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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第64話 王宮での戦闘

「また、余にその素晴らしい歌声を聞かせてくれ。」


「はい、かならずや!」


 部下に連れられ、王家専属の待避所に向かう。

 その場所は一般には知られてはいないが、「特例魔導士」たるアイン騎士団長にどこまで通用するかは、不明瞭であった。


 国王一家の避難を見届け、アトロールは王宮防護隊隊長、ジョーンズ・ワート大佐にリングを繋ぐ。


【シリウス騎士団が王宮に4方面から侵入。遠隔射撃にて各扉の防護兵が無力化されました。北裏扉では何とか侵入を防護していますが、ほか3方向、特に正面はシリウス騎士団本隊の強固な突入に防護兵のあらかたが倒されました。】


「あと3分持たせろ!私が行く。残った兵力は一旦後退。国王たちの避難までの時間を稼げ!」


【了解】


 劇場から駆け足で正面扉に急ぐ。

 だがすでに正面扉から、正面の階段までを無粋な野戦服を着た賊軍がこの美しい玄関ホールを穢していた。


 アトロールの心に蒼い炎が急速に燃え上がった。

 そして、その炎をそのまま握りしめている剣より迸らせる。


 その強力な熱を持った炎の筋が、2階に上ろうとする尖兵たちを薙ぎ払った。


 先頭の騎士は当然その炎に巻き込まれ、周りの騎士を巻き込んで階段を転がり落ちる。


「よく聞け、賊軍ども!ここより一歩も「特例魔導士」たるこのアトロールが行かせはせぬ。」


 もともと体格の良いアトロールは怒りのため、もう二回りほど大きく見える。

 その殺気に、最初の一撃を逃れた騎士たちは、硬直していた。


 アトロールはさらに、その剣をふるい、ホールに集まった騎士たちを紙のように切り、燃やしていった。

 正面扉から入った騎士たちは、その数ゆえ、動きの自由を制限され、たった一人のアトロールに押され始めている。


 アトロールには時間を稼ぐことだけが、今の自分たちの勝機であることを理解していた。


 1日持ちこたえれば、「天の恵み」回収作戦に参加した兵士が戻ってくる。

 この騎士や兵士を王宮から叩き出し、籠城戦に持ち込めば、我々の勝ちである。


 さらにアトロールは一歩足を踏み出した時だった。


 騎士たちが左右に割れた。

 アトロールに前に一本の道が現れる。

 そして、そこにはよく知った顔の騎士が剣を携え歩み寄ってきた。


 シリウス騎士団団長アイン・ド・オネスティーが、その先に現れた。


 アトロールはアインの顔を見た瞬間にその「魔導力」を込めて、蒼い炎を剣に乗せ、そのまま横に薙ぎ払った。

 と、同時に階段を蹴り、跳ぶ。


 蒼い炎はその射線上にいた者を切り、焼きながら目的とする人物に襲い掛かる。


 数人の騎士が何もできないまま切られ、焼かれ、倒れた。

 対応できた者はその力を自らの「魔導力」で打ち消したが、剣圧に後退を余儀なくされる。


 その開かれた空間を一気に跳び、アインに切りかかった。


 アインを襲った蒼い炎を剣でそのまま受け流し、その直後に現れたアトロールの二の剣をうけつつ、後方に飛んで、アトロールの巨体をそのままぶつけてくる衝撃を打ち消す。


「久しぶりの後輩に会っての挨拶にしては、非常に非好意的じゃないですか、アトロール先輩。」


「俺にそんな余裕はないぞ、シリウス騎士団長!お前の強さは俺がよく知ってる。」


 言うと同時に、交わした剣を振り払い後方にひきつつ、蒼い炎をアインに向けて放つ。


 アインは迫りくる何十という炎の玉を剣と「魔導力」の障壁でやり過ごす。


 結果的に王宮外にいるアインと剣を交わしたことで、自分も王宮の外に出てしまい、圧倒的な「特例魔導士」の力に動けなくなっていた玄関ホールに侵入していた騎士たちが、目的を思い出したかのように階段に向かった。


 アトロールは視線をその騎士たちに向け、身体を反転、さらにそのまま王宮に飛び込む。

 着地と同時に剣に炎を乗せ、横に一閃。

 正面の階段にまでその剣圧は届き、紙工作を切るように、あっさり切り裂いた。


 上り始めていた騎士ごと瓦解する。

 そして、剣の射線上にいた騎士も薙ぎ払われ崩れ落ちた。

 その威力に恐怖した騎士もまたその場にへたり込んでしまう。


 瓦解した階段の前に立ったアトロールは自分の剣を両手で持ち、床に突き刺した。


「まずい!全員耳をふさげ!」


 その瞬間、強大な「音」という力が、アトロールを中心に放たれた。

 その「音」は物理的な圧力となり四方に衝撃を拡散する。

 アトロールの近くにいて、耳を守れなかったものの鼓膜は破れ、失神した。

 床が波打ち、窓のガラスは粉々に砕け散った。


 アトロールは特に「音」に優れた「魔導力」を持つ「特例魔導士」であった。

 それが音楽隊でその力を「音楽」に行使していたにすぎない。

 攻撃的な「音」を使う事も、アインは熟知していたが、部下の騎士たちに徹底はしていなかった。


 これで正面から国王の場所に行くことはなくなった。

 だが、アイ・シートにとうとう北裏口が突破されたこと、西と東から騎士たちが王宮内に入っていることは解っていた。

 既に、王宮内の王都防衛隊の兵士の殆どが無力化されてしまっていることも…。


 王宮正面玄関ホールのシリウス騎士たちはほぼ無力化したが、アインを含め、正面玄関の外には、多くの騎士たちが距離を取ってアトロールを見ている。


【申し訳ありません、アトロール閣下。国王を…、守り切れません…でした…。】


 戦闘用リングからアザムル中佐の弱い思念が伝わってきた。


 皆、いい腕の奏者であったのに…。


 目の前の、クワイヨン高等養成教育学校の後輩の顔を睨みつける。


 一瞬、学生時代の笑いあった顔が脳裏をよぎった。


 ティンタジェル・アル・クワイヨン国王、約束を守れず、申し訳ありません。奴に、一太刀でも届くよう、お力を‼


 剣の柄を握りなおす。


 アイン・ドー・オネスティーもまた、両手で剣を構え直すのが見えた。


 その“敵”に向かって、アトロールは跳んだ。


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