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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第7章 追撃のツインネック・モンストラム
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第88話 化け物退治の会議

「オオネスカのところのオービットの報告か。無視できん情報だな。」


 ツインネック・モンストラムがこちらを追って来ているという報告は、この戦闘指令車の中で、驚きをもって報われた。


「まだ生きていたのはいい。首がもう一本あるのはそのためだろう。だが、何故、この「天の恵み」を追いかけてくるんだ?」


 エルドメリ中将は、この報告に対して、そう疑問を投げかけた。


「「魔物」が何を考えているかなんて、我々にはわかりません。中将殿。だが、実際にこちらを追いかけているとすると、目的はこの「天の恵み」を置いて他にはありません。」


 賢者「サルトル」は落ち着いた口調で、いささか興奮気味の軍人に口を開いた。


「これが、オービットの間違いならよかったのですが、「バベルの塔」の情報からも、間違いなく奴が追って来ています。」


 戦闘指令車内の大型モニターに、走るツインネック・モンストラムが映っている。

 このキャラバンまでの距離はおよそ40㎞。


「こちらの速度を上げることはできませんか?」


 バイエル准将が「スサノオ」に視線を移し、一番簡単と思える方法を提示した。


 力なく「スサノオ」の首が横に振られた。


「現在、この運搬車自体の最高速度は時速に換算して60㎞/hが限界です。それでなくとも巨大な車両ですから。そこに「天の恵み」が載っている。固定用のアームやワイヤーで抑えてると言っても、極端な方向変換すれば簡単に転がってしまいます。交易ロードのような整備された道路ならまだしも、平地とはいえ、これだけ地面に凹凸があっては、20㎞/hでさえ、危険速度です。」


 車両を管理している国軍整備兵アサルト准尉が説明した。

 その意見に、苦い表情を浮かべるバイエル准将に、「カエサル」は冷ややかな視線を送った。


 今のところ、「天の目」から送られてくる状況の映像は、絶望的な未来を暗示しているようだ。

 「カエサル」先程のエルドメリ中将がいみじくも語った疑問を思い出す。


 なぜ、奴はこの「天の恵み」を追いかけてくるんだ。


 奴との戦いから6時間しか過ぎていない。

 仮に首を飛ばされ倒れた後、体液が流れるのを止め、その首のあった場所を皮膚が再生し、さらに使い切ったはずの「テレム」を急速に充填が出来たとしても、あの巨体をこの運搬車より早く動かすことが、そもそもできるのか。

 あいつが現れ、アクエリアス別動隊に攻撃を仕掛けたのち、反転して「天の恵み」を目指していた。

 その時の歩みなど、あの巨体通りの鈍重さであったはずだ。

 とても20km/h以上のスピードを出していたようには、「カエサル」には思えなかった。


 何か、我々が見過ごしていることがあるのか?


「早ければ、8時間後には奴、ツインネック・モンストラムがこの運搬車を捉えると思われます。」


 「サルトル」が告げた。


「8時間で追いつくのか…。」


 バイエルが虚空を見るように天井を仰いだ。


「そこで、我々の対応をどうするか、検討を行う必要があります。奴の体力、「魔導力」、「テレム」がどのくらい持つのかは全く不明ですが、一点だけ、有利な点が考えられます。」


 その言葉に、賢者以外が驚いたように「サルトル」を見た。


「ツインネック・モンストラムが見えない攻撃を今回は使えないものと思われます。」


 「サルトル」の言葉に、司令車内が静かになった。

 誰も何も言わないことが、その理由を急かしている


「あの見えない攻撃、「レーザー」と言われる攻撃ですが、攻撃力を高めるにはかなりの時間と「テレム」が必要であることはご存じのことと思います。

 今回のツインネック・モンストラムの行動は、異常だとは思いますが、その結果、大量の「テレム」を使用している筈です。

 この平原という「テレム」の少ないところであの巨体を動かすというだけで、「テレム」の供給量より放出量が大きいのは明らかです。

 「レーザー」を使用するための、「テレム」を持っているとは考えにくいという事です。」


「確かに、そのレーザーとやらを使う前の奴の動きは、今ここを追ってきている動きと雲泥の差があった。基本的には「テレム」と「魔導力」を使って、巨体を支えていると考える方が理にかなう。であれば、ここまでは追いつけないのではないか?」


 バイエル准将が希望的な見解を述べる。

 誰もがそうあって欲しいと思っていることだ。


「その可能性も高いとは思います。ですが、奴がこの「天の恵み」回収用搬送車を追いかけているのであれば、追いついたときのこちらの対応は考えなければなりません。ただ、その状況、つまり先程述べた理由で、レーザー攻撃が可能とは思えません。選択肢は絞れると思います。」


「「サルトル」の見解はかなり可能性が高いと、私も思う。仮に奴がレーザーを打てるのであれば、我々は何も出来ずに「天の恵み」が真っ二つに割られて、すべてが水泡に帰す結果になる。最初のレーザーの実効射程は、ゆうに1㎞を超えていた。撃てるのであれば我々はいきなり、負けとなる。考えても仕方のないことだ。」


 「スサノオ」が「サルトル」の補足をした。


「さて、最短で8時間後にまたツインネック・モンストラムの姿を拝むことななる。今から6時間後に対策を伝える。それまで君たちも、兵の諸君もしっかりと休んでくれ。先程と異なり、戦えるものはすべて参加してもらう総力戦となる。以上。」


 「スサノオ」がそう言い切り、賢者以外の参加者は持ち場に戻る。

 と言っても、この戦闘装甲司令車は「天の恵み」回収用搬送車に乗っていて、各自も搬送車上に積み込まれた状態の戦闘装甲司令車に戻るだけだった。


「さて、我々で、できうる限りの対抗策を絞り出すか。」


 「スサノオ」の言葉に他の賢者も頷いた。

 そして、この「天の恵み」に積載されている様々な物資のリストを開き、検討を開始した。


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