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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第5章 「天の恵み」攻防戦 Ⅳ
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第54話 死地に赴く

 今回の作戦内容は基本的には先の防御戦の再現である。


 ツインネック・モンストラムが砲撃を行う瞬間を見定めての、射線をずらすこと。

 ただし今回はツインネック・モンストラムの周りを対「魔物」シールド発生器が稼働中で、極端に「テレム」が少ない状況下での作戦である。

 ここに、ブルックスの「テレム」発生器を利用しようというものだ。

 分解された「テレム」をその「テレム」発生器で回収、再生成をし、使用するものである。


 実施メンバーは、前回のメンバーそのままであるが、アスカとサムシンクの「テレム」発生器は、エンジェルとペガサスに渡された。


 もともと飛竜は翼と「魔導力」で飛行している。

 「テレム」が薄い地域では跳べなくはないが機動性が極端に落ちてしまうため、今回の状況ではその機動性が使えない。

 そこで、前足、翼の根元から出ている部分に「テレム」発生器を取り付けた。

 もともとエンジェルもペガサスもアイ・シートを装着していて、その操作には慣れている。


「オービットはそのまま「テレム」発生器を用いての「探索」業務を続けてくれ。今現在、「天の恵み」を固定化を引き続きやっているが、この運搬車の最後尾に、スペースを作っている。その中央にオービットが配置してくれ。その横でアスカがオービットの心身状態をサポート。サムシンクには「テレム」発生器を渡すことが出来なかったが、二人を防護してくれ。」


「大丈夫です、任せてください。ミノルフ司令。」


 サムシンクは自分の不安をかき消すように、胸を張り、ミノルフの命に応じた。


「あと、「冒険者」のデザートストームのメンバーが君たちを守るために同乗する。デザートストームのメンバーもよろしく頼む。」


「わかっている。ツインネック・モンストラムと対峙するものも必要な人材だが、オービットや、ほかのメンバーも大変貴重な人材であることに変わりはない。任されよ、ミノルフ司令。」


 ダダラフィンが静かにミノルフに告げた。

 この人のこういうものいいが、今まで何度もミノルフに安心感を与えてきた。

 そして今回もまた、ミノルフを奮い立たせるには十分だった。


「ではお願いします。運搬車の移動開始時刻は16:00です。ご武運を!」


「そちらもな。我々より、よっぽどシビアな戦いになる。気を引き締めて。子供たちを頼んだよ。」


「了解しました、ダダラフィン師匠。」


「ふん!」


 ダダラフィンは、ミノルフのその言葉に、怒りともテレともつかぬ赤い顔をした。


「死ぬなよ、ミノルフ!」


「師匠も!よろしくお願いいたします。」


 二人は長年の想いを込めて相手の瞳を見つめ、そのまま反対方向に歩いていった。


 「天の恵み」回収車は前後に操作するための場所が設けられている。

 この車両が巨体なため、方向転換するための回転半径が大きくなってしまう。

 今回の様に入った場所を逆戻りするためにこのような構造になっている。

 しかし、8人もの人間が入れるスペースではないため、仮設の座席が設けられた。


 ダダラフィンは「天の恵み」回収用運搬車の後方に設置されたスペースに座っている面々を見ながら、自分もそこに乗り込んだ。


「大将、弟子と今生の別れですか?」


 グスタムのげひた冗談に顔をしかめる。


「冗談でもそういう縁起でもないことを言うんじゃない。言葉にすると実現することだってあるんだからな!」


「ああ、すいません、大将。」


「まあ、恋人との逢瀬と言われないだけましでしょう。」


「お前まで、何を言ってるんだ、バンス。それより、オービット卿、調子はどうだ?」


「ダダラフィン殿。わたくしのことはオーブでいいですよ。各測定器、接続良好。「テレム」発生器とも同調完了してます。デザートストームにも回します。」


 ダダラフィンのアイ・シートにも、各種、色分けされた濃度状況が表示される。


「あの若い声の坊やがこれを作ったのか。すごいな。」


「ええ、これでさらにこの機械は「テレム」を生成するんですよ。アルクの才能を引き出したんですよね。愛の力ってすごい!」


 そう言いながらクスッと笑うそのしぐさは、そのグラマラスなボディとのギャップに、歴戦の勇者たるデザートストームのメンバーでも胸の奥を掴まれるパワーを持っていた。


「この機械の作成者はアルクの恋人なのか?」


 バンスがオービットの物言いに、そう聞いてきた。


「まだ、ですかね。でもアルクの帰る場所の一つではあります。」


 そう言ってはにかむオービットにバンスは自分の娘を思い出した。

 いつかそういう男が現れた時に、俺は平静を保てるのだろうか?


 それも全員生きて帰ることだ。


 バンスは改めて、この学生たちを守り、生きて帰ることが優先事項であることを胸に刻んだ。


 この回収車の周りには「テレム」がかなり薄くなっているのがわかる。

 「魔物」達も、シールドから向こう側にいることは視認できるが、こちらに向かってはこないようだ。

 が、その目、そして赤い目たちは異様な雰囲気をこちらにぶつけている。


 さて、この車両が動き出しても、奴らが動かないと助かるんだが。


 固定作業はあらかた済んでいるようだが、もしものための国軍兵士がかなりの数が、この回収車の上に常駐するようだ。


 少しでも早くこの場から離れること。

 現在の至上命題である


「オーブ!オオネスカや、ミノルフとの同調は大丈夫か?」


「現時点では良好。4人と2頭の間での意思疎通を確認中。」


「ツインネックは動きは?」


「動きはありません。ただし、体内の「テレム」は日本の首に継続的に集中が進んでいます。前回のデーターから考えると、最短で15分で照射可能。遅くとも40分で攻撃きます。」


 ダダラフィンは心の中で「早く動け」と、回収車に向けて唱えた。



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