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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第7章 追撃のツインネック・モンストラム
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第89話 オオネスカの焦り

 オービットはこの1時間にわたり、ツインネック・モンストラムの動態を監視し続けていた。

 その傍らにサムシンクがいる。

 現状では周りに「魔物」達は認められていないが、かなり「探索」にその「魔導力」を割いているオービットを守るために周囲に気を配ってる。


 他のメンバーは食事をとり、交互に睡眠をとっていた。


 数時間後、もう間違いなくあの化け物、ツインネック・モンストラムとの戦闘が始まる。


 このままオービットが「探索」を続けることは、貴重な戦力を失う危険がある。

 上層部としてはあと数十分、状況を監視してくれれば、他の「探索士」並びに工学的な機械によってツインネック・モンストラムの動向の監視が可能になることから、オービットに無理を承知で「探索」を続けさせている状態である。


 実際には「バベルの塔」管轄の「天の目」と言う設備があるらしいが、簡単に使えるものではないらしい。

 そして王都で起こっている騒乱と相まって、「バベルの塔」の完全なバックアップが期待できない状態であった。


「奴の速度は変わってないわ。遅くもならない代わりに、早くもなってない。でも確実にこの搬送車より早い。今の所、距離は35㎞と言ったところ。ただ、奴に引きずられたのか、奴の後方に徐々に他の「魔物」達が集まり始めてきている。それが何を意味するのかは分からないけど…。」


 オービットがそう報告をした。

 メノカナ曹長はその内容を、軍専用の通信で司令車に遅滞なく送る。


「このオオノイワ大平原にはそこそこ植物はあるけど、「テレム」濃度自体は決して高くない。あの化け物は別にしても、他の「魔物」達が集まる理由が判らないわ。」


 オオネスカがオービットに問いかける形で口を開いた。

 他のメンバーは無理矢理睡眠をとろうとしてる。

 これからの戦いのために、少しでも力を貯めねばならない。

 皆、そういう思いであった。


 ガンジルク山での戦いで力を発揮した「テレム発生器」は、この地では役に立つかどうか、正直わからなかった。

 植物群が少ないことから、「テレム」自身が少ないことは解ってる。

 ただ、この「テレム発生器」は「テレム」の原料があれば、「テレム」を発生することが出来る。

 問題は、ここにその原料たる物質があるかどうかが分からない、という事だ。

 ユスリフル野営地では、かなり効果を発揮した。

 そしてそれが、彼らオオネスカチームの力を、アルクネメの才能を開花させたのである。


 万が一、「魔物」達がツインネック・モンストラムの意志のもと集まっているとすれば、あの化け物のスピードより速い「魔物」達がいる。

 長距離をそのスピードで走り続けるかどうかという問題もある。

 今から5時間後をめどに、この「天の恵み」回収作戦部隊の上層部が対抗策を提示する。

 その策がどこまで有効か分からないが、どのみちここにある戦力をすべて使用した総力戦になるのは避けられない。


 今、このキャラバンにいるものは、皆その思いを胸に抱いていた。


 先の戦いには、実質オオネスカチームとミノルフのみの参加だった。

 「テレム」がほぼない状態で戦えるのは「テレム発生器」を持つ者だけだったからだ。

 そして戦い方も、基本「天の恵み」をガンジルク山から逃がすための時間稼ぎだった。


 だが、今回はツインネック・モンストラムを倒さねばならない。

 まともに剣が刺さらない皮を持つ敵に対してどうやって戦うのか。

 皆、不安であった。


 だが、先の戦いでは小型飛翔機の爆発と言う不測の事態により、ツインネック・モンストラムの一つの首が爆散した。

 そう、方法はある筈なのだ。


 オオネスカは上層部を信用して、その指示に従うだけだ、と自分に言い聞かせていた。


「あまり力を入れすぎないようにね、オオネ。」


「ありがとう、オーブ。」


 オービットは周りの環境にも気配をうかがいながら、オオネスカの緊張も伝わってきていた。

 直接戦ったオオネスカにしてみれば、文字通り刃が立たない相手に対してどう戦えばいいか、焦りがあっても仕方ない。


「オオネ、あなたもそうだけど、アルクやマリオの能力の高さ、凄いわね。私達「特例魔導士」なんて言われてるけど、実際にあれほどの「魔導力」を見せつけられると、嫉妬心が込み上げてきちゃうわ。」


