第83話 「ランスロット」vs アイン 決着
アインは自分の前に3体の幻体を動かす。
「ランスロット」はアインの動きに興味があるようで、動く気配がない。
正確には「ランスロット」はアインの潜在的な能力の高さに圧倒されていた。
「幻体」を先に出現させたのは「ランスロット」自身である。
だがその方法を見ただけで忠実に再現して見せたアイン。
その幻体を動かすことが出来るのか、それも高速で動かし、こちらに攻撃を行うことが出来るのか。
「ランスロット」は見極めるつもりであった。
アインはその自分自身の姿形をした幻体を少しずつその移動速度を速めていき、左右の幻体を広がるように走らせ、「ランスロット」を3方から囲む形に展開、剣を構えた。
その3体が一気に「ランスロット」に迫った。
剣が動き、「ランスロット」に切りかかる。
その剣筋を冷静に見切り、「ランスロット」に触れることはなかった。
だが、すぐに剣を繰り返し「ランスロット」に向ける。その速度は徐々に増していく。
ついに「ランスロット」はしのぎ切れず、後ろに跳んだ。
直後、3体の幻体を飛び越えるアイン。
そのまま上段からロングソードを「ランスロット」に放ってきた。
「ランスロット」は着地すると同時に、すぐに右に跳ぶ。
その横をアインの剣から伸びた光が「ランスロット」のいた場所を、通路の金属を抉るように切り裂いた。
「ランスロット」の身体はギリギリでその剣戟をかわした。
「幻体を出現させるだけでなく、連携まで…。しかも「天の恵み」の装甲にも使われているこの床を抉る…。アインの力は、才能は、素晴らしい。」
着地したアインはすぐに剣を「ランスロット」に向け一閃。
「ランスロット」は避け切れないと判断した。
すぐに左腕を掲げ障壁を展開した。
アインの剣が「ランスロット」の障壁と接触。
「ランスロット」の意識はすでに右から迫ってくる幻体にむけられ、防御態勢に移ろうとした。
今までなら弾いていたアインの剣。
だが、今回のアインの剣の鋭さ、破壊力は「ランスロット」の障壁を正面から切り込んでいく。
気付いたときには「ランスロット」の左腕が宙に舞っていた。
左腕を切断された瞬間には、「ランスロット」はアインの剣を回避するために、跳んでいた。
宙を舞う自らの左腕を右手でつかみ、すぐさま切断面に密着させた。
アインの剣は「ランスロット」の左腕を切り飛ばしたが、本体には掠らせることもできなかった。
だが、3体の幻体がすぐに「ランスロット」を追い、宙に飛び出した。
左腕を再生処置をした「ランスロット」は、追ってくる幻体に視線が飛ぶ。
その視線の動きだけで、「ランスロット」は反撃をしたことにアインは気付いた。
3体の幻体の後方に光が出現した。
そのまま、3体すべての幻体を背中から貫いた。
貫かれたアインの姿をした幻体は、一瞬で霧散した。
アインが立ち上がる。
「ランスロット」も着地して、アインと相対した。
「幻体まで使いこなし、私の障壁をたやすく切り開く。凄まじい成長速度だ、アイン。」
そう言って切り裂かれた左腕のシャツを綺麗に修復した。
「幻体は核となる自分の成分を中心に、「テレム」で構成されている。この空間が高濃度の「テレム」で満たされていて初めて使える技だが…。一度見ただけで、連携ができるまで使いこなすとは、ね。」
「俺も5体作ろうとしたが、3体が限界だった。貴様の身体はどうなっているんだ、「ランスロット」。切断した腕も苦も無く再生させやがって。まあ、切られてすぐに修復が出来るなら、俺のような失血状態にはならないだろうが。」
「単純に経験の差だよ。もう、先ほど見せた光弾の出現なんかもわかっているんだろう。別に剣を射出機とする必要がないことも。」
アインが軽く笑った。
この会話している最中に、何度もやっていた。
それを出現する前にすべて防がれている。
正面切って使えるのは剣だけであるようだ。
「ランスロット」が見せている技をすぐに使えたところで、奇襲的に使わなければすぐに潰される。
「そうだね、君の考えているように、奇襲的に使わないと、ね。」
その言葉と同時に、剣を持つ右腕が破裂して剣ごと床に落ちた。
「君の中にも「テレム」があるからね。こういう使い方もある。」
切断された欠損ではない。
先のように切断面は綺麗でないから、再生は不可能と判断。
失血を防ぐためにその流血している部分に集中する。
微かな光と共に出血は止まり、皮膚が再生されていく。
「ほおー。」
「ランスロット」が驚嘆の声を出す。
アインは床に転がった剣をすぐに左手でつかみ、「ランスロット」に投げつけた。
と同時に跳ぶ。
「ランスロット」の身体が急にぶれ始め、3つに分裂した。
その中央の「ランスロット」目掛けて、剣が突き進む。
障壁が二重に展開される。
宙から「ランスロット」に襲い掛かろうとして、目標の分裂に瞬間、迷いが出る。
が、すぐに光弾を分裂した二人の「ランスロット」に注ぎ、中央に狙いを定めた。
投げられた剣は二重の障壁を破壊できたが、「ランスロット」には辿り着けなかった。
両脇の「ランスロット」は障壁で光弾を阻み、左右に散った。
中央の「ランスロット」は上から来るアインに対して、飛んできた剣を掴んでそのまま突き出す。
アインはその剣先をよけて左手を「ランスロット」の肩を掴んだ。
「爆ぜろ!」
自分の命と引き換えに、「ランスロット」の本体を消し去ろうとした。
既にアインは「ランスロット」と接触したことで自分の身体も引きちぎられることを覚悟していた。
それでも、この傲慢な男を道連れにするつもりだった。
「ランスロット」の身体が、膨れ上がり爆発した。
終わった、という気持ちと自分の身体に異常がないことに不信に思いながら、着地した。
グサッ。
肉を突き刺す音がアインの耳に届く。
アインが音のした自分の上半身に目を向ける。
自分の胸と腹から剣が生えているように見えた。
後ろを振り向くと、2体の「ランスロット」の幻体が剣を背中から突き刺していた。
その真ん中に、確かにバラバラになった「ランスロット」の身体があった。
「な、何で…、本体を、倒し…。」
剣が突き刺さった状態で、前に倒れていく。
二人の「ランスロット」が融合していく。
「これは、幻体ではないんだ、アイン。」
アインの横に移動した「ランスロット」が呟くように言った。
「今の3人の私は、すべて本物なんだよ、アイン。幻体のように自分の細胞を核にした作り物ではなかった。」
「ランスロット」は、落ちていたマントを取り、うつぶせに倒れているアインに近づく。
もう、目しか動かせないほど体から力が抜けている。
「君の技術を吸収する速さは尋常じゃなかったからね。新しい技を使わせてもらった。しかも、その前に幻体を使ったからね。完全にだますことが出来た。そうでもしないと、君には勝てなかった。済まなかったね。」
既に、答えはない。
まだ息はしているようだが…。
「ランスロット」は、持っているマントをアインにかけ、そのままとどめを刺した。




