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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第6章 叛乱の騎士団
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第62話 残留部隊

 クワイヨン国、王都クワインライヒ市にはクワイヨン国軍王都防衛隊が常駐している。


 王都防衛隊はその総司令官であるリンデラル・ズィー・アトロール大将の名からアトロール隊とも呼ばれる。

 この王都防衛隊は軍事的なものよりも儀礼的な色合いが強い。

 それはアトロール大将が国軍音楽隊の出自からもうかがえる。


 アトロール大将は「特例魔導士」である。

 当然「魔導力」は強大で、戦闘全般に対し概ね良好な成績を残している。

 しかしもっともその技量を発揮したものは芸術、特に音楽に特出していた。

 歌、楽器全般に対して才能を示していた。

 「クワイヨン高等養成教育学校」ですでにその才能は認められていて、卒業後、一般の軍務訓練後、音楽隊の功績のみで大将にまで上り詰めた伝説の軍人である。


 「特例魔導士」の中で純軍事的才能だけでなく、その「魔導力」は事務処理の才能、芸術的才能、金融関連の才能や、当然医療の才能といったように多岐にわたる。

 多くの才能は戦闘的な分野に偏る傾向はあるが、行政関連、財務関連にも多くの「特例魔導士」が活躍している。

 このため、「シリウス騎士団には「特例魔導士」は3人しかいない」と嘆く所以である。


 実際の問題として、国家間での戦争というものはこの世界で殆ど起こることがない。


 国家間の問題は当然あるのだが、実際に兵を動かして、他国に侵略するには「魔物」の存在が大きすぎる。

 国軍、騎士団共に戦闘の相手は同じ人間ではなく、「魔物」である。


 このことから、王都が軍事的な脅威にさらされるという状況は少ない。

 それよりも、国王や、国としての行事、国家間の親交などで、儀礼的な運用がその任務の大部分を占める。

 この任務にアトロールの実務は非常に大きな功績を残していた。


 このクワイヨン国の主権は基本的に国民が有している。

 国王は存在するが、国の象徴であり、「君臨するとも、統治せず」という言葉がその存在を明示している。

 この国の実質的な代表は行政の長たる司政官ユミル・ザラトウストである。

 行政府と国家議会がこの国を運営している。

 そしてそれより上位の機関として、「バベルの塔」が存在する。


 行政府、国家議会は「バベルの塔」と同じセントテラ市にあり、国軍所属中央防衛部隊、「バベルの塔」直属防衛機構隊が共同で防衛にあたっている。


 この日、シリウス騎士団残留部隊の第1大隊2000名、第2大隊1000名、第3部隊1000名に対して特別待機命令から、王都防衛命令に切り替わった。

 これは残留部隊の8割に当たる人員である。

 これに対して、命令を受けていないのは、儀礼隊、調達部隊、騎士団本部部隊、そして飛竜隊の約1000名である。


 飛竜隊の残留隊を指揮しているサンドラは同期の第3大隊副隊長オズマから、王都防衛命令の発令後すぐに連絡が来た。


 その連絡を受け、すぐさま飛竜隊20名を招集、王都の上空警戒に当たっていた。


 そこでサンドラは上空から騎士団の動きを監視していたのだが、思ってもみなかった光景に愕然とした。騎士団に国軍中央防衛隊の軍旗を掲げた一団が合流したのである。


 サンドラは騎士団本部に対して、国軍中央防衛隊との合同作戦の有無を問い合わせた。


 回答は「そう言った作戦はない」という簡潔なものであった。


 続いて、国軍中央司令部にも同じ問い合わせをした。

 これに対しては、中央防衛隊第3中隊500名が王都防衛の任に当たることは確認したが、騎士団との合同作戦の事実はないと同様の回答だった。

 サンドラは上空警戒からの両部隊の合流を報告、しかるべき事態に関しての警告をし、さらにシリウス騎士団飛竜大隊隊長ミノルフの名で、行政府司政官あてに、現状の残留シリウス騎士団と国軍中央防衛隊の一部が合流して、王都の向かってることを報告した。


