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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第58話 ツインネック・モンストラムの死

 オオネスカはエンジェルと共に地面にたたきつけられた。


 今、自分に何が起こったかよく解らず、オオネスカは爆発の起った場所を見た。


 自分たちの標的であったツインネック・モンストラムの左側の首がなくなっていた。

 そして、残った首が自分たちのいる場所からそれほど遠くないところに倒れ込んでくるのが見えた。

 赤い目はどこにも見えなかった。


「エンジェル、大丈夫?」


 横になっているエンジェルはかすかに目を開いた。


(ああ、何とか大丈夫だが、何が、起こったんだ?)


 そう、何が起きた?


 オオネスカは、攻撃時のことを思い出す。


 ミノルフの攻撃開始の合図でオオネスカとエンジェルは首の下方から情報に移動を開始した。

 が、本来の作戦なら隣にいるはずのミノルフとペガサスがそこにはなく、開かれた口に突撃していこうとするミノルフたちの姿が目に入ってきた。


「ミノルフ司令!」


 オオネスカは叫んだ。


 その時、オオネスカの視界に高速で飛んできた銀色の物がツインネック・モンストラムの口の中に入っていくように見えた。


 その刹那、爆発が起こった。


 オオネスカとエンジェルはその時の爆風に吹き飛ばされ、今、叩きつけられた地面から動かないツインネック・モンストラムを見ていた。


「誰か、誰か、アルク!マリオ!ミノルフ司令!ペガサス!」


「オオネスカ先輩!私とマリオ先輩は大丈夫です。」


 声が聞こえた方を見ると、ツインネック・モンストラムの残った首の向こう側に、アルクネメとマリオネットが、こちらに向かってくるのが見えた。


 だが、ミノルフの姿はどこにも見えない。


「そんな、ミノルフ司令…。」


 自分の命を賭けて、あの化け物と相打ちに…。


【何悲劇のヒロインごっこをしているの、オオネスカ。ミノルフ司令もペガサスも無事よ。多少の怪我はしているけど。今、シシドー殿とアスカがダダラフィン殿と一緒に向かってるわ。オオネスカも行けるようならお願い】


 リングからオービットの通信が届いた。


(よかった!無事なんだ、ミノルフ司令)


 心の中で安堵した。が、…。


「エンジェル、身体のダメージはどう?」


(まあ、何とかというところだ。しばらく休めば治るが、今はミノルフ達の所に飛んでやることは出来そうにないな、すまん)


「大丈夫、少し休んでいて。奴はもう動かないから。」


(なら、我々の勝ちか)


「そう、私たちが奴に勝ったの。どうしてかはわからないけど。」


(うん、よかった)


 エンジェルはそう言うと、目を閉じた。


「えっ、ダメよ、エンジェル、まだ死んじゃダメ、まだ、私と一緒にいて!」


 ぐったりとしたエンジェルを慌てて抱き起そうとしたが、エンジェルの身体は動かない。


 そこにアルクネメとマリオネットが飛んできた。


「マリオ!アルク!エンジェルが、エンジェルが!」


「落ち着いて、まだ息はあるわ。アスカ先輩聞こえますか?」


【ああ、事情は大体わかってる。先程の爆風で地面に叩きつけられたという事だろう。オーブ、そちらでエンジェルの身体状況「探索」出来るか】


【やってみる】


 しばらく無言。

 オオネスカもエンジェルの首を抱きしめながら、事の成り行きを見ている。

 が、涙は自然と出てきてしまっている。


【できたわ、エンジェルの身体状況を送るわよ、アルク】


「私に、出来ますか?」


【アルクの才能ならできる。自分を信じろ】


 アスカからの返答に、アルクネメは頷いてエンジェルに近づく。


「オオネスカ先輩、私がやります。少し下がってください。」


 オオネスカは静かにエンジェルを抱いていた手をほどき、一歩後ろに下がった。


 アルクネメは剣士である。

 だが、アスカはすでにその高い「魔導力」に、他の可能性を感じていた。

 ある意味、今がその可能性を開花させるいい状況と思っていた。

 そして、このエンジェルの生死の掛かった時に、そう思ってしまう自分に嫌悪してもいた。


「今は、アルクネメを頼るしかない。自分を卑下するな。」


 アスカとシシドーと共に自分たちの脚力を「魔導力」で高め、走り続けるダダラフィンがアスカが抱える悩みに、そう諭していた。

 今は悩む時ではない。


「はい、ダダラフィン殿。」


 アスカも、ダダラフィンの言葉に納得する。

 すぐにアルクネメに必要な手法を送る。


 エンジェルの現状況は、地面にたたきつけられた時に、オオネスカを庇い、翼の骨折、右手の骨折、そして肋骨が砕け、その一部が肺に刺さっていた。


 右手、翼の骨折はアスカかシシドーが来るまで待てばよいが、肺の損傷を応急的に直し、血を止める必要がある。


 正確に送られてくるエンジェルの状況に対して、アルクネメはその箇所に両手をかざして「魔導力」で肺に刺さった骨を抜く。

 その後空いた穴を「テレム」を注入し、止血。

 さらに肺の中にたまった血液を一時的にエンジェルの身体に穴を開けて除去。

 すぐに穴をふさぎ、損傷部の細胞を修復していった。


 30分くらいで応急処置を完了。

 エンジェルの息遣いが楽になってきたのが分かった。


【術式成功。さすがだ、アルク】


 アスカがそう言って、アルクネメの技量を誉めて通信が終了した。


「何とか、大丈夫よ。オオネスカ先輩。まだ骨折の部分があるから、アスカ先輩に来てもらってからだけど…。」


 いきなりオオネスカがアルクネメに抱き着いてきた。


「あ、あ、ありがどう、アルグうう~。」


 泣きながらアルクネメに感謝の言葉を紡いだ。


 アルクネメも初めてのことだったので、無事にうまくできたことに力が抜けて、オオネスカによりかかるようになってしまった。


「アルク、やっぱり凄いな。」


 マリオネットが、そう呟いた。

 だが、その表情が暗いものであることに、マリオネット本人も含めて、気付くものはいなかった。


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