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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第71話 王宮の包囲

 飛竜隊が幾条もの強力な光を上空からクワインライヒ王宮を照らしている。


 クワインライヒ王宮。


 クワイヨン国に限らず、世界23の城壁国家の中でも一際美しいと言われた王宮である。


 500年ほど前に建造された白亜の美宮は、いま、見るも無残な姿をその光の中にさらしていた。


 王宮門から続く緩やかな坂道から現れる王宮正面玄関は、多くの絵画にその姿を描かれて、その美しさは歌や詩、小説、演劇にその題材を提供してきた建造物でもある。


 その美しく輝く石材は、モンデリヒト近くのダラム鉱山より産出された魔光石を用いており、王宮警備の要にもなっていた。

 この魔光石は「魔導力」を吸収する性質と貯めた「魔導力」を任意に放出することのできる特殊な鉱石である。

 「魔導剣」や「魔導盾」にこの鉱石を用いると、相手の「魔導力」を軽減し、さらに自分の力を乗せて攻撃できる。

 一方、建造物に使用した場合、攻撃で使用される「魔導力」を吸収させることで防護の要として重宝される石材である。

 ただし、それも限界がある。

 今の王宮玄関が示していた。


 飛竜隊からの光で浮き上がる王宮玄関は、激烈な戦闘の結果、窓は破壊され、「天才魔導士」とも知られる、稀代の芸術家、アレグリオ・スコットベリオの手がけた作品の中でも評価の高い玄関扉の紋様は、完全に破壊されていた。

 さらにその外と中に多くの倒れている騎士や兵士の姿があった。


 だが、それら救助できる状態ではなかった。


 国王殺害の衝撃的な通信から、既に2時間が経過している。

 その王宮に立て籠もって居るはずの叛乱者たちの動きは全く聞こえてこない。


 国軍中央防衛隊を中心に、残留している国軍第2大隊第4特殊中隊が到着し、王宮のほぼすべてを取り囲むことが出来るようになったところだ。


 第2大隊第4特殊中隊、俗に「バベルの塔」武装中隊はその名が示す通り、「バベルの塔」の特殊装備を使用する特別の中隊である。「魔導力」と燃える油、燃油を使用して電気を発生する「内燃機関」を用いた魔導電力車を中心に光源車、シールド発生器、火炎射出機、強襲突撃車が、国軍兵士たちの間に展開していた。

 中に籠城するおよそ1000名弱の叛乱兵に対して、逃げられない包囲陣が完成した。


 この叛乱軍鎮圧の責任者である中央防衛隊司令官、コミット・カグヤ准将がハンドマイクを持って強襲突撃車の上に立ち上がった。


「叛乱兵たちに告ぐ!直ちに武装を解除して投降せよ!既に貴様たちの残虐な行為、愚劣な裏切り、そして、我々国民の敬愛するティンタジェル国王を卑劣に拘束したのみならず、殺害をしたことはすべての国民の知るところだ!貴様たちに逃げ場はない!直ちに投降し、その罪を償え!」


 一度そこで言葉を切る。

 大きく息を吸い、大きく吐き出す。


「これより10分後、包囲した全兵力をもって王宮内に突入し、人質を救助、貴様たちを殲滅する。命が惜しくば、直ちに投降せよ!繰り返す。直ちに投降せよ!」


 その言葉に、後方に待機していたオズマはカグヤ准将の宣告に愕然とした。


「人質?まだ国王の家族はいるのか?」


 オズマは既に救出されたのかと思っていた。

 王宮には王族専用の待避所があり、「バベルの塔」への脱出経路があると聞いていた。

 だが、考えてみれば国王派反乱軍、アイン団長に捕まっていた。では、王宮の国王家族、および王宮職員はいまだあの王宮に居るのか?


 国軍はこの2時間以上の時間を何に使っていたんだ?


 だが、そんなことを問いただす時間はなかった。


 准将の投降勧告から5分程度過ぎたとき、轟音が包囲する国軍兵士を襲った。


 王宮の半分が爆発、崩壊したのだ。




 トライアルが先行して「バベルの塔」への通路を疾走している。


 「特例魔導士」トライアルはその気配を完全に消せる気配消失のほかに、探索の能力も有している。


 アイン達の秘密通路への侵入はすでに「バベルの塔」に伝わっていると考えて間違いない。


 この秘密通路への扉を開くカギは、国王の生体魔導力パターンと暗号にも聞こえる詠唱であった。

 国王の生体魔導力のパターンはアインにとってはさして苦も無く再現できる。


 問題はその暗号詠唱であった。


 その複雑なパターンは国王の脳の防護を解かない限り盗むことは出来なかった。

 当然死ねばその防護は解かれるが、記憶も消えてしまう。

 アインはその目標とする人物の思考中枢に侵入する「魔導力」も使えるが、国王の防護はそれを難なくはねのける防護力を持っていた。

 が、国王自らがその防護を外し、アインにその暗号詠唱を伝えてきた。


 当然、アインは警戒していた。

 扉はその詠唱で難なく開いた。だが、何か罠があることは間違いなかった。


 トライアルの先行はそのためである。その後ろにアインと、メタファス副長が続く。

 そして、彼らとともに行くことを決意した50人が後を追う。


「この通路は、どういう意味があるんでしょうか?」


 メタファスがアインの横から尋ねる。


 それはこの通路の広さだ。

 横にも縦にも広大である。

 幅、高さともに30m以上はある。


「王宮の扉から入ったところは普通の通路でしたよね。」


「そうだったな。あの「魔導力」を感じたところから、この広さになったな。」


 そう、トライアルが先行しそこで巨大な「魔導力」と、空間の歪みを感じた。

 アインはその先が安全であることはすぐにわかったので、躊躇なくその空間に飛び込んだ。

 出現した先が今いる場所に続く巨大空間であった。


 追っては来る可能性は少なかったが、逆に待ち伏せや、通行を許可されていないものに対する攻撃は予想していた。

 しかし、今の所その予兆はなかった。


「このまま「バベルの塔」まで何事もなく…。」


「そういう訳にはいかないようです。」


 トライアルがメタファスの言葉を遮った。


 彼らの前に「鉄のヒト」が5体、視界に入る。


 広大なこの通路に等間隔で配置されていた。


「警告する。ここからは「バベルの塔」だ。直ちに引き返せ!引き返さない場合は実力で排除する。」


 走る速度を緩めないアイン。


「通常の「鉄のヒト」とは形が違います。特に両腕部に注意してください。」

 金属のメタルシルバーが光る、両腕が持ち上がった。

 

 そこに手の部分がなく、腕の袖が拡がったような形状に、黒い小さめの穴が円周上に12こ開いていた。


 そう思った瞬間、その穴が火を噴き、弾丸をアイン達に向け、一斉に掃射を開始した。


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