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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第1章 「天の恵み」回収作戦 前夜
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第9話 「天の恵み」回収作戦の意味

「それだけの戦力をつぎ込む意味は、一体どこにあるんでしょうか?」


 ブルックスはミノルフの今回の作戦行動計画の概略を聞きながら、最大の疑問をぶつけた。

 養成学校の学生はまだ兵士ではないのだ。

 たとえその「魔導力」が遥かに大きいものであったとしても…。

 その実戦経験のない、スペックだけは高い優秀な学生の大半を戦地に向かわせる意味が知りたかった。


 ミノルフは真剣にアルクネメを心配しているブルックスの質問にどこまで踏み込んで答えるべきか思案した。

 そして、不安を増長させない程度の答えを決めた。


「今回の一番の問題点は、この「天の恵み」の着地地点だ。よりによって「魔物」の巣窟として名高いガンジルク山の中腹辺りに落下している。この位置まで巨大な「天の恵み」運搬車両を持ち込まなければならない。当然ガンジルク山の「魔物」達が邪魔なわけだ。最大限、これを討伐しなければならない。もっともガンジルク山が「魔物」の巣窟だと言っても、あの山にいる動植物全てが「魔物」という訳ではない。よくて1割くらいだろう。だが確実に我々を喰らうために集まってくることから、別動隊を編成して、寄ってくる「魔物」を拡散させるというのが、今回の主目的だ。」


「それは今ミノルフ殿の説明で理解できるのですが、「天の恵み」には、人はいないはずです。ですが、今回のこの「リクエスト」は最速・最大戦力という意志が見受けられます。何故、そんなに急ぐのでしょうか?」


 質問するブルックスと、心配を懸命に隠そうとする女性兵士アルクネメ。


 そう、我々にとっても最大の疑問、「天の恵み」とは、何なのか?


「ここからは俺の推測にしかすぎん。俺たちシリウス騎士団は、今まで数多くの「リクエスト」を達成してきた。今回のように「天の恵み」回収というのもあったんだが、ここまで大きな戦力をつぎ込むものではなかった。まあ、落ちた場所の問題はあるにせよ、今回の戦力は大きすぎると俺も思う。そこから引き出される答えなんだが…。」


 ミノルフの言葉を待つ二人。その二人を見て、やはり当初の答えで押し通すことを決める。


「今回の「天の恵み」に「バベルの塔」にとって必須の物があり、早急に必要。もしくは「天の恵み」に積まれている積み荷が「魔物」に対して悪影響を与える可能性が高い。その為の最速での回収。そう言ったところではないかと思う。」


 微妙にミノルフの言葉の歯切れが悪い。

 当然のようにミノルフの心は鉄壁と言える防御がかかっていて、その心根を読むことがブルックスにはできなかったが…。


 ミノルフは、もっと悪い状態を考えていた。

 今回の落下位置が巧妙に仕組まれたものだとしたら。

 そして、その対策としての実戦力の強化、底上げを「バベルの塔」管理機構が考えているとしたら。

 多少の才能を失ったとしても、生き残った才能がそれ以上に機能すればいいと考えているとしたら。


 ミノルフは自分の中の猜疑心をとりあえず抑え込んだ。


「もうすぐお嬢さんの家族も到着するんじゃないのかい?ゆっくり食事をとって、しっかりと寝ておきなさい。作戦行動は日の出より開始されることになっている。」


「はい、ミノルフ騎士殿。」


「ブルックスは、このお嬢さんと一緒にいるのかい?」


「はい、見送りたいと思っています。」


 ミノルフはこの二人が無事再会できるように心の中で願った。

 自分はこの大部隊の総合指揮官のような立場になる。

 一兵卒のことだけを考えることはできない。

 この少女の力と運を信じるしかなかった。


「私は騎士団に戻る。何かあれば遠慮なく言ってくれ、アルクネメ「特例魔導士」。」


「はい、ありがとうございます。」


 ミノルフは後ろ髪を引かれる想いで二人に背を向けた。



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