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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第84話 叛乱の後

「生存者の救助を最優先で!できれば「バベルの塔」の装備を借りてもらえると助かる。」


 シリウス騎士団第3大隊副長の肩書を持つオズマが混乱する王宮の中を部下を統率しながら、駆け巡っていた。


 飛竜隊のサンドラも上空から生存者の探索を受け持っている。


 国軍は叛乱軍に対しての包囲戦を仕掛ける途中で、王宮の半分が崩落するという事態に、うまく対応できていない。


 当然、まだ叛乱を起こした武力勢力がいるのである。

 救助活動をしている最中に襲われたら、有効な対応が取れない。


 幸か不幸か、このシリウス騎士団は、その団長がこのクーデターの首謀者であり、後方での監視付きでの待機状態であった。

 そのため、この混乱の中、半ば強引に、救助活動を開始したわけである。


 探索の結果、壊れていない王宮の北側に、王宮で働く職員たちと叛乱軍の一部がいることは判明している。

 その騎士たちがどの程度の洗脳を受けているかはわからなかったが、その騎士たちに即時武装解除を勧告すると、あっさりとそれに応じた。


 問題は崩落した王宮部分である。

 生存者がいることは判明しているし、重傷者も多数いる。

 そして数名の王族の生存が確認された。

 ただし、そのそばに叛乱を起こした騎士たちもいるそうなのだ。

 どうも地下の待避所らしい。


 その待避所まで救助を行うには、崩落したがれきの撤去が必要だ。

 ただし、この作業にはどうしても大音響と衝撃が付きまとう。

 監視のための騎士たちの洗脳がその衝撃でとけていればいいが、もし、その作業によりパニック状態に陥ろうものなら、何をしでかすかわからない。

 すでに国王を殺害している集団である。

 慎重な対応が必要だ。


【国軍からです。「バベルの塔」から、至急必要な装備を出すとのことです】


「了解だ。」


 オズマはプレート見ながら、地下待避所の位置を確認した。


 監視要員は3人というところか。

 王族と付き人が10人程度。

 死傷者は今のところなし。


 プレート上からはその程度の情報しか、見ることが出来ない。


 瓦礫は「魔道工具」を用いて慎重に撤去しているが、大きめの瓦礫を数人がかりで「魔導力」を使っての除去は時間も体力も奪っていく。

 通常は土木対応の工士が、一挙に移動させていくのだが、専用の工具の調達もままならない状況だ。


 瓦礫を見つめているオズマのそばに国軍兵士が近づいてきた。


 胸に付けているエンブレムは「バベルの塔」直轄の印。


「「バベルの塔」直轄防衛隊のヒガシ少尉です。オズマ臨時団長代行殿ですね。」


 知らないうちに大仰な肩書になったな、とため息を漏らしつつ、敬礼した兵士に頷く。


「こちらが「バベルの塔」から貸与された装備のリストです。それと…。」


 リストが並ぶプレートを渡される。

 すぐに画面が切り替わった。


「現在、王族一家を監視している3人の情報です。」


 何処からそんなものを?とおもいながら、受け取ったその画面に3人の名前と所属が記されていた。


 2人の名を見て、こいつらは大丈夫だと思ったが、あとの一人、第1大隊のユングの名を見た時に戦慄が走った。


 こいつは、やっかいだな。


 正直な感想だ。アイン団長の熱心な信奉者であることもそうだが、非常に残虐な性格で知られている。

 騎士団の中でも、度々問題を起こし、1度、他の騎士の腕を切り落としている奴だ。

 てっきり、まだ騎士団内の懲罰所に入っていたと思っていたが。


 その考えが顔に出てしまったようだ。


「ユング卿のことを心配してますね。」


「ああ、あいつの良くない噂も、実際にやらかしたことも聞いている。それが王族一家に何もしないとは、とても思えない。」


 そうは言っても、こちらから何ができるか、今のところいい考え会は浮かばない。


 国王の殺害はアイン団長の責任だ。

 しかし、人質同然の王族の安全をないがしろにして、いいわけがなかった。


「もう少しお待ちください。新しい情報が入ってきました。」


 ヒガシ少尉がオズマにそう報告した。


「待避所にいた騎士2名がユング卿を無力化したとの連絡が来ました。二人は王族一家に無礼な態度にとどまらず、暴力を行使したとのことです。騎士二名はこのことをもって、自分たちの叛乱の罪を軽減してほしいとのことです。」


 あの二人がユングを押さえた?

