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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第60話 エンジェルの目覚め

 かなりの揺れにエンジェルは目覚めた。


 自分は今どこにいる?


 エンジェルは重い瞼を開けた。

 目の前にオオネスカの今にも泣きそうな顔が飛び込んできた。


「よかった!エンジェルが目を覚ました。」


 そういうとエンジェルの首に抱き着いてきた。


 その行為はエンジェルの身体の各所に痛みを与えた。

 さすがにこの行為を注意しようとしたが、顔を涙でぐしゃぐしゃにしているオオネスカに文句を言う気が失せた。


 そして、自分の場所と記憶を探ろうとした。


 ツインネック・モンストラムの首が爆発して、その爆風をまともに食らう形になった。

 このままだとかなりの勢いで地面にたたきつけられてしまうと瞬時に判断し、お嬢だけでも助けようとした。

 オオネスカを抱えるようにしたところで右側に強い衝撃を感じて意識を失った。


 一度、お嬢に呼ばれた気もするが、その記憶はあやふやだ。


 周りを見回そうとして、オオネスカに抱きしめられた状態で、少し首を伸ばしてみた。


「エンジェルの意識は大丈夫の様ですね、シシドー殿。」


 アルクネメが傍らで膝立ちしている男にやや明るい声で話しかけた。


「ああ、意識が戻ったようならまず大丈夫だろう。まだガンジルク山の中だから、「魔物」達はうじゃうじゃいるが、逆に「テレム」も豊富に存在してるみたいだしな。」


 シシドーは自分のアイ・シート上に表示されている情報を見て、そういった。


「だが、俺だって飛竜を診るのは初めての経験だ。王国の専門医にもう一度見てもらったほうが間違いない。」


 まだかなりの振動を感じるここが、ガンジルク山の中を走っている軍用車両だとわかった。

 金属製の荷台に簡易型のたぶん「魔物」の革から作られた幌が外界から自分たちを遮断している。


(私はどうして、ここに?お嬢)


 お嬢と呼ばれたオオネスカが涙でぐしょぐしょになった顔をあげて何か言おうとしたが、変な嗚咽が出るだけで、まともな声が聞こえてこない。


「オオネスカを庇った君が、瀕死の重傷だったんだ。それこそいつ死んでもおかしくない状態でね。何か所か、骨折していて、その一つが肺に刺さっていた。」


(確かに、それはひどい状態だな。だが、確かに痛みはあるが、呼吸はそれほど苦しくはない)


「ああ、そうだろう。このアルクが医療回復士のアスカのアドバイスを聞きながら、肺の損傷を直したんだよ。「特例魔導士」の力がどれほど凄いか、見せつけられた。ああ、自己紹介がまだだったね。私はデザートストームをまとめているダダラフィンだ。よろしく。」


 ダダラフィンは、エンジェルの現状の身体損傷について軽く説明して、左手を差し出した。


 エンジェルは、何故?と疑問に思ったが、右手を動かそうとして、結構な痛みが走ったため、このダダラフィンが自分の体を思って左手で握手を求めたことを理解した。


 オオネスカの肩に置いていた左の前足、飛竜的には左手のごつい爪が凶悪そうに光っている指を開き、ダダラフィンの武骨な左手を握った。


(で、今我々は何処に向かっている?)


「「天の恵み」を回収して、護衛をしながらガンジルク山を下山してる状況です。」


(あの化け物は、どうなった?)


「現在のところ全く動きはありません。ただ生死については全く分かっておりません。本来なら、「バベルの塔」側はあの化け物をサンプルとして持っていきたいようですが、今はそれどころだはないようです。」


(なにかあったんだな?アルクネメ。我々、飛竜の者の気配が全くないんだが)


 その言葉に、その車両に乗る者たちは一瞬、静まり返った。


 今、この車両に乗っているのはエンジェル、オオネスカ、アルクネメ、ダダラフィン、シシドーである。

 このチームのほかの者はミノルフとペガサスの救助に向かったもの、そしてこの車両を守るためにこの外で警戒しているマリオネットとグスタムである。


 誰もが、正確な情報を持っているわけではなかった。


「エンジェル、申し訳ない。飛竜たちはこの回収作戦の総合指令である賢者「スサノオ」の命で、そのパートナーと共に王都クワインライヒに向かった。どうも、王都で動きがあったようなんだが。」

 ダダラフィンがそうエンジェルに話した。

 エンジェルはその話を聞いて、思い当たることがあった。

 だが、それを話すべきは、ミノルフであろう。


(ミノルフとペガサスは無事か?)


 あの爆発は彼らが起こしたものだと、エンジェルは見ていた。

 そう、命がけで挑んだはずだ。


「無事だ。今はアスカが二人の身体状況を見ているが、けがはしているものの、アスカによってあらかた治っている。一番ひどかったのは、エンジェル、君だったんだよ。」


(そうか、それはよかった。あのとき、ミノルフとペガサスは死ぬ気だったからな)


 ああ、やっぱりそうだったんだ。


 アルクネメはエンジェルの語ることに納得する自分がいることを確認した。


「彼らもこんな機械の車両に乗って、ガンジルク山から離脱するために走っているはずだ。とりあえず、この車両も「天の恵み」回収車に追いつく予定だ。この山の中では地面が不安定ということもあって速度を出せないようだが、平原まで行けばある程度まで速度を上げて、極力早く国に戻る予定になっている。」

 ダダラフィンははそう言いながら、自分の背嚢から固形の戦闘食をエンジェルに差し出した。

「食べれるようならしっかり食ってくれ。この人間用の戦闘食でも飛竜も食えるんだろう。」


(食べる分には問題ないんだが…。悪い、さすがに、今は食欲がない。水があれば飲みたいんだが)


 ダダラフィンは差し出したスティック状の戦闘食をそのまま自分の口に放り込み、自分の水筒を取り出し、ふたを開いて差し出した。


 エンジェルは首にしがみついているオオネスカをそのままで、差し出された水筒の水を飲んだ。


(ありがとう、ダダラフィン。ただの水がこんなにうまいと思うのも久しぶりだ。まあ、ミノルフ達が無事であるなら、じきに耳に入ると思う。ここで私が話してもそれほど問題はないだろう)


 水筒を自分の背嚢にしまうダダラフィンに、そう語りかけていた。

 ダダラフィンに語り掛けてはいるが、それはここにいる人物に話すことでもある。


(もともと、この作戦にこれだけの兵力が国を後にすることに不安を抱えていたんだよ、ミノルフは…。シリウス騎士団の団長がどういう人物か、君たちは知っているか?)


「いや、「特例魔導士」だということ以外はそれほど詳しくはない。」


(普通はそんなとこだろうな。彼、アイン・ドー・オネスティー団長は「特例魔導士」となってしまってオネスティー伯爵家を継ぐことが出来なくなってしまった。結果、次男のツヴァイが継いだんだが、まったくその素質がなかった。結果的にほとんどの資産を手放してしまうことになる。それをアインは恨んでいる可能性をミノルフは考えていた)


 なぜそんな話を今してるんだ?


 あからさまにダダラフィンの顔に現れたようだ。思わずエンジェルの顔が苦笑のような顔をした。


(まあ、疑問に思うのは解るが…。まあ、そういう訳で、今シリウス騎士団のクワイヨン国残留部隊を預かってるのが、アイン団長だ)


 その意味することに、ダダラフィンの顔が驚愕にゆがんだ。


「それはつまり…。」


(そうだ。アイン団長が叛乱を起こした)


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