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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第74話 「鉄のヒト」との死闘 Ⅰ

 アインは自分とトライアルに対して「回復」の「魔導力」を使い、今は充分に戦える体力、気力とも準備を完了した。

 最初の「鉄のヒト」との闘いの時の辛さはなくなっている。

 また、先ほどの戦闘での、アイン自身の


「魔導力」を使用した戦い方、それは明らかにこの通路に入ってきてからの環境が変わっていることを実感した。


「アイン団長。います。「鉄のヒト」5体。しかし、先刻の「鉄のヒト」とは明らかに違います。」


 この通路は巨大だ。

 たとえこの通路が全く光のない闇だったとしても、アインは闇夜の中で「視る」ことが出来る「魔導力」を持っている。

 しかしこの中には、規則正しく配置された非常灯が点っているため、かなり遠くでも見ることはできた。


 アインのそんな視界の中に、同じ形状の「鉄のヒト」がいた。

 ただし、纏っている殺意は、「鉄のヒト」にそぐわない。


 先の2回の戦闘で相手をした「鉄のヒト」は、言うならば自動制御された傀儡人形でしかなかった。

 だが、今回の敵、「鉄のヒト」は、明らかに「意志」の力を感じる。


 アインは全く自らの存在を消すことなく、堂々とした足取りで、5体の「鉄のヒト」に相対した。


「さて、これが最終試験とみていいかな。」


 アインは5体いるうちの一体に歩み寄り、そして敵の間合いギリギリでその足を止めた。


「その考えで間違いはないよ、アイン団長。」


 初めて明確な回答が「鉄のヒト」から返ってきた。


 トライアルは気配を遮断して通路の隅でこちらを見ている。


「この「鉄のヒト」は「バベルの塔」の人間が直接動かしているんだな。以前の「クエスト」で「鉄のヒト」が動いていたとき、滑らかに動いていた時を思い出したよ。」


「そういえば自己紹介をしていなかったね。私は、ジムリンド・アーガスト。「バベルの塔」の住人の

一人だ。最も人間としてこの世界に赴任した時は、賢者「アインシュタイン」と名乗っていたがね。」


 賢者「アインシュタイン」。

 聞いたことがある。

 アインは自分の記憶を紐解いてみた。


 確かオネスティー侯爵家の先々代の当主、ミケラン・ジ・オネスティーが国王に謁見した時の補佐役としていた賢者の名前だ。

 そんなに長生きをするのか、賢者たちは?


「君の友人もうまく隠れたようだし、そろそろゲームを開始しようか?」


「ゲームだと。」


「そうだよ、これはゲーム。かけるのは君たち二人の命。そして生き残った暁には、賢者「ランスロット」への謁見が許されるというご褒美が待っている。素晴らしいゲームだ。」


「そして、ジムリンド、お前は傷つくこともなく、高みの見物ということか。ふざけんな!」


 アインは、この「鉄のヒト」が吐く薄汚い高慢な言葉に虫唾が走った。


 だからこそ、この「バベルの塔」は破壊して、自由を人類が手にしなければ、早晩、人は人として生きていくことが出来なくなる。

 そのいい例が、目の前の「鉄のヒト」ジムリンドの姿だ。


 アインが、己が信じる「魔導剣」を構えた。


「いいですね、その怒りに燃えるまなざし。私は嫌いではないですよ。」


 ジムリンドがどこか余裕ありげにそう言葉を言い終わらぬうちに、間合いを一気に詰め、袈裟切りに襲い掛かった。


 横に等間隔で並んでいた「鉄のヒト」が、一斉に動き出す。

 「鉄のヒト」の脚部そこに設置された車輪が高速で動きだし、床を覆う金属板にこすれた甲高い音がアインの聴覚を襲った。


 アインはその音を一切無視して、真ん中に立つ「鉄のヒト」に突っ込んでいく。


 金属の顔が心なしか笑ったように見えたのは気のせいだろうか?