 彼らにそんな根性があったのか。

 とはいえ、待避所の中は限られた閉鎖空間だ。

 ユングが激発して王族を襲うことは充分に考えられる。

 その状態で二人が一か八かの攻勢を判断したとしてもおかしくはないのだが…。


 釈然としない。

 その地下の状況は誰からもたらされた情報なのだろうか?


「王族の担当を長年にわたって担当してきた執事長のオルセイユ子爵様よりの連絡です。信用できる方です。」


 俺の考えは筒抜けってことか?


 ヒガシ少尉の早すぎる情報伝達に少しうさん臭さを感じた。


「にしても、そのオルセイユ殿も一緒の待避所にいるんだろう。どうやって連絡が出来るんだ?」


「ユング卿を無力化した騎士から連絡用のリングで報告が入りました。もともとは叛乱軍用の意思伝達ツールだったようですが、調整して、王都防護隊本部に連絡がきたようです。」


 その情報経路も怪しさで言えばトップクラスであったが、とりあえず王族が無事なことは喜ばしい。


「その二人は投降の意思があるんだな。」


「それは間違いないと思います。」


 とりあえずの問題はクリアしたということか。

 できすぎているが…。


 オズマはふと聞いたことのある噂話を思い出した。


「ヒガシ少尉、一つ質問、いいかな?」


「私で答えられることなら。」


「「バベルの塔」直轄中央防衛隊は、国軍所属にもかかわらず、国軍もその存在を知らされていない「防諜・暗殺」に特化した「魔導士」の部隊があると聞いたことがあるんだが、本当か?」


 探るような目つきが返ってきた。

 しばしの緊張感がにじみ出たが、すぐにその殺気にも似た緊張感は消えた。


「そういう噂は聞いたことは確かにあります。しかし、私はこの防衛隊ではその存在を知りません。単純に私のようなぺーぺーには情報が回ってこないとも考えられますが。」


 平然とそう言ってのけた。


 何とも言えないが、悪い想像をしてしまう。

 国王を実際に刺殺した男。

 シリウス騎士団の野戦服は着ていたが、あんな雰囲気の奴がいただろうかという疑問。


 「特例魔導士」のトライアル少佐が叛乱軍に参加していたことは、目撃証言で明らかだ。

 暗殺行動にかなり特性の強かった人間だと聞いている。

 その部下として叛乱に加担したように見せかけて、内通したものを「バベルの塔」が差し向けていたとしたら。

 さらにその国王殺害の実行者が今度は王族を守るための行動を起こしていたとしたら…。


 このヒガシ少尉の前での考え事は危険であったことを思い出した。


「よし、本格的に瓦礫を撤去させろ。このリストのすべてを使って、可及的速やかに王族の救助をさせてくれ。さらに、王族を守った騎士二名に対しては、罪を問わないことをシリウス騎士団団長代行の名で保証するように伝えてくれ。よろしく頼む。」


「了解しました。」


 敬礼し、踵を返す国軍兵士にオズマは何とも言えない気持ちにさせられていた。




 ヒガシ少尉はオズマ騎士団団長代行の命を各所に伝え、王族の救出を最優先で行うように喚起した。

 関係する「バベルの塔」装備担当者はすぐに行動する旨を返信してきた。


 王宮を囲む国軍兵士も、警戒レベルを下げ、負傷者の救助を最優先にしている。


 シリウス騎士団叛乱部隊に属する騎士二名により、国王以外の王族を守ったことは、今後のシリウス騎士団にとっては、多少、汚名の返上に役立つだろう。


 すでに戦地でのシリウス別動隊を指揮するミノルフ卿の活躍も耳に届いている。


 ただ、精神感応能力が高いヒガシ少尉は多少の思考シールドでは役に立たないほどのテレパシストであった。

 つまり、オズマの思考を完全に読み取っていたのである。


「あの洞察力、恐れ入ったよ。何も証拠がないから、大事には至らないとは思うが…。一応監視対象には加えておいた方がいいか。」


 ヒガシ少尉はそう呟くと、ある機関に連絡した。



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