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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第68話 国王の死

「貴様!国王に何ということを。」


 アインは、いまだティンタジェル国王を刺し貫いている剣を握りしめている騎士の胸倉をつかみ、後方の壁に押さえつける。

 その拍子に剣を落としたことにより、国王はそのまま崩れ落ちた。


「も、申し訳ありません。国王が団長の言うとりに言わず、非難、ぐっ。」


 アインの力がさらに強まり、その騎士は喋れなくなった。

 それどころか、頸動脈を絞められ、顔色がだんだん白くなっていく。


 アインはその暗殺的行為をした騎士を、そのまま放り投げ、すでに血の海の中に倒れている国王に向かう。


「すぐに回復士を集めろ!国王を死なせてはならん!」


 副団長がその場にいる、信頼できるはずの騎士たちに怒声で命じた。


 アインは類まれな「魔導力」を誇る「特例魔導士」である。

 身体に対する「魔導力」にも精通しているため、国王の一時的な延命処置は施している。

 そして国王の耳元に口を寄せた。


「国王、「バベルの塔」への隠し通路は何処だ?」


 その囁きに、国王の瞳がアインを見た。


「な、何故、それを……、聞く?」


 切れ切れに、国王の口元が動く。

 呼吸するにも繰りそうにしながら、アインに対するその目の力は強い。


「「バベルの塔」に用がある。」


 国王の瞼が静かに閉じようとしていt。


 アインは内心ここまでか、と思いながら「魔導力」をさらに国王の体にそそぐ。


 急にその瞼が力強く開いた。


「それが、アイン、そなたの望みか?」


 しっかりした口調でアインに尋ねた。


「俺の望みは、俺たちを縛る「バベルの塔」の解体だ。」


「何も知らぬものが、たいそうな口ぶりだ。ゴフッ。」


 口から血の塊を吐き出した。

 それでも国王はアインを凄まじい圧で、その顔を見つめる。


「いいだろう。お前が「バベルの塔」の意味を知ることが出来るというなら、その目で真実を見てくるがよい。」


 国王は、たびたびその口元を苦しみにゆがめながら、隠された「バベルの塔」の直通の通路をアインに伝えた。


「アイン、お前が真実を知ることを期待する。ある意味、グフッ、お前に、は、ゴフッ、グフッ。」


 いったん言葉が切れた。


 とうとう生が尽きたか、とアインが思った時。


「お前には知る権利と意味がある。」


 その言葉を最後に、国王の体から力が抜け、アインの腕の中で完全に動きを止めた。


 その時になって、騎士団の回復したいが国王の下につき、延命治療を始めた。


 アインは国王の血が付いたまま、そこから立ち上がり、心配そうに見る副団長に視線を移す。


「動ける信頼を置ける部下をすぐに集めてくれ。この王宮の隠し通路を使い、「バベルの塔」を落とす。」


「はい、団長殿!」


 国王の治療をしようとしている回復士たちの横で、みっともなく倒れている国王暗殺犯を横目に、アインは副団長や部下を従え、王宮の奥に向かい駆けだした。




 アイン達がいなくなると、しばらくして国王をその手にかけた騎士が、おもむろに立ち上がった。

 そして、すでに国王の身体から抜かれているその騎士の血で汚れた剣を掴んだ。


 背後の動きに気づいた回復士の一人が振り向くと、しかしその騎士を見ることはできなかった。

 首の半分を切断され、絶命した。


 仲間が急に倒れたことに気づき、「おい、どうし」と声をかけたものは背中から剣を刺され、心臓を貫通され、国王の上に倒れこむ。


 ここに至って何事が起ったか察した最後の一人が、その位置から後ろに跳躍して、自分を守る半透明の障壁を展開したが、その前に小さいナイフが頭部と胸、足に3本突き刺さっており、そのままあおむけに倒れた。


 瞬時にそれだけのことをした騎士は、突き刺さっている剣を死体から引き抜き、あおむけに倒れているものの首をあっさり切断し、刺さっているナイフ状の凶器を回収した。


 この騎士が国王殺害に使用した剣は、シリウス騎士団で一般に使用されている貸与された「魔導剣」であったが、ナイフ状の凶器はこの男が所属する組織の紋章、塔に竜が巻き付いているデザインの紋が彫り込んであるため、回収する必要があった。


 その騎士は自分以外、生きているもののいない大広間を通り抜け、大広間を抜ける前に、血で汚れたその騎士の服を脱ぎ捨て、国軍の軍服姿に変わっていた。




 隠し通路を走るアインの後ろから副団長を含め、50人ほどがともに走っていた。


 結局、このクーデターまがいのことはこの50人によって急遽実行されたものであった。


 アイン自身も含めて、みなこの「バベルの塔」支配体制に疑問と不満を持っているものだった。


 本来であれば、より確実に共通の目的を持った指導者クラスの者を取り込み、この騎士団のみでなく、他の騎士団、国軍、行政府に同志を作りじっくりとことを起こすべきなのだ。


 しかし、降ってわいたような「天の恵み」回収作戦で、この国の兵力の半分以上が国外に出た今こそ、その好機とみて、騎士団の隊長クラスから「誘導」という名の「魔導力」を行使し、ほぼ洗脳状態で事に及んだのだ。

 しかし、結局のところたかが5千人程度の兵力では、たとえ兵力がなかったとしても、王宮と国の重要拠点の占拠で手一杯であることが分かっただけであった。

 そこで国王を脅し、臨時政権を作る裏で、この通路から残存の兵力で一気に「バベルの塔」の制圧を試みるつもりであった。


 だが現実には、思う以上の困難が立ちはだかり、自分程度の「魔導力」だけでは何も果たせないことを知るだけだった。


 にもかかわらず、数少ない同志の命を賭けさせても、「バベルの塔」に向かわなければならい。

 あそこは謎が多すぎる。

 そして、国王はその謎を知っているかのような口ぶりだった。


 さらにアインに対して知る権利がある、とまで言ってきたのだ。


 この国に限らず、誰もが思うこと。


 「バベルの塔」とは、なんなのか?


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