第52話 賢者「スサノオ」の微笑み
「そのハーノルド・ハスケルの身元は私が保証する。ハーノルド、着陸を許可する。」
「何を勝手な!」
クリフォント少将がミノルフに対して、怒りの声を発した。
「クリフォント君、私「スサノオ」の名で、この会議に参加することを許します。ハスケル君の位置ではこのリングでの会話は成り立たないからね。」
「「スサノオ」様がそう言うのであれば、承知しました。」
クリフォント少将に対してそう言った「スサノオ」は、マントを外した。
銀髪碧眼のその顔を小型飛翔機にのカメラレンズに向ける。
「ハスケル君。そいつのバッテリーを改良したようだが、確かに電力には限りがあるだろう。いいよ、着地させなさい。自己紹介が遅れたね。私は「バベルの塔」執政官の一人、賢者「スサノオ」、この「天の恵み」回収作戦の指揮官だ。」
「賢者「スサノオ」様。」
ハーノルドは突然の大物に、驚いた声を上げた。
通信機越しとはいえ、そんな雲の上の人物と話をすることになるとは思わなかった。
とはいえ、驚いてばかりもいられないので、小型飛翔機を地上に降ろした。
「まあ、君たちがどのような手段で、この重力制御駆動装置を手に入れたかについては今は問うまい。しかも、この装置をもとに電力貯蔵装置「バッテリー」を改良、さらにほかの機器も付け、ここまで飛ばしてきたという事だけでも驚嘆する。君たちはそうまでして、ここに来る必要があった。そうだね、ハスケル君。」
プロジェクターに移る銀髪碧眼の落ち着いた雰囲気を纏う「スサノオ」はそう聞いてきた。
重力制御駆動装置に電力貯蔵装置。
やはり「バベルの塔」の技術か。
しかも、おそらく機密事項にあたる技術と考えていたのは間違いなかったな。
ただ、この計画を実行する際に、「バベルの塔」執政官、賢者たちと遭遇することは計算外だった。
もし、平時でこれがバレていたら、即刻捕まってるわけだ。
「はい、賢者様の申す通りです。私たちが開発した「テレム」発生装置をミノルフ様と、知人でありますアルクネメ・オー・エンペルギウスの配属しておりますチームの方々にお渡ししているのですが…。」
「ま、まて。「テレム」発生器?それは、それは一体…。」
先ほどのえらそうな軍服の男よりさらに襟の階級章が高い、国軍の幹部と思われる男が口をはさんできた。
「エルドメリ中将、私の話の途中だよ。口出しは止めてくれるかな。」
「スサノオ」は静かに、しかし反論を許さない強い口調でエルドメリ中将と呼ばれた老年の国軍幹部を諫めた。
「済まなかった、部下が無礼な口をきいて。ついでだ、少し時間がないんだが、その「テレム」発生器について聞かせてくれるかい。」
「畏まりました。では、実際の開発者の息子、ブルックスから説明させていただきます。ブルックス、「スサノオ」様に説明を。」
「わ、分かりました。実際には、ミノルフ様の剣の柄の部分に装着されていますが、「テレム」を発生する植物のテレムリウム抽出して精製、その物質をフィルターに付着させ空気取り入れ口に設置した装置です。「魔導力」をある程度有している人であれば、その「魔導力」で、テレムリウムを活性化させ、その成分が空気中にあれば、「テレム」を発生させられる装置です。」
「テレムリウムを活性体のまま、その機械に取り込めたのか?」
「はい、その作動は確認してますので、間違いないと思います。」
「植物中のテレムリウムの抽出そのものが難しいはずなのだが…。まあ、興味はあるが、時間がない。それで、その発生器について何か。」
自分が何か特別のことをしたようで、少し言い淀んでしまった。
「あ、はい。渡した「テレム」発生器について、説明していない機構があったので…。」
「教えてくれるかい。ここにはミノルフも、君の大事なアルクネメ・オー・エンペルギウスもいる。このまま説明してくれ。」
「僕の作った「テレム」発生器には、3次元で「テレム」濃度と、「テレム」構成成分の濃度をアイ・シートの視覚化できる装置も付随しています。ただこの装置は持っているシステムとの同調が必須です。おそらく「探索」出来る方がいれば大丈夫だと思います。」
「うん、「探索士」は一流のチームメイトがいるから大丈夫だと思うよ。その表示の切り替えって、思考で切り替えられるんだよね。」
「全くその通りです。」
少し考える「スサノオ」。
「ありがとう、ブルックス・ハスケル。何とか光明が見えてきたよ。あまり時間は取れないが、アルクネメ君と話したいかい。」
「ええ、お願いします。」
「アルクネメ君!ブルックス君が話をしたいそうだよ、こちらに来たまえ。」
小型飛翔機を取り囲んでいた輪の外にいたアルクネメを「スサノオ」が呼んだ。
「は、はい!ありがとうございます。」
慌てたアルクネメのために、輪の一部が開く。
「この緊急事態の対応について説明する。各責任者はこちらに来てくれ!」
賢者「スサノオ」がそう言いながら、八方ふさがりの今の状態に見えた光明が自然と口元に笑みという形で「スサノオ」の表情を変えていた。
「さすがだな、G42号。我々の想像以上だ。」




