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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第7章 追撃のツインネック・モンストラム
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第91話 集結

 日の出まであと3時間。

 それが最短でツインネック・モンストラムが追いつく推定時刻。


「何とか許可が出た。この車両をあのデカイ運搬車にあげてくれるようだ。」


 幌付きの小型兵員輸送車の前面の運転用座席の国軍兵士から耳打ちされたダダラフィンが、後部の座席に座るメンバーとミノルフ、ペガサスに告げた。


 デザートストームが現場に向かうために乗っていた、大型の輸送車両を乗せるスペースは流石になかったが、他に散っている小型の車両は出来るだけ集めるべきだ。

 そう言って、総合指令である「スサノオ」に助言を入れたのは、そのダダラフィンであった。


 できうる限り戦力は集中した方がいい。

 さらに、敵の狙いがこの「天の恵み」であるのであれば、防御する部隊もその近辺に集中すべきだし、それ以上に、移動しているこの「天の恵み」回収用搬送車から無駄に離れる愚は犯すべきではなかった。


 また、一度今残っている戦力の再編、並びに連携を整える必要がある。


 今までの「天の恵み」回収作戦であれば、基本「魔物」掃討を冒険者が、「天の恵み」回収事態を国軍が担当してきた。

 騎士団が召集されるときは国軍の警護、並びに強大な「魔物」に対する組織的討伐が求められた。

 だが、今の状況は、もともと招集された戦力の30%を物理的に失い、さらに残った半分の戦力を国内の叛乱鎮圧のために早急に戻してしまった。


 残った戦力を有機的に運用できなければ、全滅もあり得る事態に陥ってしまった。

 そして残った兵力には、まだ戦闘経験の少ない学生たち、もともと組織的な戦いの必要なかった冒険者が多数いるという事がよりこの問題を速やかに解決する必要があった。


 特に「特例魔導士」であることに自尊心の高い学生が、歴戦の冒険者たちを馬鹿にする態度を見せているという事が厄介だった。


 余裕のある時はそういう学生を離すことで一応の鎮静化を見た。


 皮肉なことに自尊心の強い学生は、そこそこ「魔導力」が高いものに多い。

 さらに、なまじ学生のオオネスカのチームが活躍してしまった事に、嫉妬心を強く持つ者もいる。


 ダダラフィン達は彼ら、オオネスカのチームが特別だということが分かっている。

 だが、同じ学校で、今まで模擬戦をやってきた他のチームの中には、実戦で花開いた彼女たちの実力を分かっていない者も多くいるはずだ。


 今回の総力戦において、そういった敵も含めた他者の実力を正確に判断できぬものの存在は、敵よりも厄介だ。

 しかもほぼ初戦に近いものは、出来れば今回の戦力から除外して欲しいというのが、歴戦の実力者の集団であるデザートストームのメンバー全ての想いであった。


 だが、使える戦力を使わない、と言う判断は上層部がするはずがなかった。

 正確には、今回のような戦闘は、ここに居るすべての人間にとって初めてに近いとダダラフィンは考えていた。

 思ってる自分でさえも、初めてだ。

 集団戦という事なら、このメンバーで「魔物」相手には闘ってきているが、規模の違いは明白だった。


 ダダラフィン達を乗せた輸送車が「天の恵み」回収用搬送車と並走している。


 その前に搬送車から搭載用のプレートが伸びてきて地面を引きずるように接地している。


 自動操縦で搬送車と同調している輸送車がそのまま速度を上げ、そのプレートに前輪を乗り上げるように進んだ。

 全輪駆動の車両はプレートに乗った瞬間、ガクンと振動したと同時に一気にその坂を上り、車輪止めのところで急停止した。

 その停車した場所がスライドして、搬送車内に格納された。


 格納された後、ダダラフィン達は輸送車から降りた。

 8時間以上座りっぱなしだったので、各々身体を伸ばしたり、軽くストレッチをしている。


「体を動かさないというのは、結構きついな。」


 バンスが体を伸ばしながら、そう愚痴をこぼした。


「ペガサスは降ろせるか?」


「ああ、大丈夫ですよ、師匠。ペガサスも、こんな狭いところに長時間いるのは初めてですからね。かなりご機嫌斜めだ。」


(まったくだ。人は良くもこんな狭いところに居られるもんだ。尊敬するよ)


「まあ、元気そうで何よりだ。一人で出られるか。もしダメそうなら、この幌を外させるから。」


(大丈夫だよ、ダダラフィン)


 そういうとペガサスの首が後部座席から出てきた。

 そのまま縁を越えて体を器用に外に出してきた。そのまま体を伸ばす。


(とりあえず、広いとこに出られて助かったよ)


 全員が外に出てそのまま後部の仮設の座席に向かった。


 後部監視用兼運転操縦席の国軍兵士に敬礼し、その奥から上部の仮設席へ。


 メノカナ曹長が立ち上がり敬礼した。

 さすがに体の大きいペガサスはこの搬送車内で待っている。

 ほかのメンバーとミノルフがオオネスカたちに再会した。


「お疲れさま、みんな。エンジェルの具合はどうだい。」


 オオネスカが立ち上がる。

 今はすでにツインネック・モンストラムに対しての監視役から解放されたオービットも横で休憩していた。


「ああ、いいよ、オオネスカ。体は休めていてくれ。」


「ありがとうございます。エンジェルの調子は大丈夫です。今はすぐにでも飛びたがって、抑えるのが大変。」


(人を良識のない若者のように言うなよ、お嬢)


 エンジェルがそう文句を伝えてくる。奥で体を曲げていたエンジェルが長い首を持ち上げて、この仮説シートに来たものに軽く挨拶をしていた。


「もうしばらくすると、奴に対する対応を上が提示してくると思う。今ここにある戦力をすべて奴にぶつける形になるはずだ。君たちはこの句の未来を背負っている。無茶はせんようにな。」


 ダダラフィンは、オオネスカたちにそう語った。


「生き残ること。それが勝利だ。」


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