参加者は賢者3名とシリウス別動隊統合指令ミノルフ卿、国軍のバイエル准将、エルドメリ中将、クリフォント少将である。


 基本的には国軍主力部隊の、第1大隊、第2大隊、機械化特別車両隊、の3部隊がツインネック・モンストラムの前面に展開。

 「天の恵み」搬送車に重火力部隊を配備し、後方からの援助を務める。

 左翼をシリウス騎士団が、右翼を他の騎士団が展開して、その後方に冒険者の集合軍が配置されている。

 基本、学生の「特例魔導士」の卵たちはさらに後方より隊の援助にまわることになっている。


「現時点で学生たちの戦力は非常に魅力的だ。実際問題として、デザートストームとオオネスカチームは合同のチームを編成、基本的に遊撃部隊として、前線に出てもらう。すべての人間ではないが、フライングソーサー現象を操れるものは非常に貴重な戦力だ。存分に戦ってもらうよ。」


 「スサノオ」はそこで一度言葉を切り、ほかの参加者に発言の機会を与えようとした。

 しかし、今のところ、ほかの参加者から期待された意見、反論は出ていない。


 「スサノオ」は続けた。


「で、先程の注意が必要な学生たちだが、問題を起こさないように、足を引っ張られないように、そしてせっかくの「特例魔導士」を失わないために、後方で見学させるか、最前線に立たせて、オオネスカたちよりも大きな成果が出ることを期待するか?」


 そこで、エルドメリ中将が発言を求めた。


「わが軍の特性として、騎士ほどにこの力が強いわけではありません。「バベルの塔」より貸与されている武器を使うことには、若干慣れていますし、その装備を完全な状態で戦いに出るのを基本としています。その問題のある学生には、わが軍で武器使用の援助をおこなわせたいと思っています。」


「一つの案としてはいいと思う。他には?」


「騎士団としては、理にかなった行動を考えてほしいですな。ただ自意識の高いやつは、初陣ではたいてい体が動かなくなるものですが。こちらも騎馬隊は急遽王都に向かわせました。他のウラヌス騎士団も、マルス騎士団も王都に急がせました。シリウス騎士団は私とペガサスの負傷があって残留。結果的にはこのどでかいやつを守る仕事ができるわけですが…。」


 ミノルフは自らの負傷が、結果的にはツインネック・モンストラムへのリベンジの機会を得たという事に、微妙な気持ちをそんな発言に込めた。


「基本、参戦という事でいいかな?」


 だれも異論は言わなかった。


「相手がツインネック・モンストラムということは、先の戦いからも明らかのように、実際の強さが桁違いだ。基本的なこちらの攻撃が弾かれているからな。単純にあの巨体だ。追いつかれて踏みつぶされるという事だけでも脅威だが、あの見えない攻撃、我々はあの現象を「レーザー」と呼んでいる。あの出力であれば、1㎞先までも破壊できるし、あのレーザーを動かされると、簡単にこちらの防備が切断される。」


「アクエリアス別動隊が、最初に受けた攻撃で、戦力の3分の1を失った。それだけの遠距離の攻撃を受けるようであれば、我々は何も出来ずに、この「天の恵み」を失うことになる。」


 エルドメリ中将が続けた。


「しかしながら、そう言った攻撃に関しての対抗策は、今回は考えていない。単純に防御の手立てがないということもあるが、あの出力を出すためのエネルギーを作ること自体が難しい状況だろう。あの巨体を動かすだけでも「テレム」をかなり消費することに間違いはないし、あの速度で移動にさらに消費しているのだ。先の戦闘からわずかしかたっていない状態で、追いかけることが出来るというのは、何らかの「テレム」の補給をしているとは思うが、レーザー攻撃にまで使用することは不可能だろう。仮に撃たれたら、どのみち終わりだ。今回の作戦はレーザー攻撃は考慮せずに検討している。先程の問題児は国軍に組み込むことにする。実際の指揮を取ることになるバイエル准将、よろしく頼む。」


 「スサノオ」からの指令に対して、バイエルは何も言わずに軽く頭を下げた。


「ミノルフ司令、君のパートナーのペガサスは飛べるかい?」


「問題はないようです。さすがにオオネスカのパートナーのエンジェルはまだ無理のようですが。」


「よろしい。では、申し訳ないが、君には上空からこの作戦の大局を見て、随時指令を出してくれ。それと、右翼の騎士団と冒険者、学生たちの面倒を見てくれ。」


 「スサノオ」がミノルフに新しい指令を出した。

 ミノルフは、その布陣を見たときに、そうなることをある程度予想はしていたのだが、やはり肩の荷を重く感じていた。


 シリウス騎士団の残存戦力は現在、ミノルフがシリウス別動隊の統合司令と言う立場のため、騎士団第5大隊隊長、アサガ・ジュニエートが騎士団の筆頭騎士代理としてまとめている。

