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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第81話 激情のアイン

 アインは今、しっかりと2本の脚で立ち上がり、「ランスロット」に歩み寄ってきていた。


「戯言を!おかしいと思った。何故ティンタジェル国王が殺されねばならなかったのか?国王を刺したあの男はお前たちの差し金だな?」


「さすがだよ、アイン。正解だ。」


 その瞬間、「ランスロット」のいた場所に光が爆発した。

 しかしそこには「ランスロット」の姿はなく、「ランスロット」が持っていた、アインの剣が転がっていた。


 アインは素早くその剣を拾い上げ、周りを「探索」しながら、この通路の端を背に辺りをうかがう。


「見事なものだ。光爆発現象か。私に周りの空気に圧を掛け、通路に使われている金属原子を発光させたか。さて、剣を手にしただけで、この賢者「ランスロット」を倒すことが出来るかな?」


 アインは声のする方を見上げた。

 中空に白く輝く円盤状のものに乗っている「ランスロット」が、穏やかな微笑みをして、アインを見下ろしている。


 アインは今、この通路に入ってきた時より、身体に力が漲っている。


「当然だ。この悪魔ような塔の住人は、すべて消えてもらう。」


 アインはそう静かに宣言した。


 不意に「ランスロット」の両脇から光の剣が襲い掛かる。


 少し驚いた顔の「ランスロット」が、足元の光の円盤を消し、そのまま着地した。


 瞬間、「ランスロット」の目の前に光が炸裂した。

 「ランスロット」の視界が城に染まる。


 その中からアインの剣が突き出された。


「ランスロット」は纏っていた黄色のマントを宙に舞わせ、そのままもんどりを打つように後ろに回転してよけた。


 避け切ったかに見えた「ランスロット」の胸部の白いシャツにわずかの切れ目と、赤い染みが広がっていく。


 その刹那、激痛が「ランスロット」を襲った。


 軽く切られたはずの胸部が徐々に塵となって消え始めた。


「忘れていたよ、分子間力無効現象を使えるようになっていたんだよね。」


 分子間力。この世界を形作るものの最小単位である分子。この分子同士は様々な力でお互いに影響を与えているが、分子同士の結合を司っているのが分子間力。言葉通り、分子の間に働いている力である。この分子間力を無効にされると、その分子はお互いに支える力を失い、分子が散り散りに離れていく。


 この攻撃は「ランスロット」にも有効らしい。

 つまり、実在するからだということだ。


 「ランスロット」はそのまま後方に飛び、アインと距離を置く。


 いや、置こうとした。


 それを許さないように、アインはさらに剣を「ランスロット」に向け、連続の突きを繰り出す。


 「ランスロット」はその剣をよけながら、激痛を起こしている自分の胸の肉を自らの指を食いこませ、消失を続ける部分をえぐり取った。


 血を滴らせながら、「ランスロット」は指に滴る血しぶきを空中に放った。


 アインはその行為に、一瞬目を奪われ、すぐさま「ランスロット」に向かっていた足を止め、右に飛んだ。


 その血しぶきが急激に大きくなり、「ランスロット」と同じ形をした人が浮かんでいた。


 5体の「ランスロット」が一斉にアインに襲い掛かる。


 最初の一撃を何とかかわしたアインだったが、その5体の「ランスロット」の体には触れていないにもかかわらず、アインの上半身の野戦服が切り刻まれていた。


「私の性質を持つ「幻体」というものだ。私よりは劣るが、しばし相手をしてくれ、アイン。私は自分の体を修復しないとならないのでね。」


 そう言って一歩引き、自分の右手をえぐり取った胸に当てて、「回復」を行い始めた。


「治療ではなく、修復か。やはり、自分の体ではないのだな。」


 5体の「ランスロット」は、その体から、ロングソードを繰り出し、アインに迫っていく。


 アインはその攻撃をかわし、股は剣で払い、凌ぎながら、アインは事実を「ランスロット」に突きつける。


「聡明だな、アイン。さて、弱った体で、どこまで耐えられるかな。」


 アインは自分の体を自分自身で「探索」した。


 全く問題なし。


 アインはそう判断して、迫ってくる5体の「ランスロット」に十分な力を剣に乗せて、横に薙ぎ払った。

 瞬時に後ろに「ランスロット」達が退く。

 だが、さらにアインの剣の射程が伸び、2体の「ランスロット」を完全に両断した。

 さらに一体の腹部を切り裂き、損傷を受けた3体が消えていく。


 続けて、剣から光の弾が「ランスロット」達を襲う。

 2体の「ランスロット」は障壁を展開させつつアインの両脇に周り込み、手刀からの光の剣戟がアインに向かった。


 アインはタイミングをはかり、跳躍をした。

 2体の光の剣はお互いを切り裂き、そのまま消えていった。アインはさらに空間に光の円盤を作り、そこに足をかけさらに跳んだ。


 その先には蹲っていた「ランスロット」本体がいた。


 迫ってくるアインの姿を見上げた「ランスロット」の顔は、しかし焦りの顔ではなかった。

 アインの姿に微笑で迎える「ランスロット」の姿はすでに元にもどっている。

 切られたはずのシャツもすでに穴はなくなっており、血の跡もきれいになくなっていた。

 短く整えられている黒髪で白いシャツとカーキー色のスラックス姿でアインの剣をかいくぐり、立ち上がった。


 アインは先程までいたはずの「ランスロット」の位置に着地した。


 明らかにアインの剣戟は確かに「ランスロット」を捉えていた。

 だが、「ランスロット」は涼しげに立ったまま、アインを見つめていた。


「さて、君も力を取り戻してきたようだし、あまり悠長に話を続けられそうもないが、最後にアイン、君に聞きたいんだが。」


 その言葉を聞くことなく、アインの後方から光弾が次々と「ランスロット」を狙い、放たれていく。


 「ランスロット」は仕方がないというように首を振り、襲ってくる光弾に何らかの力をぶつけたのだろう。

 ことごとくその光弾が消えていく。


 ほんの短い間、アインの顔が歪んだが、続いて剣を金属の地面に突き立て、念を込める。


 次々と波のように地面を揺さぶった。

 が、「ランスロット」自身は全く揺れることがなかった。


「大地まで揺さぶるか、アイン。さすがだよ、でも少し私の話も聞いてもらいたいんでね。」


 「ランスロット」はその場にいるはずなのに、いきなりアインの体に衝撃が走った。


 「ランスロット」が何かしたような気配は全くアインには知覚できなかった。


 アインは立っていることが出来ずに、膝をつく。


「何をされたかは、たぶん理解できないだろう。説明する気も今のところないよ。聞いてもらいたいことがあるんだよ、アイン。」


 アインは息を荒くしながら、右手を胸にあてる。

 直接心臓を止められたような衝撃だった。


「一つ不思議に思っていることがあるんだ。答えてほしい、アイン・ドー・オネスティー。」


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