 行政府司政官ユミル・ザラトウストは、秘書官よりその報を受けると、「バベルの塔」への直通通信を繋げた。


「賢者「ランスロット」様、ケース72、対応お願いします。」


「了解した。ザラトウスト司令官、報告を感謝する。」


「ランスロット」はいくつかある対応策を考慮し、「鉄のヒト」の起動を命じた。




 既にこの時点で、「天の恵み」回収作戦の前段階でのユスリフル野営地の戦闘状況が明らかになってきた。

 それはかなりの被害状況であった。サンドラはこの情報を国民に知らせるには細心の注意が必要だと思った。


 シリウス騎士団団長、アイン・ド・オネスティーと副団長、マルスク・メタファスもまたその情報を入手していた。

 だが、その反応はサンドラとは正反対で、この二人はいかに効果的にこの情報を国民に知らせるか、今の計画のどこに使うか検討を開始した。




 それは静かに始まった。

 シリウス騎士団第1大隊隊長ザルムハットが、王都の外壁の開閉門の防衛隊に作戦計画書を提示、既にその午前中に防衛隊に内示をしていたため問題なく門が開いた。


 整然と騎士団が王都に入場を果たしている最中に、国軍中央防衛隊の軍服に気付いた王都防衛隊門兵が声を掛けた。


 抜刀された剣がその門兵の首元をあっさり切り付け、連絡しようとしたもう一人の頭を槍が貫いた。

 そして、何もなかったように王宮に向かい歩を進めていく。


 第3大隊副長で、命令に従い今ともに歩いてる軍隊が、既にただの暴力機関であることを認識した瞬間だった。

 既にこうなった時の対応を同期のサンドラと重ねてはいたが、ここで思わず暴れたくなるほどに、胸糞が悪くなってる。


 指のサインで隊の同志に指示をする。


 この後、第3大隊は王宮に向かうルートを外れ、隣接するセントテラ市に進軍し、行政府を制圧するという事になりそうだ。

 副長のオズマにも詳しい計画は知らされていない。

 ただ、この国をより良い方向に進めるということだけで、末端まで「命令」という事で事を進めるつもりらしい。

 第3大隊隊長ニルカイ・チコノフスキーはアイン団長の崇拝者でもある。


「チコノフスキー隊長、よろしいですか?」


「今は任務遂行中だ。必要な事か?」


 厳しい表情でオズマを睨みつける。

 が、その瞳の中に不安な色が見え隠れしている。

 思考波は完全に遮断してるようだが、表情だけでバレるのでは、とても大義を実現できるとは思えない。


「行政府を制圧するのであれば、挟撃すべきと進言いたします。」


「うむ。」


 チコノフスキー、部下の間ではチコちゃんと呼ばれるこの隊長が少し考え込んだ。

 副長の言っていることは作戦としては、確実だ。

 だが実行する人間が、信用できるか、天秤にかけている。


「これは、大義のある戦いなのでしょう、隊長。」


「当然だ。現行政府の行いを正す戦いなのだ。」


 オズマのその言葉に腹を決めたようだ。


「分かった。副長の進言を取り入れよう。第2中隊、第4中隊、第6中隊を連れて行け。」


 そして、戦闘用リングの時間を確認した。


「今より1時間後、19:25、作戦を開始する。」


「了解しました。」


 さすがに、オズマが掌握する4・5・6中隊でなく、2・4・6としたところが完全な信用ではないというところか。

 しかも奇数・偶数隊で分けるところは、不自然さを感じさせない区分だ。


 だが、隊長の小心さは思った通りだ。

 第2中隊の者たちもこれから起こることを正確に把握などはしていないだろう。

 いくらでも対応可能だ。


 オズマはまた指のサインで、第4・6中隊に指示を与える。


 これで、とりあえずの準備は出来た。


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