 その為、左翼をシリウス騎士団が務めることから、アサガ・ジュニエートが左翼隊をまとめるのに、何の不都合もなかった。


「了解しました。」


 否応(いやおう)もなかった。


「正面部隊、国軍はクリフォント少将にお願いする。そしてこの搬送車に展開する重火力部隊はバイエル准将に任せる。意見があるならば聞いておこう。」


「配置には異論はないんですが、どうやって、あのツインネック・モンストラムを倒すのですか?」


 クリフォント少将が素朴な質問をした。

 これはこれから戦いに向かう兵士にとって、非常に重要な問題である。

 もし、倒せない相手に挑むとしたならば、精神がもたないことは誰でもすぐに想像がつく。


「基本的な戦略は、全部隊でそこに足止めをして、ツインネック・モンストラムの「テレム」を削いでいく。そして、充分弱ったところで、こちらは新型の対「魔物」駆逐弾を撃ち込み、息の根を止める。」


 「スサノオ」の言葉に、ミノルフがすぐに反応した。


「対「魔物」駆逐弾は、ベア級程度には効果がみられていると聞いていますが、身体が硬化している「魔物」には弾かれてしまって、全く役に立たなかったと思うのですが。」


 その言葉に賢者以外が頷く。


 対「魔物」駆逐弾は、この作戦でも使用されているが、体内に入り込み、対「魔物」シールド同様に、体内の「テレム」を分解、枯渇させて弱めるものである。

 「魔導力」が小さいものは死に至る。

 そこまでいかなくても弱った相手は簡単に駆除できる。

 基本的に「バベルの塔」が絡む行動時に国軍が携帯する武器の一つだ。

 しかし、この駆逐弾が貫通してしまえば意味がないし、弾かれて体内に入らなければ、さらに意味がない。

 その為、固い甲羅を持つタートル級や、皮自体が硬化しているエレファント級では弾かれて使用することに意味がない。

 ツインネック・モンストラムに至っては、「特例魔導士」級の力を持つに至った、ミノルフやアルクネメの剣が全く通じないほど硬化した体皮を持っている。

 対「魔物」駆逐弾が、通用しないことは間違いない。


「今回使用が許可された新型は、携帯可能な兵器ではない。いま、ここにある「天の恵み」に積載された兵器だ。新型と付けてあるが、放出された弾頭の中に「テレム」分解剤が入っているという事が同じだけで、全く別の兵器だよ。ただし、活動が活発な時のツインネック・モンストラムに当てられる可能性が低いことと、搭載弾頭数が限られていることから、どうしてもツインネック・モンストラムを弱体化させねばならない。それを君たちにやってもらいたい。」


 「スサノオ」が、ここに集まる賢者以外の者にそう説明した。


「弾丸ではなく、弾頭ですか?」


 バイエルが呟いた。実質、その兵器を扱う部隊の長としては、何も聞いていないことに不安に思ったためである。


「武器自体の違いは、その大きさと、弾頭を射出する速度の超高速化だ。撃った後の砲塔はかなりの熱を持っている。次を撃つためにはかなりの時間冷却しなければならない。これから「天の恵み」より搬出し、砲撃装甲車の砲塔を換装して使用することになる。バイエル准将の指揮する部隊が取り扱いには向いているだろう。この会議の後にその作業になる。」


「は、はい、了解しました。」


「砲塔は3門。弾頭数は9発しかない。慎重に事に当たってくれ。」


「仰せの通りに。」


 いきなり重要な役どころが回ってきたというような顔つきで、バイエル准将は答えた。

 すでにこういうことにあたれる兵士のリストを頭の中に浮かべていた。


「これしか、ツインネック・モンストラムに対抗する手段はない。この事を踏まえて、作戦の立案に入る。夜明けまであと2時間30分。最低でもあと30分で仕上げなければ時間が無くなる。よろしく頼む。」


 「スサノオ」の言葉に、全員の緊張が高まる。


 その後、実際の工程スケジュールがたてられた。

 その間、ミノルフに特別な通信が入り、他の者に分からないように、精神波通信が行われた。


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