第50話 小型飛翔機 セイレイン市にて
小型飛翔体は問題なくセイレイン市第18番門に到達した。
ここまではすでに飛行済み。
さてここから、アルクネメとミノルフの強力な「魔導力」と精神波をトレースする形で飛行させる。
セイレイン市城壁に置いた中継器の電力は問題ないが、やはり小型飛翔機の電力の消費が凄い。
「思ったより電力の残量が少ないな。」
ハーノルドがそう零した。
前回のブルックスの追跡時よりかなり速度を上げたためだろう。
既にアルクネメの現在位置は把握している。
この速度で飛ばすと、ギリギリ着くかつかないかといったところか。
「んー、さてどうしたものか。」
ハーノルドは小型飛翔機に取り付けてある映像機で周辺を見渡している。
「父さん、何をやってるの?飛ぶ距離が短くなっちゃうよ!」
「いや、確か、ここに奴がいるはずなんだ。この作戦が終わるまではこのセイレイン市に駐留してるはずなんだ。」
ハーノルドは小型飛翔機の映す映像を、旋回させて何かを探していた。
「あ、騎士団旗を上げてるな。では、間違いないか。」
自分の通信リングをハーノルドはある人物の公用回線につなげた。
【お久しぶりです、ダズグ殿。鍛冶屋「ハスケル」の店主、ハーノルド・ハスケルでございます。】
【何用か。払い込みまではまだ時間がある筈だが。こちらは作戦中で、後方待機とて、暇ではない。】
【それは重々承知しております。今回はダズグ殿に耳寄りな話がありまして、無礼を承知で一刻も早くお伝えしようと思いまして。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?】
【耳寄りな話?緊急か?】
【はい、ルーノ騎士団にとってはかなり、今回の問題を多少なりとも軽減できるのではないかと思いまして】
【前置きは良い!お主は我々に何をしてくれるんだ?】
【その前に、ダズグ殿の所には「魔導力」をそれなりに使える方がいらっしゃいますか?】
【当たり前だ。私とてそうだし、ここに駐屯して、待機している騎士もいる。それがどうした】
【2日前にお渡しした剣と槍の代金はお約束通りお納めいただきたいのですが、その後の追加でお渡しした剣と盾の料金を、今回は特別に頂かないという事にしたいと考えております】
【何!それはまことか!】
【はい、いつも私共の店を贔屓にしていただいてますので、感謝の意味込めまして…。その代わりと言っては、何ですが…。】
【そうだな、完全にただとはならんか…。で、どういう要件だ?】
【さすがダズグ殿!お話が早くてこちらも助かります。一つは、追加の商品が、私共で開発した少々特殊な剣と盾でございまして、使用後、その評価を使用した騎士様からしていただきたいと思います】
【それは訳のないことだ。了解した。で、本当の条件は何だ、ハスケル】
【これはまた手厳しい言われ方ですね、ダズグ殿】
【戯言は良い。本命の条件を言え。お前とて時間が惜しいんだろう。でなければこんな急にこの件を話すわけがない】
【ご明察恐れ入ります。実は今、ダズグ殿のいらっしゃるルーノ騎士団上空に、私どもが手を入れました小型の飛翔体がございます。見えますか?】
かなり白髪が目立ち始めている小柄な男が空を見上げた。
鍛冶屋「ハスケル」に来るときは黒髪で小綺麗にしている男だが、非常事態に神を整える暇もなさそうだ。
拡声器を入れる。
「お久しぶりです、ダズグ殿」
小型飛翔機からの声に、驚きの顔を向けるダズグ。
今の声に宿場から数名の騎士らしきものが出てきた。
【この飛翔機は「魔導力」を電気に変えて動いているんですが、どうも、目的地まで持ちそうにないんです。ダズグ殿の力で、こいつに「魔導力」を入れて電力を起こしてもらえませんか。それが条件です】
ダズグは空中に静止している、その三角形の物体を凝視していた。
【目的地と、行動目的はなんだ?教えてくれれば、協力する】
ダズグは物資調達を仕事の主にしているが、情報の調達も任務の一つである。
この協力でさらに料金を値切ることも考慮したが、それよりも有益な情報が入りそうなことに気付いた。
こう見えて、ダズグも結構有能なのである。
ダズグの条件にハーノルドは少し考えた。
目的地と、目的行動。この情報を要求されるとは考えていなかった。
最悪、この小型飛翔機のレンタルぐらい言い出すかと思ったが、情報の提供を条件にしてくるとは…。
侮れないな。
さて、どうするか。
目的地、目的行動はともに、今の軍事作戦の情報を意味する。
ルーノ騎士団にしても、今の作戦の情勢がどうなっているか知り様がない。
その情報が瞬時に入れば、その後の対応が変わってくる。
この小型飛翔機は、空中を飛んでいるというだけで結構目立つはずだ。
最悪目的地に行けず落ちることも想定しなければならない。
ここで電力をできるだけ確保したい。
ああ、料金を負けることだけで済めば助かったんだがな…。
今回の交渉はこちらの負けでも仕方ないだろう。
まずはブルックスの最大関心事であるアルクネメの援助が最優先だ。
【わかりました、ダズグ殿。この飛翔体の目的地、並びに行動目的をお伝えします。今、この機械を地上に下します。皆様の「魔導力」をお願いします】
【分かった】
ここで、ダズグは先に情報の提供は要求しなかった。
また、ハーノルドも地上に下すことでダズグ達にこの小型飛翔機を盗まれるという事は考えなかった。
どちらも、そこそこ付き合いが長い。
そして、当分付き合っていく相手なのだ。約束を一方的に敗れる相手ではなかった。
小型飛翔機がゆっくり下降し、ダズグの近くに着陸する。
【ハーノルド、どうすればいい?】
【皆さんの利き腕をその機体に触れて「魔導力」を送るイメージをしていただければ、モーター音がうねりを上げ、音が変わります。中身の状況はこちらでも見ておりますので、都合が悪ければ連絡します】
「ルクスト臨時団長、今聞いた通りだ。頼む。」
「ダズグ局長、了解した。皆、局長に従え!」
残留騎士団の臨時団長の掛け声で、5人の騎士とダズグが銀色の気体に触れ、言われた通りのイメージをする。
すると、機体の中の音が甲高く音色を変えた。
自宅の2階で様子を見ているハーノルド、ミフリダス、ブルックスが電力量が増えていくのを確認した。
「危なかったね、父さん。」
「全くだよ。ひやひやもんだぞ、ハーノルド。」
「ごめんよ。ちょっと甘く見てた。よく考えてみれば、値段交渉しかしたことなかったからな。ダズグとは。情報関係の話なんかやったことがない。」
「でもとりあえずは…。」
「ああ、ブル。これでアルクちゃんの援助は出来るはずさ」
ハーノルドはリングからダズグの欲しがっている情報について伝えた。
【目的地は「天の恵み」墜落場所。行動目的は、私の子供の幼馴染の安否確認だ】




