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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第80話 「ランスロット」の告白 Ⅲ

「なぜ、それを知っている!」


 アインは「ランスロット」の最期の言葉を知っていることに驚愕していた。


「言っただろう、君のことはずっと見守ってきた、と。」


「お前らは、俺を、俺たちの家を何だと思っている?そんな弄ぶような権利を「バベルの塔」は持っているのか!」


 激高したアインが「ランスロット」に掴みかかろうとして立ち上がり、急にふらつき、膝を金属製の床についた。


「まだ、君の身体に血が少ないんだ。急に立ち上がれば、起立性貧血に陥っても仕方ないよ、アイン。」


 「ランスロット」は懐から戦闘食のスティックバーを取り出し、アインに差し出した。


 アインは憎しみの目で「ランスロット」を見て、その戦闘食を振り払おうとして出た手を止め、素直にその戦闘食を受け取る。


 ここは変に意地を張らずに、少しでも体力を蓄えるべきだ。


 アインはそう考えて、戦闘食の袋を乱暴に破り、中のスティック状にした固形物を口の中に入れしかっりと咀嚼し、飲み込んだ。


「さすがだね、アイン。一時の感情に左右されずに、しっかりとやるべきことが分かってる。」


 アインは何も語らず、食事を続ける。


「君たちオネスティー家については、すべては監視の対象だったんだよ。先にも述べたが、アイン、君の遺伝子は「魔導力」が最大限に引き出せるように設定していた。逆にツヴァイは「魔導力」そのものを持たないように、他の技能も平均的になるように設定した。その結果がどうなるか知る必要が「バベルの塔」にとっては、この計画の成否を判定する一つの指標になっているんだよ。」


「貴様の語りで、そのところは薄々感じていた。実験体と、比較対象のためのブランク。そんなとこだろう。だからジムリンドは俺のことを実験体1号などと呼んだのか?」


「ああ、そう言えば、奴はそんなことを言っていたな。そう、まさしく君は1号だ。君は自分の名前の由来を知っているか?」


「いや、聞いた覚えはない。」


「我々の発祥地の古代の言語でね、アインが1、ツヴァイが2という意味になる。そのままだよ、アイン。君が1番目、ツヴァイが2番目。」


「つまり、我々は、お前ら「バベルの塔」の実験動物でしかなかったわけだ。」


「悲しいことを言わないでくれ、アイン。言っただろう、君たちは私たちの可愛い子供たちだ。こういう結果になって、我々は悲しんでいるんだ。」


「ふざけるな!もし本当にそう感じるなら、止めることはいつでもできただろうが!」


「それは甘えというものだろう、アイン。これまでの生き方は君が自分で考えて起こしてきたことだ。そうだろう。」


 アインは黙るしかなかった。

 「特例魔導士」を知らせるあの忌々しいファンファーレがなった時、喜んでいたツヴァイの本心を見誤ってしまったことが、一番の失態だった。

 あの笑顔の下で考えていたことが分かっていれば、やり様もあったのだ、母が死ぬ前に。




 話を続けるよ。


 君は「特例魔導士」などという制度がなければ、このようなオネスティー家の衰退は防げたと考えるようになった。

 さらに「バベルの塔」の存在は、人民の自由を奪っているとも考えたはずだ。


 かなり前から、この「特例魔導士」の制度を廃止するための策を考えていたようだが、この「特例魔導士」の制度は、この国を「魔物」から守るためには、絶対必要だと考える人たちと多く接してきた。


 その結果、国家議会に制度の廃止を促進させることを断念した。多くの人間が、「特例魔導士」の特権的な制度を必ずしも好意的にとらえてはいないという事は知っていても、その制度を無くすことが、このクワイヨン国にとって不利益であるとも認識していたからだ。


 そこで君はクーデターを模索していた。

 少数ながら、自分の考えに賛同する物も出てきた。

 君はあらゆる考えを模索していたはずだ。

 我々が、君の動向をずっと見守っていることも知らずに。


 まだ、完全ではない状態で好機が訪れてしまった。


 そう、今回の「天の恵み」回収作戦だ。君はシリウス騎士団団長という立場を利用して、シリウス騎士団で筆頭騎士であるミノルフを、まず遠ざけた。

 さらにミノルフの息のかかる飛竜隊全てを前線に回そうとしたが、これは失敗したね。

 ミノルフもこの事を心配していたからね。


 この国の半分以上の兵力が国外に移動する。

 しかも最低でも3日間は戻ってこれないとわかれば、多少不完全でも、君の計画を起こすには好機過ぎたようだね。

 ただ、半分は「バベルの塔」の一部勢力がそれを見越しての作戦立案でもあったようだが。


 その通りだよ、アイン。

 君は踊らされてしまったんだ。


 ただ、こちらの誤算は、先にツヴァイをあんな形で斬殺するとは思ってもみなかった。

 ことが終わり、君の目論見通り、短時間でもこの国を掌握できれば、その時にツヴァイを処刑するか、失敗すればこの国家反逆の罪で、ツヴァイも死刑になると踏んで、ツヴァイに対してアクションを起こすと考えてなかったよ。


 君たちは貴重なサンプルなんだよ。

 仕方がないから、ツヴァイの惨殺死体は回収できる限り回収して、今は極低温の標本室に保存している。


 「バベルの塔」は、この事件を最大限利用させてもらうことになった。

 謀反を起こせばどのような結末になるか、国の内外に知らしめようと思っている。


 そのために、君たちがいかにあくどい事をやったかという事を、世間に知ってもらうために、行政府ビルを破壊し、王宮の南半分も爆破させてもらった。

 君たちがやったことにしてね。


 悔しがるのは解るが、君たちがこの「バベルの塔」の破壊という究極の目的を持たず、籠城戦でもしかけられたら、もっと被害は拡大していた。

 違うかな。


 さて、私から話すことはすべて話したと思うんだが、何か質問があれば、答えよう。




「お前たちは人間を何だと思っているんだ?俺たち人間はお前ら「バベルの塔」の住人のおもちゃじゃない!」


 アインは、そう言って立ち上がった。

 先程口にした戦闘食が聞いたのか、体の疲れがそれなりに取れ、貧血も感じなくなっている。


 アインのその顔は、その後の行動を如実に物語っていた。


「我々「バベルの塔」の住人の目的は、君たち人類の安全を守ることだ。その為には、今、どのような誹謗にも耐えるつもりだ。君たちのような「魔導力」を持つ者が増えれば、この国も、他の22ある城壁国家も安全に過ごすことが出来るはずさ。それ以上に、君たち人類の知識、技術、精神がレベルアップすることで、「魔物」そのものを全滅するか、共存も難しくないと信じている。それが「バベルの塔」の存在する意味だ。」


 アインは今、しっかりと2本の脚で立ち上がり、「ランスロット」に歩み寄ってきていた。


「戯言を!おかしいと思った。何故ティンタジェル国王が殺されねばならなかったのか?国王を刺したあの男はお前たちの差し金だな?」


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