第69話 混乱する王都
「バベルの塔」とは、なんなのか?
今一緒に自分と共にいる副団長のマルクス・メタファスも「特例魔導士」である。
「特例魔導士」になることで、世間一般には十分すぎる生活が待っていると思われている。
しかし、住んでるところも食べるものも、着るものも困らない。
世間一般よりかはいい暮らしが出来ている。
それは確かに間違っていはいな。
しかし、この国に、しいては「バベルの塔」に殉じよ、というのがこの生活の見返りである。
自由とは程遠い、奴隷とさえ言って差し支えない生活なのだ。
この境遇を少しでも良くしたいというのが、マルクスの、「特例魔導士」大部分の願いだとアインは思っている。
アインの私的な恨みは公憤へと転換され、一般の国民に対して、「特例魔導士」の豪華な生活を前面に出し、「特例魔導士」という制度そのものを亡くしたいと思っての蜂起であった。
だが、死の間際の国王の言葉は、アインには全く違う一面を「バベルの塔」が担ってると伝えている。
この50人でどこまで「バベルの塔」の謎に迫れるかわからないが、その一端でも垣間見ることが出来れば、何かが変わるかもしれない。
アインは今、その目的のために、「バベルの塔」に向かっていた。
オズマは国軍警備隊に連行されていくチコちゃんことチコノフスキー・シリウス騎士団第3大隊隊長を見送ると、国軍中央防衛隊と「バベルの塔」直属防衛機構隊と協議を重ねた。
その結果、隊長以外にはおとがめなしという形でオズマの考えうる最高の判断を勝ち取った。
実際、ほとんどの隊員騎士が上司からの洗脳ともいうべき「誘導」を使った演説を聞かされていたためだ。
基本的にはシリウス騎士団団長の命令に従えというシンプルなものだったが、5千人規模での洗脳にはシンプルなことしかできないという限界もあったのだろう。
国軍の叛乱兵500人についての詳細は今のところ分かってはいない。
ただ、主導したのが「特例魔導士」のトライアル少佐である可能性が高いことから、やはり何らかの洗脳が行われた可能性が高い。
国王殺害というショッキングな通信が国民に知られたことにより、すでに外出禁止などどこ吹く風という感じで、王宮、および行政府ビルのあった場所を遠巻きに見ている。
この行政府ビル爆破ともいえる破壊行動が誰によって引き起こされているかは、今のところ不明である。
ほかに影響を与えずにこの行政府ビルだけを崩すというからには、かなり強大な「魔導力」が行使されたと思われるのだが、その兆候が今のところ発見できない。
さらに不可解なことに、死傷者がほとんどいないということだ。
何名かの人物とは以前連絡が取れていないのだが、本来、業務を行っているはずの多くの人が、なぜかその時間に、この行政府ビルを半ば強制的に退出させられていた。
ただ、連絡の取れない数人の中に、この国の実質的にトップである司政官ユミルが入っているため、国軍の捜索隊が必死になって瓦礫を撤去している最中であった。
「司政官がいないと、誰がその間、この国の行政を担うんだ?」
オズマが国軍警備隊隊長であるシモンズ・ベルナータに聞いてきた。
「普通であれば副官か、国家議会の第一党、民政党党首あたりが担うはずなんですが、そのあたりもこぞって行方不明なんです。連絡が取れません。リングの通信に反応しないんですよ。」
「ちょっと待ってくれ。では、みんなこのビルの中にいたのか?」
「副官あたりはいた可能性が高いんですが、民政党党首、キャッシュールはあの国王の殺害放送後に、自宅を出ています。このビルにはいないはずです。」
「誰も代わりがいないんじゃやばくないか?」
「大抵の場合、「バベルの塔」が何とかするとは思うんですが…。」
オズマはその言葉に、行政府ビルからさして遠くない、丘の上にそびえる「バベルの塔」に目を向けた。
現在、「バベルの塔」の執政者は4人だ。
うち3人は「天の恵み」回収作戦で国外にいる。
通信もままならない場所である。
一人残っている賢者「ランスロット」も、今は沈黙を守っているようだ。
叛乱を起こしたアイン率いる兵力は、国王殺害の実況通信以降、動きがない。
オズマは隊長代理として第3大隊を統率している最中で、現在、チコノフスキーのいなくなった状態で、いない騎士の確認を行っている。
それが済み次第隊を再編し、王宮に陣取る叛乱軍に対し、国軍中央防衛隊、「バベルの塔」直属防衛機構隊と連携し、残っているはずの王族、並びに一般職員たちの救出を行う予定である。
叛乱軍にはシリウス騎士団のアイン、マルクス、そして国軍のトライアルという3名の「特例魔導士」がいるため、その「魔導力」を封じ込めねばならない。
できればこの王宮でさらなる戦闘は避けたいところだ。
「状況はどう、オズマ。」
空からの掛け声に、上を見上げると、残留飛竜隊臨時隊長のサンドラの飛竜、ヴィーナスが降りてくるところだった。
崩れ落ちた行政府ビルを避けて、隣接する広大な公園に着地する。




