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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第70話 「バベルの塔」作戦指令室

「状況はどう、オズマ。」


 空からの掛け声に、上を見上げると、残留飛竜隊臨時隊長のサンドラの飛竜、ヴィーナスが降りてくるところだった。

 崩れ落ちた行政府ビルを避けて、隣接する広大な公園に着地する。


「とりあえず、第3大隊隊長を拘束して、今から国軍中央防衛隊で尋問するところだ。」


 ヴィーナスから降りてきた長めの銀髪を束ねているサンドラに答える。


「うちの騎士団で事情は聞けなかったわけ?」


「それは無理だ。首謀者が団長だぜ。こちらを信じ切れるわけがない。」


「確かに、そうね。これから籠城するアイン団長とやりあうんでしょう。我々の飛竜隊も加わるわよ。」


 なぜかワクワクした表情でサンドラがオズマに援軍を申し出る。


「いや、その点は大丈夫だ。というより、さっきも言ったけど、俺たちは信用されていない。国軍中心で事をしようとしてる。こちらはサポートだ。」


「あら、本当?せっかく自分の飛竜のりとしての力を見せる好機だと思ったんだけど。」


「もし協力する気があるなら、「魔導力」で光る、強力ライトを持って上空から王宮を照らし出してくれ。できれば籠城してる騎士たちを投降させたい。」


「まあ、これ以上の死者は増やしたくないわね。わが騎士団としては。了解!その線で協力するわ。」


「ああ、頼む。我々シリウス騎士団の汚名を少しでも消していかないとな。」


 サンドラはヴィーナスに向かいながら後ろを振り返ることなく、オズマに手を振った。




 先程から何人かの手首に付けられているリングが発光していた。


「いいのかい、出なくて。」


「今はそのような時ではないでしょう、賢者「ランスロット」殿。」


 司政官ユミルが「ランスロット」の問いに答える。


 すでにケース72はほぼ理想の形で終わろうとしている。

 追い詰められたアイン達は予想通りにこの「バベルの塔」に向かっていた。


「すでにツヴァイが殺されていたのは、予想外でしたね。」


 この国の国家議会第一党党首キャッシュールが拍子抜けしたような声で言った。


 この叛乱がおこり、国軍警備隊はすぐにオネスティー侯爵家に向かった。

 当然、国家反逆はその家族一門まで罪を問われるからだ。

 だがそこには長年の恨みを晴らすかのような、バラバラに切り刻まれたオネスティー侯爵家当主、ツヴァイの死体と女たちの死体が無造作に転がっていた。

 女たちは一撃で殺されたものだ。

 だがツヴァイは生きたまま、バラバラにされたようだ。

 ツヴァイのバラバラ死体はある目的のため、極力回収した。


「そこまでの恨みがあったのだな。心理学的なサンプルとしてなら面白いのかもしれんが、我々の目的とは若干異なる。完全に焼かれてしまうよりかはまだしもではあるが。」


 「ランスロット」は溜息を吐きつつ、そう見解を述べる。


「君たちの安否確認の連絡だと思うが、どうするんだ?」


「安否を伝えるのは構わんのですが、どこにいるとか、すぐに来いと言われても、答えようがありません。それで、アイン達には?」


「しっかりと関門を超えられれば、私が彼に知りたがっている、彼自身のことについて話すつもりだ。後の判断は彼に任せる。こちらの理に反するようであれば、仕方のないことだが。」


 その場にいる、この国では指導者として認められている者たちは、しばらくは事の成り行きを静観せざるを得なかった。


「王宮通路、ショートカットポイントを通過、もう少しで第1関門と接触します。」


 「バベルの塔」内の作戦指令室内でオペレーターが「ランスロット」達に報告する。


 すでに彼らが侵入することを見越して、「鉄のヒト」を5体を3列で配置してある。


「たかがこれくらいの障害は蹴散らしてくれないと、こちらとしてもこのプロジェクトの結果の見当は出来ないという事になりそうだな。」


 民政党党首キャッシュールが知ったような口調で話しているのを聞いて「ランスロット」はかすかに口元を歪めた。

 一応、議会の第一党党首という事でこの席を設けてあるのだが、「魔導力」も少なく、また知力も低いこの男には「ランスロット」は失望していた。

 この会議終了後はしかるべき処置をして、今後「バベルの塔」には近づけさせないようにしよう。


 「ランスロット」が何を考えたか、見通したようにユミルの顔が微かに笑った。


「今は彼と対峙することですよね「ランスロット」殿。」


 ユミルの言葉に「ランスロット」が頷く。


「彼の出生の秘密は、彼自身が考えなければならない事だが。せめて私のところまで来てもらわないとしゃべることもできないからな。」


 「ランスロット」はユミルに苦い顔でそう告げた。


 ユミルも充分、「ランスロット」達の考えは理解しているつもりだ。


 ユミルはこの司政官という職責を担って、もう20年になる。


 この地位は、先ほどくだらないことを発言した議員とは違い、「バベルの塔」の強力な後押しが必要な職である。

 極端な話、国民の支持は必要ない。国王の影響も受けない。

 「バベルの塔」の支持だけが必要なのであるが…。

 実は「バベルの塔」の住人も一枚岩ではない。

 「バベルの塔」の住人の過半数の支持が必要という事は、ある意味では民主的ともいえるのだが。

 

 この「バベルの塔」への通路に立ちはだかる関門。その最終ライン、第3関門にはこの「バベルの塔」の住人が関与している。


 さて、我らがアイン君は無事に第3関門を突破して、賢者「ランスロット」と対面できるだろうか?

 司政官ユミルは充分その可能性が高いと思っている。それは、アイン・ドー・オネスティーは現時点での「バベルの塔」の最高傑作だから…。


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