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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第61話 「魔物」を操る少年


 ツインネック・モンストラムと「バベルの塔」から名付けられたその「魔物」は、まだ生きていた。


 体内にためられていた「テレム」は、そのほとんどを失ってしまっている。

 「魔導力」はまだ健在であるが、吹き飛ばされた蛇の首の根元からは、いまだに血が流れ、もともとの生体機能もあとわずかで停止する状態である。


 すでにこの世に生を受けてからどのくらいの年月を過ごしたのかは、とうの「魔物」もわかりはしなかった。

 ある時突然の苦痛が全身を襲い、その痛みから逃れた時に人類の呼ぶ「魔物」となっていた。

 それからはこの山の中でただ喰らい続けた。


 いつの頃からか、頭の中に声が聞こえ、その通りに喰らい、生き続けた。


 その頭の声が、この日にはやたらとうるさく、この巨体の「魔物」に指図を続けた。


 今はその声も聞こえなくなり、やっと何かに追われるこの生き方から解き放たれると思うと、かすかな喜びともいえる感情が、体内を駆け巡った気がした。


 ツインネック・モンストラムは、最後に目を開き、自分の居場所を確認しようとした。


 その目の前に、あたりが暗くなってきて、闇が広がり始めた周りの世界に、赤い目が多数集まってきているのを捉えた。


 自分のこの体を喰らいに来た「魔物」たち。


 自分もそうしてきたことを思い出していた。

 生きることはただ喰らうこと。


 しかし、ツインネック・モンストラムはその中央の赤い目が左右に動き始め、自分の前に道を作り出したのが分かった。


 今更、何のために…。


 その道をこちらに歩いてくるものがいることを、ツインネック・モンストラムは知覚した。

 それは黒い靄のようなものをまとい、この闇に同化していたが、「魔物」達にはその存在をいやでも知覚せざるを得なかった。


「ふーん。こんなところでねんねするんだね。君をここまでするにどのくらいの年月を使ったと思っているの?こんなことぐらいで死んでもらっちゃ、割が合わないなあ~。」


 その存在は、この近辺には人類がもういないことを徹底的に精査して、その纏っていた黒い靄を霧散させ、自分の姿をツインネック・モンストラムに、そして周りの「魔物」にさらした。


 その姿は人間にそっくりであった。

 10歳くらいであろうか?

 あどけないその少年のような姿をしたものから発せられる声は、自分を縛り付けていたあの頭の中の声と同じであることにツインネック・モンストラムは気づいていた。


 どうやら自分には、まだ自由になる時ではないらしい。


「ツインネック・モンストラムねえ。そのまんまじゃん。センスってものを疑うよ、「バベルの塔」の住人にはさ。僕がデストロイド・エンジェルって素敵な名前を君に付けたのにね。」


 少年はそう言いながら、横に倒れていて、わずかに目を開けているツインネック・モンストラムの頭を撫で始めた。


「さあ、その名前の通り、破壊の限りを尽くしてくれ、デストロイド・エンジェル。君に僕の力を分けてあげるよ。奴らは重たい荷物を持って、ヨタヨタと走っているからすぐ追いつけるよ。」


 ツインネック・モンストラムはその言葉に抗議するかのように、目をつむろうとした。


「だめだよ、デストロイド・エンジェル。もうひと働きしてね。僕達のために。」


 少年は撫でていた手から、強力な赤い光を放ち始めた。


 その光は強制的にツインネック・モンストラムに吸収されていく。


 出血していた血が止まり、無残にちぎれた首の根元の皮膚が再生していく。


 体中にある、赤い目たちが次々と、開かれていった。


「うーん、あれも鬱陶しいね。壊れちゃえ!」


 ツインネック・モンストラムの周りに展開していた「テレム」分解シールドの機械が次々と爆発していった。


 すると、森で作られていた「テレム」が湧き出るように、ツインネック・モンストラムに流れ込んでくる。


「どうだい、デストロイド・エンジェル?体の調子もかなり良くなったようだね。君のために用意した食事たちだよ。存分に喰らってくれ。」


 先程まで、死にそうだったツインネック・モンストラムを喰らうために集まってきた「魔物」達を少年は指差して、高らかにそう言った。


 それにツインネック・モンストラムは咆哮で答えた。


 食うものと食われるものの立場が逆転した。


 周りにいた「魔物」達が一斉に逃げ出した。


 その「魔物」達の背後から3頭を一瞬で咥え込み、数度かみしめて飲み込む。


 さらに8本の脚で立ち上がり、逃げる「魔物」達に背後から襲い、喰らっていく。


 かなりの失血を瞬時に補い始めた。

 その風景に少年は微笑んだ。


 100年以上の年月をかけ、育て上げた自分が愛する「魔物」。

 首の一つがなくなった程度では、この巨大な「魔物」、デストロイド・エンジェルの力を削ぐことなんかできない。


 次々と「魔物」達を捕食し、動きがその都度滑らかになっていくデストロイド・エンジェルは、その巨体に似合わないスピードを出し始める。


「さあ、行こうか、デストロイド・エンジェル。おまえを倒したと喜ぶ愚かな人間にその真の力を見せつけて来い。」


 頭の中を支配する声に巨大な「魔物」はまた、自由を奪われた。


 森の木々を踏み倒し、自由にならない身体に縛られツインネック・モンストラム=デストロイド・エンジェルは日の沈んだ山の闇の中、疾走していた。


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