 アインの剣は「鉄のヒト」の肩口に接する前に、硬いシールドにより空中で固定化された。


 先程もやられた防御に、しかしアインは冷静に筋力を強化した足を、「鉄のヒト」の胴体にぶつける。

 その衝撃に、「鉄のヒト」が前のめりに腰を折った。


 さらにぶつかった胴体を踏み台に、ぶつけた足を大きく蹴り上げ、続いて剣が当たる寸前だった肩口近辺をもう一度踏みつけるようにたたきつける。

 その衝撃で固定化されたアインの剣が自由になり、アインは後方に一回転して着地。

 そのまま横に動きを変え、ジムリンドと名乗った「鉄のヒト」の横から迫ってくる2体の「鉄のヒト」に向かい、剣に「魔導力」を注ぎ込み、横に一閃した。

 アインの「魔導剣」からさらに長く光が走り、その2体を簡単に切断した。

 と同時に、ジムリンドの反対側から現れた「鉄のヒト」が銃弾をアインに集中的に撃ってくる。

 アインは後退しながらその銃弾に対し障壁を作り、さらに剣に「魔導力」を集中を開始する。


 一方、自分の存在を消すように「魔導力」を行使しながら、静かに移動する。

 微妙にアインと「鉄のヒト」の会話が聞こえてくる。


 最初の「鉄のヒト」は言ってみれば、ただの砲台の役割だけだった。

 同じ場所にとどまり、迫ってくる騎士たちに銃弾を浴びせるように撃ってきた。

 充分脅威ではあったが、移動することなく、その場に居るだけであったので、アイン達はその「鉄のヒト」を銃弾を避けて越えれば済んだ。

 それでも、20人近くの同志である部下の命を失った。


 続く「鉄のヒト」は、機械が判断しての攻撃であった。

 これは砲台よりも難易度が高く、であるからこそ、「特例魔導士」以外の騎士たちは無力化されてしまった。

 それでも生きている部下の騎士、同志でもある彼らを見捨てることは、もうアインにはできなくなっていた。


 この計画当初、自分に付いてきてくれる少ないながらも気骨のある若者たちを中心に中核部隊を作り、自分に猜疑心を抱く騎士は遠ざけた。

 そして、中間の者に「誘導」の「魔導力」を施し、蜂起を行った。

 結果は惨敗だ。

 基本的には武力が全く足りない。

 さらに国軍への働きかけに費やす時間が圧倒的に足りなかった。


 本当に今更である。

 だからこそ、生きているものの命は極力救いたいという気持ちが育ってしまった。

 あんなに、どんな犠牲を払っても、「バベルの塔」の存在を否定しようとしていたのに…。


 今は、完全に術者として強大な「バベルの塔」の住人を相手にしなければならない。

 そして、ジムリンドの操る「鉄のヒト」を駆逐しなければ、この「バベルの塔」を現在独りで仕切っている賢者「ランスロット」にすら会うことが出来ない。


 「特例魔導士」とはいえ、立った二人で、この強敵を駆逐しないとならない。

 プレッシャーはアインの心を壊しそうな勢いだった。


 しばし、ジムリンドの操る「鉄のヒト」と睨み合う形になった時だった。


 気配を消していたはずのトライアルが空中から、左側でアインに牽制を掛けていた「鉄のヒト」に短剣と長剣を両手で構えたまま落ちてきた。

 そのまま、その「鉄のヒト」に襲い掛かる。

 両の剣を「鉄のヒト」の肩口に体重地落下するスピードのまま突き刺した。

 剣は二本とも肩口に深く刺さっていく。


「やったか?」


 トライアルがそう言った時だった。

 刺されたはずの「鉄のヒト」の両腕がトライアルの両腕をそれぞれつかんだ。


「ぐおおおおおおお。」


 人の者とは思えない叫びがトライアルの口から迸った。

 その直後、トライアルの両手首が、いともあっさり握りつぶされ、大量の血が「鉄のヒト」に降りかかる。

 そしてさらに、意識が飛びそうなトライアルに、「鉄のヒト」の両手の周りに装備されている銃口が、恐ろしい勢いで火を噴いた。


 いくら「特例魔導士」とはいえ、両手首が砕かれ、その痛みが全身を襲っている最中にゼロ距離でありったけの銃弾を浴びて、生きられるわけがなかった。


 トライアルの身体は銃弾に酔引き裂かれ、ただの肉塊を無様にこの広大な通路にまき散らす結果になった。


 トライアルは絶命した。


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