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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第56話 激突

 ミノルフとペガサスはツインネック・モンストラムの上空を旋回しながら動きを観察していた。

 既に奴がゆっくりと首を持ち上げ始めたことに気付いていた。


(既に奴の攻撃のタイムリミットは過ぎている。いつ攻撃が始まってもおかしくはない)


 ペガサスが奴を見ながら、ミノルフに話しかけた。


「奴は何故、「天の恵み」に攻撃しようとしているんだろう。自分の命を懸けるようなものだろう、この攻撃は。」


(基本は「天の恵み」からこぼれたあの紫の気体欲しさではあると思う。だが、今回は先の攻撃を妨害されたことによる恨みとも考えられる。ただそこまでの感情が奴ら「魔物」にあるのかは、なんともいえない)


「恨みか…。」


 ミノルフは納得はいっていなかった。

 自分の「テレム」をすべて使ってまでの攻撃。

 「魔物」のことはほとんどわかっていないが、自分の生命を最優先に考えるのであれば、この行動はそれに矛盾する。

 何か自分たちの知らないところで、異常事態が進行しているのではないか?

 ミノルフは嫌な未来に対する予感を抑え込むことが出来ないでいた。


(で、ミノルフ。予定通りに行動するんだな)


「済まないな、ペガサス。状況いかんでは、容赦なく俺を捨ててくれ。」


(そんなこと、出来る訳がないだろう、ミノルフ。絶対、生きて帰らせる、覚悟しておけ!)


「期待してるよ、ペガサス。」


 ペガサスはそれには答えず、ツインネック・モンストラムの前に回り込む。


 ツインネック・モンストラムの攻撃の予兆、それはこの口を開いて行われることにある。


 奴の上あごの所に光る器官があることを前回の攻撃時に確認している。

 最低限、口を開かねば攻撃は出来ないはずだ。

 さらに、その器官の光が赤く輝きだした時が攻撃の前段階であるとミノルフは考えていた。


 今の条件を考えてみたとき、それほどシビアに考えなくていい攻撃方法があることに気付いた。

 自分の命を賭けねばならないが、確実性は非常に高くなる。

 その考えをペガサスと検討し、実施することで意見が一致した。


 ミノルフもペガサスも自分の命を賭けて、この一戦に終止符を打つつもりであった。


 ツインネック・モンストラムの首は緩慢に、しかし、確実に持ち上がっていく。


「オオネスカ、準備は良いか!」


「大丈夫です、司令!」


「首が上がり始めた。あの攻撃は、どうやら口から直線状に効果を及ぼすようだ。「天の恵み」回収運搬車は動き出したようだが、あの巨体はこちらからは丸見えだ。奴の口があそこまで上がった時に、口を開くはずだ。タイミングは俺が取る!」


「了解です。」


 オオネスカとエンジェルは一旦急上昇した後、大きく迂回して、首の下に入るタイミングを待つことになる。


「エンジェル、身体の調子は大丈夫か?」


(「テレム」は通常と変わりなく俺を包んでる。問題ない、行ける!)


「マリオ、アルク、「魔導力」大丈夫か?」


「はい、大丈夫です!」


「何時でも行けるぜ、ミノルフ司令!」


 若々しい声が返ってくる。


(ああ、こいつらを、絶対死なせない。絶対に)


(お供するさ、ミノルフ)


 アイ・シートにツインネック・モンストラムの周りの「テレム」濃度は変わらず薄い状態だが、4人と2頭の周りはかなり濃い表示になっている。


「あまり接近するな!我々の「テレム」を与えることになるぞ!」


 アイ・シートの情報を見ながらミノルフは各員に注意を与えつつ、タイミングを見計らう。


 ツインネック・モンストラムの口が半分以上あいてきている。


(ペガサス、一度後退、加速をつけて突っ込む!)


(了解)


 オオネスカは先ほどからのミノルフの行動に違和感を覚えていた。


 何かが、おかしい。

 先程からタイミングを見るにしては、やけに化け物の口近くを通り過ぎている。


(ミノルフ司令は何をしようとしているの?)


 エンジェルはそのオオネスカの声には答えず、ただ、ミノルフ達を見つめるだけだった。


(ミノルフを信じよう、オオネスカ。このタイミングを外すと、すべては水泡に帰すんだから…)


(わかってる、分かってるけど…。なんだか、ミノルフ司令が、どこかに…)


(不吉なことは考えるな!うまくいくことをイメージしろ!)


 エンジェルは反転し、空中に停止し首の下に入るタイミングを計っている。


 アルクネメとマリオネットは反対側の空中に浮くようにして、そのタイミングを待つ。


 そして、ミノルフの恐れていた行動をツインネック・モンストラムが取り始めた。


 二つの首の口がほぼ同時に開いてきていたのだ。


(連携を取るか。学習しているという事だな)


(そのようだな、ミノルフ。このタイミング、逃すなよ)


(ああ、バッチリだ)


 ツインネック・モンストラムの口の中、上あごの発光器官が怪しい赤色に輝き始めている。


「全員、かかれ!」


「「「はい!」」」


 オオネスカとエンジェルが首の下に潜り込むように低空で侵入する。


 アルクネメとマリオネットの身体が傾き、ツインネック・モンストラムに向けて加速を開始した。


 だが、ミノルフとペガサスは当初の打ち合わせとは全く違う方向に動き出していた。


 本来なら、ミノルフが真正面から低空に高度を落とし、オオネスカたちと同じように首の下に侵入、前回同様、下から首を突き刺すように剣を振ることになっていたはずだった。


 オオネスカは驚きの行動をするミノルフの狙いが、今初めて理解できた。


 ミノルフはペガサスと共にツインネック・モンストラムの口の中にある、攻撃器官をその剣で攻撃直前に潰そうとしている。

 それは奇跡的に成功した前回の射線を強制的に変更させるよりも、確実な方法に思える。

 命を投げ捨てる覚悟があれば…。


 今、ミノルフとペガサスは一直線に加速しながら、大きく口を開け、攻撃態勢を整えつつあるツインネック・モンストラムの口の中に、剣を突き出して飛び込もうとしていた。


「ミノルフ司令!」


 オオネスカのは叫びながら、低空から化け物の首をはね上げるための上昇に入っていた。


 アルクネメも、マリオネットも、ミノルフの攻撃方法が変わったことを知った。


「「ミノルフ司令!」」


 アルクネメとマリオネットの叫びが重なる。


 ミノルフの自らの身を挺した攻撃と、同時にアルクネメとマリオネットはツインネック・モンストラムの口の横にぶつかっていった。


 ツインネック・モンストラムの首で爆発が起こった。


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