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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第67話 国民に向けて

 20:00。全ての騎士のリングが突然発光した。

 国からの特別通信である。


「5分後に特別通信が入ります。全ての国民はこの通信を受けてください。可能であれば、映像投射機に接続してこの通信を見るようにお願いします。」


 この通信は何だ?


 小型飛翔機の体当たりでその後の映像が送られてこないまま、3人はまだ2階のリビングにいた。

 ブルックスは完全に呆けた状態だ。


 ハーノルドは自分のリングを映像投射機に同調させた。


「なに、これ?」


 ブルックスが再び映像投射機に光が点ったことに不審に思い、ハーノルドに言った。


「お前のリングにも通達は入ってると思うけどな。」


 いかに自分の息子が虚脱状態だったか、少しあきれていた。

 と、思ったら、父親のミフリダスはどうやら寝ていたようで、映像投射機の点灯で目を覚ましたようだ。


「何か、王都で起こっているのかね。」


 3階から降りてきたカイロミーグがそんなことを言いながら3人がいる場所に入ってきた。


「繋いだんでしょ、これに。」


 ブルックスの母であるカイロミーグは映像投射機を指さして、ハーノルドに聞く。

 ハーノルドは頷いて、自分の座ってる場所を少し開けた。

 当然のようにそこにカイロミーグが座った。


「王都方向に微かに煙が上がってるんだよ。」


「だって、今、「天の恵み」回収作戦やってる最中じゃないの?」


「ん~、何とも言えないが、軍事力の大部分をその回収作戦に当ててるとすると、場合によってはクーデターがやりやすい、と思うやつがいたとしても、おかしくはないか。」


「クーデター?なんで?結局「バベルの塔」がある以上、無理だろう。」


「普通はそう考えるんだが…。」


 そんなことを言っている最中に壁に映されていた光が、人に変わる。


「私は、シリウス騎士団団長、アイン・ドー・オネスティー。本日は親愛なる国民の皆様にお伝えすることがあり、このような機会を作らせてもらいました。」


「シリウス騎士団?ミノルフ様の?」


「本日は今まで精神的に囚われていた国王方の解放できた、記念すべき日となりました。」


 その言葉にカイロミーグ反応した。


「この人、何言ってんの。誰も国王様を捕まえてなんかないよね。」


「そうだけど、ね。多分、捕まえたのはこいつらだろう。」


「我が母国、クワイヨン国が平和だと感じている国民は多いことでしょう。しかし。」


 そこでアインは言葉を切り、少し周りを見る雰囲気を出す。


「現時点で、無謀な戦いを組み、7千人以上の我が国の尊い国民の命を、投げ捨てているものがいます。そうです。「バベルの塔」です。」


 これは「天の恵み」回収作戦を指しての言葉か。


「既にそんなに戦死者が出ているんですか、あなた。」


 カイロミーグが不安そうにハーノルドに聞いてきた。ハーノルドはその問いに渋面で答える。


「エンペロギウスさんのアルクちゃんは大丈夫かしら?」


「アルク姉さんが出陣していること、母さん知ってたの?」


「分かりますよ、ブル。あなたがあんなに真剣に何かをしてたし。昨日、1日中バイクで外に出てたのも、アルクちゃんのためでしょう。」


 ああ、母さんには何も隠し事は出来ないのか。


 ブルックスは母の洞察力に舌を巻いた。


「国民の皆さんももう承知している通り、「天の恵み」という、「バベルの塔」にとって重要なものに、関係のない我々国民の命を無造作に使われています。今回も、我々を守るための国軍、その地方を守る騎士団、そしてこれからのこの国を作っていく学生が強制的に徴兵されました。その学生たちも既に20名以上の死亡が確認されています。この異常なことが、なぜ起こるのでしょうか?」


 そこでまた言葉を切った。

 間をためてるつもりなのだろうと、ハーノルドは考えた。


「我が国が「バベルの塔」という謎の組織に支配されているからであります。我々はこの「バベルの塔」との決別こそ、我がクワイヨン国の真の自由を勝ち取る方法であると考えます。そして、今、その最初の一歩を歩み始めました。それが、我が国の国王ティンタジェル・アル・クワイヨン陛下の救出でありました。」


「救出ねえ~。明らかに拉致だと思うが。でも、ここは王宮の大広間あたりか。」


 ハーノルドがそんなつぶやきを漏らす。


「これより、我がシリウス騎士団と国軍の合同解放軍は、「バベルの塔」との本当の解放のための戦いに移ります。これより、国民の皆様にお願いがあります。今後の「バベルの塔」の軍との戦闘に国民の方々を巻き込んでしまう可能性がありますので、絶対に屋外には出ないようにお願いします。戦闘に巻き込まれた場合に、こちらも国民の方々を助ける余裕はありません。明日12:00までの外出は控えてください。」


「事実上の外出禁止令って訳だ。外に居たら問答無用で殺すってことか。」


 ミフリダスが吐き出すように、口をはさんだ。


「それでは、敬愛すべき国王、ティンタジェル陛下に一言を。」


 映像の中で中央にいたアインが右にずれ、左から国王の礼服を着たティンタジェル国王が出てきた。

 見たところは体調は大丈夫そうだが、その表情は解放されて喜びを感じているものとはだれも思わないだろう。


「親愛なるクワイヨン国の人々よ。ティンタジェル・アル・クワイヨンです。これからわしが話すことをしっかりと受け止めて、行動してください。この者の言葉に騙されてはいけません。この者はこの国に対する反、ぐふっ。」


 ティンタジェル・アル・クワイヨンが急に倒れるように映像から姿を消した。

 と、同時に映像が消え、ただの光だけが壁に投影されている。


「父さん、これは…。」


「ティンタジェル・アル・クワイヨン国王。素晴らしいお方だ。自らの命を犠牲にして、我々民に、真実を伝えようとしたんだ。」


「国王は、無事でしょうか?」


 カイロミーグが心配そうに聞いてきた。


「分からない。だが、この叛乱は、もうすぐ終わる。この通信を見たものは、誰が正義か、隠しようがないんだから。」


 ハーノルドの声に、ブルックスはただ頷いていた。

 そして、学生の死者の中にアルクネメの名がないことを祈った。


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