第6話 アルク姉さんとの再会
すでに陽が隠れ始めていた。
「魔導力」でのライトを入れた。
もう目的地の「門」までは目と鼻の先だ。
ほとんど休憩を入れずに来たため、かなり腰に痛みが出始めている。
それでもアルク姉さんに会えなくなるよりはましだと考えた。
予定が予定に過ぎないことは痛いほど知っている。
もし予定通りなら、アルク姉さんは実家の食堂を手伝っていたはずなのだから。
来る途中でルーノ騎士団の紋章を付けた聖馬が引く馬車を追い越してきた。
きっとうちに来たダズグ率いる調達部隊の荷車であろう。
しばらく走らせると巨大な壁が見え始めてきた。
これが城壁都市クワイヨンの最外城壁である。
さらに進めると「門」が見え始めてきた。
その周りが昼間かと思うほど明るく、そして人が多く集まっていた。
「リクエスト」に参加するチームとその関係者だろう。
ブルックスはリングからアルクネメに送信する。
すぐに反応があった。
リングの位置情報が修正される。
その目的地に向かう。
そこは「クワイヨン高等養成教育学校」の紋章入りの旗が提示された野営テントだった。
ブルックスのバイクの音が聞こえたのか、すぐにアルクネメが野戦装備を身に着けたまま出てきた。
だが、1年前の美少女の姿ではなかった。
長く美しいブロンドはかなり短く切られ、帽子の中に納まっているようだ。
大きな瞳が印象的で快活な表情は全く見られない。
疲れ、そして怯えているようだ。
が、ブルックリンの姿を見て、その顔は喜びにほころんだ。
その表情のギャップはすさまじく、そして自分が求められてることに非常に大きな喜びも感じていた。
アルクネメはブルックスに駆け寄ってきた。
「ブル、ちょっとこっちに来て‼」
アルクネメはそう言うとブルックスの右手首を掴み引っ張た。
ブルックは慌ててバイクから降り、アルクネメの引っ張る方向に一緒に向かう。
そこは野営のテントがひしめき合う平地から少し離れた小高い丘で、木々が生い茂り、周りからはあまり見えない場所。
そこまで来るとアルクネメは手を離し、ブルックスを見つめた。
と、急にブルックスに抱き着いてきた。
二人はもともとそういう関係ではない。
ただの幼馴染だ。
ブルックスにアルクネメを想う気持ちがないわけではないが…。
ブルックスは慌てた。
しがみついてくるように抱き着くアルクネメの女性の身体は、ブルックスを混乱させた。
単純に抱きしめられて、嬉しいという感情。
今までにこんな直接的な行動を起こすようなアルク姉さんではないという違和感。
だが、アルクネメの身体が微かに震えているのを感じたブルックスはアルクネメの行動を理解した。
好きな男性に大胆な行動をして嫌われたらどうしよう、などというやわな感情ではないことは充分に理解している。
たとえ、今までそんな色恋沙汰に無縁で暮らしてきたブルックスにしても…。
怖いのだ、アルク姉さんは!
初めての実戦。
それがこれだけの大きなミッション。
怖くて怖くて、どうしようもないのだ。
そして、怖がる女性に対してできる事を、正確に実行する。
ブルックスは左手で抱き着いてきているアルクネメの腰に手をまわし、優しく抱いた。
そして、空いている右手で、アルクネメの帽子を脱がせ、自分よりも背の低いアルクネメの短く刈られたブロンドの髪の毛を優しく撫でる。
アルクネメの身体が少しビクッとなったが、すぐに安心したように体の震えが止まった。
と、アルクネメの目が閉じられ、唇を突き出すようにブルックスに向かう。
以前のアルクネメは、そんなに華美なメイクをすることはなかったが、清潔そうな薄化粧は施していた。
しかし今は、実戦を前にそんな余裕はないようで、唇は少しかさつき、若干顔にそばかすが浮いている。
肌は陶磁のように真っ白ではあったが、今は少し赤みがさしている。
ブルックスはアルクネメの行動の真意を把握し、いつもなら動揺のあまり突き飛ばしてしまいそうな衝動をこらえた。
そして実行した。
アルクネメの唇はかさついていたが、ブルックスの唇を受け止めたことで、甘い吐息がブルックスの口腔に熱をもって流れ込んでくる。
ブルックスは照れて、すぐに唇を離したが、すぐにアルクネメの腕がブルックスの後頭部を抑えるように引き寄せ、再度唇を合わせた。
アルクネメの湿った舌が強引にブルックスの口の中に侵入してきた。
そして、少し何かを探すような動きをしたかと思うと、目的の物、ブルックスの舌に絡みつく。
ブルックスは異性と唇を合わせることも初めてなのに、そのアルクネメの舌の動きに身体全体が熱にうなされる感覚に陥っていた。
そして、アルクネメの口はブルックスの唾液を吸い尽くすかのように、吸引していく。
ブルックスは、今、恍惚とした甘い感覚に痺れそうになる。
自身の血液が下腹部に集中し、アルクネメの密着する腰の辺りを押し上げるように固くなってきた。
そのブルックスの身体の反応に満足したように、アルクネメは唇を離し、絡めた舌を外した。
二人の口の間に細い絹のような一筋の糸がたわみ、切れる。
上気したアルクネメは満足そうに息を吐いた。
「アルク姉さん、俺、ずっと…。」
そう言いかけたブルックスのまだ液体でぬめる唇を、アルクネメは右手の人差し指で封をする。
「その後の続きは、私がこの「リクエスト」から帰ってきてから、ね。」
体を恐怖で震わせていた少女の姿はそこにはいなかった。
小悪魔めいた微笑みでブルックスに約束を求めてきた。
ブルックスはそのアルクネメの姿に軽く頷いた。
そして、もう一度抱きしめる。アルクネメの耳元に口を近づける。