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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第55話 戦場へ

 ツインネック・モンストラムは見る限りでは動きがない。

 8本の足が膝から崩れるように地面に臥している。

 全身を覆う赤い目の80%が消えた状態だが、二本の首はまだ動き出さない「天の恵み」回収車を向いている。

 また二つの首の目はしっかりとその回収車をとらえている。


 回収車が動きだしたとしても、荷台に設置された「天の恵み」のために、かなり速度が遅くなるであろうことは明らかだ。

 1時間程度の猶予があれば目視できない位置まで動けるはずだ。


 ミノルフは、いま、ツインネック・モンストラムを見下ろす位置に他のメンバーとともにいた。


 「テレム」発生器の動作状況は、シールド近くで検証し、確実に「テレム」を生成していることを確認、「魔導力」の効果についても充分の結果を得ている。


 あとはこの作戦のタイミングである。


 チームは前回同様、飛竜に乗るオオネスカとミノルフ、自ら飛行できるアルクネメとマリオネットでバディを組む。


 ただ、前回は完全に奇跡の範疇のタイミングだった。

 今回もまたその幸運を期待するわけにはいかない。


 前回の戦闘経験より、化け物の攻撃の予兆のようなものはつかんでいる。

 が、それも発射しそうだ、というレベルで、この瞬間というわけではない。

 また、今までの攻撃は片方が攻撃したあと、第二弾の攻撃だった。

 だが、同時に攻撃された場合のこちらのチームの連携がどうあるべきか、判断の難しいところではある。


 ミノルフは、そのための手段を考えてはいるが、ぶっつけ本番で何が起こるか、正確なところは想像もできずにいた。


「そろそろ、あの化け物が動き出してもおかしくはない状態になってきている。君たちのアイ・シート上にも、奴の「テレム」がほとんど首上部に集まってきていることは確認できると思う。ここからは、非常にセンシティブな行動を要求される。先の戦いで、我々の剣では奴の首を切ることはできないことは理解しているだろう。」


 悔しいがな、とミノルフは心で自分の無力さを悔やむ。

 だが、今は奴の狙いを外すしか方法はない。


「その剣と拳に、すべての力を込めて、奴の首の角度を変える。これしか我々はできない。そして、その行動を絶好の機会に行わなければならない。本来ならそのためのタイミングを合わせる訓練をしなければならないが、今回は自分と仲間を信じて、その瞬間に最大の攻撃をできるよう、集中してくれ。君たちなら、できる!」


 自分で言っていて陳腐なセリフだと自嘲しそうになる。

 だが、少しでも自信を持たせ、やり遂げなければならない。

 それはここにいるメンバーはすでに心に刻んでいた。


「よし、では今回は全員、背嚢を置いてゆけ。楯も必要ない。重量を最小限にして、機動性を高めて、ことに臨む。」


 ミノルフの言葉に、皆背嚢を肩から外す。


「はッ。さすがに体が軽く感じるな。」


 マリオネットが、背嚢を下ろすと同時に明るさを前面に出すように言った。

 基本的に背嚢の中身はサバイバルキットである。

 それを下ろすという事は、逃げることが出来ない、背水の陣を意味している。

 一歩間違うと、暗く沈んだ雰囲気になるところを、マリオネットの一言に、場の雰囲気が少し和らいだ。


「では、行こう。」


 ミノルフが告げた。


 アルクネメが光の円盤を発現させると、遅れてマリオネットも同じく光る円盤を足元の発現させる。

 そして一気に化け物、ツインネック・モンストラムに飛翔する。それを見届けたオオネスカとエンジェルが、次いでミノルフとペガサスが舞い上がる。


 その状況を、「カエサル」によって録画機能、動画送信機能を付けられたブルックスたちの小型飛翔機のカメラが見つめていた。




「この重力制御駆動体に手を加えてもいいかね。」


 賢者「カエサル」がブルックスに否定させない圧力と共に声を掛けてきたのは、作戦行動に移ってすぐであった。


 ブルックスとしては目的の大半を終え、あとはアルクネメの無事を信じてバッテリーが切れるまで、事の成り行きを見るしかできないと思っていた。


「「カエサル」はもともと技術者でね。組織の運営なんかより、君と一緒でこういった機械をいじるのが大好きなんだよ。それに、この重力制御駆動体はもともと「バベルの塔」の所有物という事もあるんだけどね。」


 「スサノオ」がそう言ってきたときには何もできないことを、ブルックスはうすら寒く感じた。


「重力制御駆動体とはこの小型飛翔機のことです、ね。」


「そうか、君たちはそう呼んでいたんだね。うん、そっちの方がまだしも、か。では、我々も小型飛翔機と呼ばせてもらうとしよう。それで、この機械に手は加えるけど、君たちから取り上げる気はないから、それは安心して欲しい。」


「こいつに何をする気ですか?」


「我々「バベルの塔」の観測機器は広範囲にわたって展開されてはいるんだが、城壁外の情報は基本的に不足してるんだよ。特に今回、このガンジルク山関連はかなりの遠距離からの情報収集しかできていない現状がある。今回様々な観測機材や、検査の機械を持って来ているが、これから行われるツインネック・モンストラムとの戦闘記録は、かなり不鮮明になると思う。出来ればあの化け物を倒して、サンプルとして「バベルの塔」に持って帰りたいくらいなんだが、如何せん優先事項は「天の恵み」だ。」


 そこで「スサノオ」は一旦言葉を切って、小型飛翔機をしげしげと見つめる。


「もう君たちにもわかっていると思うが、この小型飛翔機の原型は「バベルの塔」の技術だ。機密事項の中でも上位の機密だよ。こういったものを飛ばしての情報収集は当然出来るんだが、君たち人類に発見されるわけにはいかない。まだ、そこまで技術力が追いついていないというのが一つの理由。そしてもう一つが「バベルの塔」の絶対的な権力の基盤となっているという事だ。」


「いいんですか、そんなことまでここで言ってしまって。」


「ああ、それは大丈夫だよ。ここの近くに居る者には我々の会話は聞こえていない。」


「その技術も「バベルの塔」の威厳の一つですか。」


「まあ、そんなところだと思ってもらって構わない。話しを戻そう。通常ではこういうタイプの情報収集機は飛ばさないようにしている。何かの拍子に墜落して、物好きに拾われて修理などされて、中身に興味を持たれると厄介なのでね。」


「うちの家族のような人にってことですね。」


「まあそういう事だ。ただ今回は、奴の、ツインネック・モンストラムの情報を出来る限り集めたい。もうこの小型飛翔機は衆人達に見られてしまったからね。その為の改造だ。」


 「スサノオ」が人の悪い微笑みをする。


「具体的には、動く映像を記録して、「バベルの塔」に送るシステムを搭載する。もう「カエサル」はあらかたの細工を済ませてしまったようだが…。」


「あとは実際に飛ばして、あの化け物との闘いを記録に納めればいいんですね。」


「もう電力の供給は終わってる。よろしく頼むよ。ブルックス君。」


 逃げることは許されない。

 多分、拒否をすれば強制的にこの小型飛翔機の操縦を奪われることになるのだろう。


「やらせてもらいます。僕もアルク姉のことが心配ですから。」


「我々も彼らのための最大限の力を貸すつもりだ。」


 ミノルフたちの作戦行動が始まった直後に、小型飛翔機も、戦場に向け飛行を開始した。


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