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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第78話 「ランスロット」の告白 Ⅰ

「君の父親にあたるハロルド・エフ・オネスティーと妻ジョシュワの間には、子供が出来なかった。」


「一体何の話だ。俺は間違いなく母ジョシュワ・エム・オネスティーの腹から生まれた子供だ。養子縁組でオネスティー侯爵家に引き取られた子供では、断じてない。」


 アインは固まり始めた自分の血を気持ち悪く思いながら、「ランスロット」に反論した。


 疲れは次第に薄れて、目の前にいる「ランスロット」に対しての憎しみが体に充填されるような気がしている。


「当然だよ。まさしく君とツヴァイは、ハロルドとジョシュワの実子で間違いないよ。私がこれから話すことは、君についてだよ、アイン。君も知らないであろう、君自身のことだ。」


 アインは持てる力を振り絞って立ち上がり、剣を構えようとした。

 が、自分の剣が「ランスロット」の手元にあることを失念していた。


「無理をしないほうがいい、アイン。私の話を聞くくらいは、身体を休めて、血が戻るのを待った方がいい。」


「貴様の戯言に付き合うくらいなら、この場で朽ちる方がましだ。」


「違うな、アイン。本当の強者は自分の力が相手に届くまで、待つことのできるものだ。そして、最後に勝つ者は生き残った者だけだ。生き続けること、そのものが勝ちを意味していることを知っているものだよ、アイン。」


「世迷いごとを‼生き恥を晒す気はない!」


 口から吐き出されるその言葉は、しかし、敗者のいいわけであることも、アインは知っている。


「生き恥かどうかは別としても、君の一体何が起こり、今回の叛乱を引き起こすことに至ったか、知っておいた方がいい。別に私の語る言葉を信じる必要はないが、聞いても君に損があるとは思えないんだが…。」


「時間稼ぎとも考えられる。」


「何故?私が君との戦闘で劣勢ならいざ知らず、圧倒的に優位にある私が、時間稼ぎをする

意味があると君は思うのか、アイン?」


「いや、ないな。」


「ふっ、分かってるじゃないか。では、いいかな、君の物語だ。」


 「ランスロット」はアインが生まれる前からの事情と、生まれてからのアインの生きざまについて語りだした。




 ハロルドとジョシュワとの間には婚姻後、3年経っても子供ができる兆候はなかった。


 ハロルドは侯爵家という事もあり、跡取りとなる男児を必要としていた面もあったが、妾を作る気も、養子を取ることも望んではいなかった。


 そうは言っても、国王の血筋でもあるオネスティー家存続のためにも、周りが黙っているわけにはいかなかった。

 そして、愛するジョシュワとの間に二人の子供を欲していたのはハロルド自身であった。


 ハロルド・エフ・オネスティーはまわりからの圧力の強まりに、ティンタジェル国王に相談するに至った。

 既に医師、助産師に教えを乞うて努力はしていたのだ。

 藁にもすがるつもりであったのだろう。


 相談された国王が、我々「バベルの塔」に依頼をしてきた。


 この件については、少し議論を呼んだよ。

 ああ、誤解しないでくれ。

 我々の医療技術であれば、妊娠に関してかなりの確率で成功させることはできるんだ。

 ただ、ハロルドが二人の子供をジョシュワから産みたいとなると、妊娠しない原因が分からないことには、対応が難しくなってくるという事だ。


 それと、我々がこの国の不妊問題に、安易に関与していいかといことも問題になった。


 我々「バベルの塔」はある目的のためにある。

 その為この国に干渉しているんだが、この国の問題を解決することを目的としてはいない。


 結果的には、既に検討していた計画に、このハロルドの件を合わせることで実施された。


 検査の結果、ジョシュワの身体に問題はなかった。

 ハロルドの精子が極端に少ないということが不妊の原因だった。

 そこでハロルドの精子とジョシュワの卵子を採取、受精させた。

 この時に我々の計画で必要な処置が行われている。

 この受精卵をジョシュワに戻し、無事着床、妊娠、出産となり、アイン、君が生を受けた。

 さらに、もう一つ別の処置をされた受精卵を2年後にジョシュワに戻し、次男となるツヴァイを出産した。


 アイン、君は疑問に思ってるかもしれないね。

 何故2つの受精卵が用意されたか?


 一つ目の理由としては、我々の施した処置が不完全で、シュッさし、無事に成長するか、成功を確信してはいたが、万が一という時の保険だった。

 もう一つの理由として、二人とも無事に成長した時の比較という意味が強いというところかな。


 さて、ここで君は思うだろうな、「バベルの塔」が一体君たちに何をしたのか、ってね。


 先程の話ではないが、君とツヴァイを作ったのが、「バベルの塔」である、という事は納得してもらえたと思う。


 確かに我々は、国王とハロルドの請願に対して応えた形になった。

 だが、その前に言った通り、既にある計画はあったのさ。

 其の計画を君に語るつもりはないが、そのおかげでオネスティー家は跡取りを得ることが出来たわけだ。




「だが、俺は「特例魔導士」となり、オネスティー家の継承権を強制的に剥奪された。」


「だが、跡取りはきみ一人ではなかった。弟のツヴァイがいた。問題はなかろう。」


「父は俺に期待していたんだ。それをまさかあんな形で奪われるとは思わなかった。ツヴァイには全く才能がなかった。」


「家の管理に、そんなに才能を必要とするのか、甚だ疑問だよ。それでなくてもオネスティー侯爵家には使用人が多くいたと思ったが。」


「ツヴァイの浪費癖や、犯罪まがいの後始末に追われるうちに、信用できる使用人たちは家を離れて行った。とくに父親の死で、次期当主がツヴァイだという事もあり執事長のサミュエルをはじめ、多くの人がいなくなったよ。」


「そうか。それはハロルドの責任だ。アイン、君が背負うものではないと思うが。」


「だが、私はオネスティー家を、あの家で働く人の生活を、領内の民を養う責を、日ごろから父に厳しく教育されてきたんだ。」


「それを、兄弟二人ともにしなかったのが、ハロルドの罪だ。生まれたときから君の「魔導力」は「特例魔導士」のそれを大きく凌駕されるように決まっていたのだから。」


「な、何だと!」


「我々「バベルの塔」が、そういう処置を施していたんだ。それが計画の一部だったんだよ。」


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