「アスカも似たようなことを私に言って来たけど、私からしたら、オーブやアスカはこの学校に入った時から恐ろしく高い能力を発揮しているじゃない。いまやっている「探索」にしても、これだけ広範囲に対して効果を出せる「探索士」はいないと思うわ。」


 軽く笑みを浮かべる。

 それはその能力の裏付けのある自信だった。


「オオネ、アルク、そしてマリオのツインネック・モンストラムとの死闘を見せられて、自分の力のちっぽけさを改めて感じたのよ。ありがとう、私をチームに誘ってくれて。」


「何を言ってるの、オーブ。あなたが私と一緒に戦ってくれるから、敵を先に見つけて勝つことが出来てきたんじゃないの。」


 そう、学内の模擬戦である程度の成績を残せたことは、オービットの索敵能力に負うことが多い。

 ただ、他のメンバーがその能力についていけなかったため、負けたこともあったのだが。


「私の見た目と、能力に反感を感じる人が多かったから、浮いてたからね。オオネに誘われた時は、おかしな人と思ったよ。」


「確かにオーブは浮いてたね。でも、「探索」の能力はピカ一。誰も誘ってなかったから、単純にラッキーと思ったよ。」


「そのせいで、あの時のチームで随一の剣士、ディアムロ・パーカーとぶつかっちゃって。あの時も私を守ってくれて…。結局ディアムロがこのチームを出て行っちゃったから、申し訳なかった。」


 少し昔のその事件を思い出したように、オービットはしみじみと語った。


「あれは間違いなくディアムロが馬鹿だっただけ。あなたの指示を無視して、みすみす相手の罠にはまったんだから。それをさもオーブのせいにした時は流石に頭に来たわよ。いくら、あの時の学年1の剣士だとしてもね。その自分の強さに酔った結果でしょう。どちらを取るかと言えば、当然オーブよ。でも、今そんなことを言っちゃいけないのかもね。」


 ディアムロ・パーカーはリジングチームに所属していた。

 今はオオネスカと共にいるサムシンクがいたチームだ。

 ユスリフル野営地戦で、リジングもディアムロも「魔物」達に殺されている。


 サムシンクの言葉によれば、功を焦ったディアムロがモンキー級の「魔物」狩りに熱中し、タイガー級にあっさり食われたそうだ。

 リジングはそんなディアムロを助けようとして、タイガー級の牙の餌食になった。

 サムシンクの目の前で…。

 肩の負傷はその時の隊が急に襲われたためである。

 死を意識した時、そのタイガー級を殴り殺したのが、マリオネットだった。


「あんな形で私たちのチームを去ったから自分のチームを作ると思ったけど、オーブとの件は学年で知らないものはなかったからね。結局優しいリジングに拾われたみたいだった。実力はあるからリジングのチームは模擬戦では強かったけど…。」


 オオネスカはその後を続けなかった。

 実戦で、いかに連携が必要か。

 オオネスカは嫌と言うほど思い知らされた一件であった。


「そろそろ時間よ、オーブ。少し休んで。」


 ちょうどメノカナ曹長がくるところだった。


「こちらでツインネック・モンストラムの動向を察知出来ました。オービット卿はしっかりとお休みください。」


「メノカナ曹長、前から言ってますが、私たちはまだ学生です。卿付けは…。」


「了解です、オービット卿。」


 オービットは諦めた。

 オオネスカが笑みを浮かべて、その肩をそっと叩いた。


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