第59話 激動の幕開け
ミノルフはペガサスと共にまだ木々がある森と言っていい場所に立って、遠くに見えるツインネック・モンストラムが倒れている場所を眺めていた。
「俺はブルに助けられたわけだな。」
(そうだな。結果的に、多少のかすり傷で済んでいる。非常に運がいい)
「あの爆発だ。本当に巻き込まれていたら、ここでこう喋ってはいられなかっただろうな。」
自分に何が起きたかは、充分に理解していた。
自分とペガサスで死ぬ覚悟で奴の攻撃器官を破壊するために、剣を突き刺そうとした時だった。
左横から凄まじい衝撃を受けた。
ブルの小型飛翔機だった。
通常の剣であれば、きっと、刃が折れていたはずだった。
幸か不幸か、自分が調達した魔光石でハーノルド・ハスケル作成の「魔導剣」だった。
折れることなく、そのまま弾き飛ばされる結果になった。
小型飛翔機はそのツインネック・モンストラムの口の中で光るのをミノルフは確認した。
さらに、アルクとマリオが完璧なタイミングでもう一方の首の角度を変えることに成功した。
オオネスカも一人でこの首を上場にはね上げたところだった。
その結果、もう一方の首の攻撃を受けてその首は爆発した。
これは小型飛翔機の爆発だったのだろうか。
【大丈夫ですか、ミノルフ司令】
オービックからの連絡だった。
「ああ、俺もペガサスも大丈夫だ。多少の怪我はあるがな。」
【了解しました。これから助けに行きます】
「頼む。」
ミノルフは動かないツインネック・モンストラムを見ながら、まだ終わっていない予感を胸に感じていた。
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「何が起きたんだ?」
エルドメリ国軍中将がモニターに映っている戦場を見て、そう呟いた。
その言葉を聞きながら、「スサノオ」は何が起きたかを大体想像できていた。
もともとミノルフが自らツインネック・モンストラムの口の中に剣で直接攻撃することは予見していた。
だが、まさか、あのタイミングを合わせて、ハスケルの小型飛翔機が飛び込んでくるとは思っていなかった。
「何が起きたかは、こちらの記憶を見てもらえれば、おおよその経緯は解ると思います。」
「サルトル」がそう言って、小型飛翔機が記録していた映像を映し出した。
空からツインネック・モンストラムを中心にミノルフ達が動き回ってる映像が出る。
「問題の場所までとばします。」
映像が早送りになる。そして、ミノルフとペガサスが開いた口に向かって加速した瞬間、周りの景色が高速で流れ始めた。
ミノルフ達の姿もすぐに見えなくなった。
と、同時にツインネック・モンストラムの口の中がズームアップし、上あごの赤く輝く器官が映った。
そして、映像が揺れ、消えた。
「以上です。」
「これは…、その映像を撮ったものが、あの化け物に突っ込んだ、という事か?」
エルドメリ中将がそう疑問形で聞いてきた。
「小型飛翔機と製作者は名付けていました。我々がこの戦いと、ツインネック・モンストラムの記録を頼んでいました。ですが、今の映像通り、ミノルフ卿の行動を助けるためだと思うのですが、急に奴の口に突っ込んでいきました。」
「大体、何が起こったかは想像できるんだが、詳しくは解らないのか。あの爆発はその、小型飛翔機と奴の攻撃がぶつかった結果なのか。」
クリフォント少将が確認を求めた。
「おそらく、その認識でいいと思います。」
「サルトル」が少将の言葉に同意した。
「とりあえずの最大の障害物は取り除かれたようだ。とはいえ、まだ「魔物」達が数多く存在すると思われる。まだガンジルク山の中だ。各自、緊張感を持って事に当たってくれ。」
「スサノオ」がそこにいた首脳陣にそう告げた。
それぞれが頷き、それぞれの持ち場に戻っていく。
「アクエリアス別動隊の撤収はうまくいっているか。」
「はい、「スサノオ」様。既に「カエサル」様が現地に到着して、指揮を執っています。動ける車両、爆裂飛翔体射出機運搬車も含めて、兵士たちをのせて移動を開始しています。」
「スサノオ」は「サルトル」の報告を聞きながら、自分の通信リングが異常を発してることに気付き、確認する。
「飛竜隊で動けるものはすぐに国に戻るように通達してくれ。」
「スサノオ」の声色が変わったことに「サルトル」は気付いた。
「何か、起きましたか?」
その言葉に「スサノオ」が微妙な微笑みを浮かべた。
「ケース72、対応開始だ。」
静かな声に「サルトル」は驚愕した顔で「スサノオ」を見つめた。
「シリウス騎士団が叛旗を翻した。王都クワインライヒの残留国軍もその反乱軍に一部合流している。「バベルの塔」の支局「オアシス」の数か所が既に占拠された。リングや「覚石」に首謀者、アイン・ドー・オネスティーの行動宣言が近いうちにされるようだ。」
「叛乱?本当に、アインが…。」
呆然とする「サルトル」とは対照的に、「スサノオ」は薄い笑いをその顔に浮かべていた。




