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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第79話 「ランスロット」の告白 Ⅱ

 我々の計画の一部に、人為的に「魔導力」を高めることが出来るか、そして専門性を決めることが出来るか、というものが含まれていた。


 その計画にオネスティー家の不妊の件を用いるという事で「バベルの塔」の住人を納得させた。

 だからこそ、そこに情報の塊である遺伝子に改変を試みたという訳だ。

 この時に、この改変により、うまく出産が出来ない、または生まれた子が成長できない可能性も考えられた。

 そしてツヴァイの受精卵以外にも数個用意されていたんだが、アインが無事に成長して、「特例魔導士」までなれた時点で、他の受精卵は廃棄されたという訳だ。

 もっとも、他の受精卵も少なからずの改変が行われていたので、破棄にはかなりの反対があったがね。

 「バベルの塔」の住人の中にも最低限のモラルを持った者がいるという事は喜ばしいことなんだるね。

 それこそ、遺伝子の改変など、神の領域で人類が行う事ではないといったよ。


 わかるだろう、アイン。この言葉が出る時点で、我々は「神」などではありえないんだ。


 さて、君の話に戻そう。


 君の誕生、成長には全く支障がなさそうだった。

 それ以上にハロルドとジョシュワの愛情を一身に受けて、非常に素直で優秀な子に育っていった。


 だがね、何故かハロルドは二人目の子供には難色を示したんだ。


 当然、この人工授精という行いについてハロルドとジョシュワには説明をした。

 本人たちも納得をしていると思ったんだが、やはり、自然な行為での妊娠でないことに引け目を感じていたという事もあるようだが、それだけでもなかった。


 だからなのだろう、2人目の子供は必要ない、とまで言ってきた。

 我々としては、やはりアインがしっかりと成長するかは不安要素であったのは事実だった。

 まあ、比較対照としてのサンプルも欲しかったという事実はあるんだがね。


 アインの成長に関しての話でハロルドは渋々承知したんだが…。


 どうやらハロルドは、自分がオネスティー家の当主になる際に、兄弟間での生臭い争いがあったようでね。

 当主の継承権を持つ者の数は極力減らしたいというものがあったらしい。

 これはティンタジェル国王から聞いた話だが、ハロルドの父、アインにとっては祖父にあたるクレナコック・エル・オネスティーは正妻のほかに妾を5人ほど抱えていたらしい。

 結果、正室に子供3人以外の8人ほどが、控えていたらしい。

 ハロルドは次男だったが、側室の子供の一人が長男を殺害。

 その結果その母親ともども死罪になったとの事だ。

 他の側室も、ハロルドが正式に当主となった際に、土地を与えられて、縁を切らされたようだ。

 聞いた話だと、アインが生まれた当時の土地の5倍くらいの領地をクレナコックの時代にはあったとの事だ。

 王都クワインライヒ市と匹敵する領地を誇っていたという。


 そのような兄妹間での争いを極力減らしたいと考えて、アインに当主たる教えを、ツヴァイには自由に、ある意味放任していた。

 母であるジョシュワは二人に対して同じように愛情を注いでいたが、アインがシリウス騎士団の下部組織であるペテルギウス騎士団に入団した年、アイン18歳、ツヴァイ16歳の時、病死した。


 以後、ツヴァイの浪費、当主たるハロルドへの面当てのような非行を起こすようになる。

 ハロルドはアインに注いでいた愛情を、ツヴァイにも注ごうとしたが既に遅かった。

 その後ろめたさ故、面と向かってツヴァイを叱責することも徐々になくなった。

 誰も諫める者も、受け入れる者もなくなったツヴァイは自分の欲望のままに生き始めた。


 アイン、君はペテルギウス騎士団の駐屯地である赴任先のセイレイン市で、「魔物」の駆除、並びにセイレイン市で多発している「冒険者」達のトラブルや、窃盗、殺人などの犯罪の対応で同期よりもかなり早く出世していったはずだ。


 当然だな。

 「特例魔導士」としても、かなりの「魔導力」を持っているきみは、戦闘実戦もさることながら、事務全般、調達全般に関して、非常に優秀な成績を示しても来た。


 仕事の管理能力の高さもあり、ペテルギウス騎士団としては異例の20代前半での団長、その後にシリウス騎士団に昇格し、さらなる実践能力を認められての30代での団長昇格。


 我々の自慢の子供なんだよ、君は、アイン。


 もっとも、君が実家のオネスティー家を憂慮しているのは解っていた。


 ツヴァイは、「魔導力」をほとんど持っていなかった。

 だから、ハロルドは早々にツヴァイを当主になるための教育を放棄した。

 しかも、「魔導力」以外の才能もほとんど凡庸というのが周囲の見解だった。

 特別酷いことはないが、取り立ててみるべき価値があるわけでもない。

 平凡な男だった。

 だが、強烈な才能の持ち主を目の前にして、彼の自己評価は低くなり、負の感情に覆われて行った。


 アインの「特例魔導士」の才能を知らせるイングのファンファーレが、いかにツヴァイが喜んでいるか知っていたか?


 それは兄の優秀性を認められたことを喜ぶものではない。

 当時の君はそう信じていたようだったけどもな。


「家のことは頼んだぞ」と、確かそう言ってツヴァイを励ましていたね、アイン。


 とんだお人よしだよ。


 ツヴァイはアインが「特例魔導士」になったことにより、強制的にオネスティー家の継承権を剥奪されることを十分知っていた。

 つまりその時に自動的にツヴァイが次期当主になることを意味しているからね。


 アイン、君はシリウス騎士団団長として立派な功績を残している。

 昇進するごとに君はツヴァイが何かしらことを起こすという悪い噂を聞いているね。


 彼はほとんど君を憎んですらいた。

 君の能力に嫉妬を抱え、君の大事にしているオネスティー家を潰すことが、彼の生きがいでもあった。


 君が彼を殺しに行ったときに、彼は殺されるにもかかわらず、笑っていたね。

 そしてこんなことを言ったはずだ。


「これで兄貴、お前は英雄ではなく、ただの人殺しになったな。」


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