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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第1章 「天の恵み」回収作戦 前夜
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第8話 「天の恵み」回収作戦 概要

 アルクネメは懸命に心に壁を作ってこの思いが溢れないようにしながら、ブルックスの持って来てる荷物に視線をさりげなく動かした。


 ブルックスはそんなアルクネメの心を読み取ることはなく、アルクネメの視線の先に目をやる。

 そこには片手にちょうど収まるぐらいの円形の物が数個置いてあった。


「そうだ、これも持ってきたんだ。うちのじいちゃんと父さんでここまで小さくしてくれたから、何とか実用的になったんだけど。」


「なんなの、それ。たぶんブルのことだから、何かの機械だとは思うけど…。」


「これは「テレム」発生器さ。」


「濃縮器ではなく発生させるの、「テレム」を!そんなことできるの?」


 ブルックスがもともと魔道工具士を目指しているのは知っていたアルクネメだが、「テレム」を発生させる装置までも開発してるとは思っていなかった。

 確かに、魔道の基本は本人の才覚と鍛錬だが、その力を伝播する「テレム」は必要不可欠な存在だ。

 「テレム」を自在に発生できるのであれば、魔動力が飛躍的に増大する可能性がある。今までブルックスが手掛けてきたものは、そこにある「テレム」を濃縮することだった。

 それが今は発生することが出来るようになっているなんて! 

 では、なぜさっきの背嚢には発生器を付けず、濃縮器を付けたのだろう?


「そんなに大げさなことではないんだよ、アルク姉さん。この機械の中に、「テレム」を発生させている植物から取り出した「テレムリウム」というものをフィルタに組み込んだだけなんだ。空気を吸入した時に、その材料がしっかり入り込んでくれれば「テレム」は発生するけど、なければ何も起こらないって代物さ。僕のような「魔導力」の小さいものにはあまり使いきれないけど、「魔導力」の大きな人なら、少しの「テレム」でも大きな力を行使できるはずだからね。例えば「特例魔導士」なら。」


「つまり、私たちのチームで使いこなしてみろってことね。」


「そういう事だよ、お嬢ちゃん。」


 急に男性の声がアルクネメの後ろから響いた。

 ブルックスには聞き覚えのある声だった。


「ミノルフ様もこちらだったんですか!」


「ああ、こちらの別動隊の指揮を頼まれてな、ブルックス。だが、俺は飛竜「ペガサス」を使ったからこの時間にここに来れたが、ブルックスはこんなに早くよくここまでたどり着けたな。」


 ミノルフは相変わらず収まりの悪い金の髪をいじりながら、感心していた。


「ええ、植物の油を使用するエンジンで動くハイブリット・バイクをとばしましたので。」


 ブルックスはそう言って、自分の後ろにおいてあるバイクをミノルフに見えるように体を動かした。


「これが噂に聞くエンジンで動く機械か。「リクエスト」時の「バベルの塔」が所有するいろいろな機械は目にしたが、こういう機械は初めてだな。どこで作られたものだ?」


「モンデリヒトで製造されているようです。あの国はこういった機械の製造が得意のようです。」


「確かにそんな話は聞いたことがある。重化学工業都市とかうたってる国だよな。」


 ミノルフとブルックスはバイクの話で盛り上がっていたが、横にいたアルクネメがブルックスの横脇を肘で押して、現状の説明を求めた。


「ああ、ごめんアルク姉さん。こちら、鍛冶屋「ハスケル」で本日剣を納入させていただいた飛翔の騎士・キリングル・ミノルフ様。シリウス騎士団筆頭騎士でしたよね。」


「うん、まあ、そうなんだが。筆頭とかつけられると、ちょっと恥ずかしいな。で、このお嬢さんは?」


「私は、「クワイヨン高等養成教育学校」守護者課程3年の、アルクネメ・オー・エンペロギウスです。ミノルフ騎士殿。」


「そうか、君か。ハスケルの近しい学生は。今更だが、この「リクエスト」の参加は辞退した方がいいぞ。もし何なら私の名前を出してくれてもいい。」


 ミノルフが本当に心配していることがブルックスには痛いほど突き刺さった。

 このミノルフの表情はあまりに切なげであった。


「いえ、騎士殿の恩情は痛み入りますが、我が友人、オオネスカ・バッシュフォードのためにもそれは出来ぬのです。」


「オオネスカ・バッシュフォード!バッシュフォード伯爵の令嬢か。そうか、それでは、どうしようもないか。」


 伯爵位を持つ家の者の定めを、ミノルフは即座に理解した。

 その友人を名乗るのであれば、退くことはあり得ない。


「伯爵令嬢も、その友人の君もつらいところだな。この「天の恵み」回収作戦の概要は聞いているのか。」


 ミノルフの言葉にアルクネメは野戦服のサイドポケットから小型の「覚石」、タブレットを出して確認する。


 実際の戦闘時には、刻一刻と変わる戦況を視覚吸着型情報伝達装置、通称「アイ・シート」で確認し、リングを通じたテレパシーで司令官の命令を感じる。

 しかし、通常時、作戦の行動予定図などは、タブレットや、空間投影などの方が理解しやすい。


 ミノルフに聞かれた作戦概要は、こうしてタブレットですべての行動予定を大まかにとらえていた方が都合がいいのだ。


「現時点での作戦の概要だが、ここに集められた戦力、国軍、騎士団、冒険者チームや養成学校の学生たちは、別動隊として行動する。本体はすでに「天の恵み」回収運搬車を中心に交易ロードを東、つまりムゲンシン方面に移動している。既に「天の恵み」の着地地点はこのマップでここ。」


 アルクネメのタブレットに地図を表示し、このセイレイン市から見てガンジルク山の反対側になる。

 大きな太い矢印は本体のルートだろう。

 交易ロードで途中まで移動したのち、分岐してガンジルク山の裏側に回るコースだ。


「この本隊には、国軍が1万5千、マルス騎士団、ウラヌス騎士団各5千ずつ参加している。そして各藩の騎士団や、フリーランスの冒険者チームが5千の総勢約3万人の戦力を移動させる。ここに、「バベルの塔」の機械化部隊が相当数配備され、随行しているはずだ。そして別動隊である我々の隊。国軍が5千、我々シリウス騎士団が5千、あとこの地方のルーノ騎士団をはじめ各騎士団の総数が3千、あと冒険者チームや養成学校などで2千の総勢1万5千は、このルートだ。」


 本隊の半分くらいの細さの矢印がガンジルク山の裾を回り込む感じで進んでる。

 このルートなら多少の「魔物」との遭遇戦はあるかもしれないが、本体との接触前までは、それほど戦力を減らさずに行く計算だろう。


「そして、もう一つの別動隊、アクエリアス騎士団を中心とした部隊だ。ここには国軍が2千、アクエリアス騎士団が7千、他各藩から送られた騎士団や冒険者チームの2千、総数1万1千の部隊の3ルートで、ポイントに向かう。」


 最後のルートはガンジルク山の反対側から進むルートだ。

 ホムンクル藩キルウイト市の門から出るようだ。


「どのルートも「魔物」との闘いは避けられんが、安全と思われるポイントで1泊の野営が組み込まれている。つまり「天の恵み」着地地点まで1泊2日の距離という事だ。この移動には、「バベルの塔」が所有する移動用機械車両が用意されてはいるが、騎馬隊、飛竜隊、魔導移動部隊も含まれている。総勢6万弱は実にこのクワイヨン国の軍事力の半分だ。とんでもない規模の「リクエスト」って訳だよ。」


「それだけの戦力をつぎ込む意味は、一体どこにあるんでしょうか?」


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