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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第72話 部下の屍を超えて

 この通路に来た時の50名の騎士は30名を割る人数になっていた。

 にもかかわらず、この部下たちは私に付いてきてくれる。

 アインは今また走りながら、部下たちを引き連れたことに後悔が生まれ始めていた。


「迷わないでください、団長。」


 メタファスがともに走るアインに向け、そう告げた。


「我々の命は全て、アイン団長に捧げています。いかようにもお使いください。それこそが、我々の喜び。」


「わかった。お前たちの命、使わせてもらう。」


 アインはそれだけ言うと、前に視線を向けた。

 目から落ちそうなものをこらえて…。


 明らかにその時のアインは集中力を欠いていた。


 既に次の関門が始まっていた。


 アインが気付いたときには、既に遅かった。


「鉄のヒト」が襲ってきた。


 先程のただの砲台とはわけが違う。

 高速で動きながら、アインに迫る。同時に、銃弾をアインに集中させる。


 アインはその場から弾けるように横に逃れようとした。

 剣を自分の前にかざし、集中する銃弾からわが身を守ろうとしたが、明らかにその行動は遅かった。


 まずい、やられる。


 アインがそう思った時に、「鉄のヒト」と自分の間に人影が割り込んできた。


 高速移動の「魔導力」を使うラービットという名の若い騎士だった。


 アインがそう認識した時には、その体は「鉄のヒト」の銃弾を浴びて、弾け散った後だった。


 アインの足元に光る円盤が出現し、広大なこの通路の天井近くまで跳んだ。


 また、5体の「鉄のヒト」が高速で動き、騎士たちを蹂躙している。


 メタファスがシールドを張り巡らせ、何とか自分とほかの騎士を守ろうとしている。


 トライアルは壁を走り始めている。

 そして高速に移動し銃撃を続ける「鉄のヒト」に斬撃を与えている。


 アインは剣を握りなおし、円盤を消した。

 そのまま落下する威力を剣に乗せて高速で動く「鉄のヒト」の一つに動きを合わせた。

 切りかかろうとした刹那、その「鉄のヒト」の動きが変わり、そのまま腕の部分をアインに向ける。


 アインは銃撃をさせる前に剣を振り下ろした。


 ガキッ。


 「鉄のヒト」が張った障壁に捕まった。剣が空中で固定された。


「チッ。」


 すぐさま剣を離し、そのまま足に「魔導力」を込めて「鉄のヒト」の胸部に蹴りを入れる。


 その反動を利用して後方に跳び、銃撃を避ける。

 蹴られた「鉄のヒト」は数m後ろにとばされながら、銃弾を撃ってくる。

 だが、飛ばされた先に剣を構えた騎士が二人がかりで「鉄のヒト」に向かっていく。


「ダメだ。逃げろ!」


 アインが叫んだが、間に合わなかった。

 「鉄のヒト」の両腕を二人に向け、銃撃した。


 銃弾は二人の騎士の身体を抉る。

 騎士は、だが「鉄のヒト」の両腕の切断に成功して、その命を散らせた。

 アインは低姿勢で転がっている自分の剣を拾い上げて、他の「鉄のヒト」に向かう。


 トライアルにより既にもう1体が無力化されていた。


 この広大な通路は明らかに人工物であった。

 そのため、「テレム」を生成する植物は一切ない。

 「テレム」が極端に少ない空間である。

 その為、「魔導力」をいつものように使うことが出来ずに、アインは苦戦を強いられていた。

 それは他の騎士たちも同様であった。


 アインは精神の集中に力を尽くす。自分のために死んでいった者たちのために。


 自分の中に急激に「魔導力」が溢れ出す感覚が全身を覆った。


 そのさなか、1体の「鉄のヒト」がアインに向け銃撃を仕掛けながら、広大な通路を駆け巡っていた。


 だが、その銃弾は全てアインの張ったシールドに捕獲され、空中で止まっていた。


 アインはその銃弾一つ一つを認識していた。

 そしてその銃弾全てを、1体の「鉄のヒト」に向けて放つ。

 同時に自分の持つ「魔導剣」に「魔導力」を集め、その力を解放、剣を水平に薙ぎ払った。


 剣は膨大な光を発し、アインの間合いからはかけ離れた2体の「鉄のヒト」を捉えた。


 ロングソード現象。


 その斬撃は2体の「鉄のヒト」を簡単に切断した。


 5体の「鉄のヒト」を無力化した。


 アインはそのまま倒れそうになる身体を剣で支えた。

 何とか部下の方に視線を向けた。


 メタファスがすぐにアインに駆け寄った。


「団長、大丈夫ですか!」


「俺はいい、他は?」


「トライアルは大丈夫です。ですが…。」


 アインはメタファスの後ろに、部下たちが倒れていた。

 何とか立ち上がり、部下たちの所へ肩で息をしながら近寄った。

 全く動かない者が多いが、何人かはまだ息があった。

 息が荒く、銃弾を体に数発受けた騎士が、それでも近づくアインに目を向けて、かすかに笑っていた。


「今、助ける。」


 アインはその騎士の横に跪き、銃弾を受け出血するところに、右手をかざし、そのじん帯をイメージする。

 銃弾が自然に浮き上がり体外に排出された後、徐々に出血が止まっていく。

 その一連の動きを他の場所にも続け、すべての怪我の部分の修復を終える。


 アインのその「魔導力」は特別な専門性を有さず、ほぼすべての能力に優秀な才能を持っていた。

 「医学回復」も何の苦もなくできるのだが、今のアインの状況ではこれが精一杯であった。


「団長、今は先を、急いで、ください。」


 手当てを受けた騎士が、アインに先に行くように促す。


「我々は、団長のやるべきことを、全力で支援できて、幸せでした。早く、「バベルの塔」を…。」


「わかった。」


 アインは立ち上がった。


「メタファス!」


「はい!」


「確か「回復」、出来たはずだな?」


「はい。」


 アインは後ろを向き、先ほど助けた騎士がまだ生きていることを確認する。


「何人いるか分からんが、助けられるだけ、助けてやってくれ。」


「いや、しかし…。」


「頼む。俺はトライアルと2人で先に進む。」


「ですが、私も団長と…。」


「メタファス副団長。これはシリウス騎士団団長としての命令だ!」


 声を詰まらせるメタファス。

 しかし、次の瞬間にはアインにしっかりとした目を向けた。


「了解です、団長。」


 メタファスはアインに敬礼して、まだ生きている可能性のある、倒れている騎士に向かってかけ始めた。


「トライアル、行くぞ。」


「はい!」


 二人は、息を整えながら、さらにこの広大な通路を奥に向かった。


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