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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第1章 「天の恵み」回収作戦 前夜
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第5話 キリングル・ミノルフ

 ダズグが出発してすぐに背の高い男が中に入ってきた。


「よくおいでくださいました、ミノルフ様。誠にタイミングよく来ていただき、助かりました。」


 野戦装備に身を包んだ長身の青年、飛翔の騎士、キリングル・ミノルフはそのおさまりの悪い金髪の髪をいじりながら微笑んだ。


「今入れ違いで出て行った馬車は、ルーノ騎士団の紋章入りだったな。調達はダズグか。さしずめ、私の剣をよこせとか難癖をつけていたというところか。」


「さすがのご見識、痛み入ります。タイミングが遅ければ、最悪略奪されるところでした。」


 ハーノルドは少し大げさな言い方をした。


「そんなことで動じる主人でもあるまい。まあいい、守ってくれて助かった。礼を言う。で現物はこれか。」


 先ほどダズグに見つかってしまった場所の3種の剣が並べてある。

 その一つをミノルフが持ち、軽く振ってみる。


「うむ、いつものことながらよく手に馴染む。それにこの刃の輝きは素晴らしいな。さすがは「魔光石」といったところか。」


「はい。持って来ていただいた「魔光石」は純度もよく、加工のしがいがありました。今、持っておられるのが片刃の長剣、隣が両刃の剣となっております。」


 ハーノルドは説明をしながら、一番横に置いてある剣を取り上げた。

 その剣の柄の部分は他の2種の剣より心持ち太く長くなっている。


「そしてこの剣が通常の長さの剣になっておりますが、細工がしてあります。」


「そのようだな。柄の部分が妙に長い。」


 ミノルフはハーノルドから剣を受け取り柄の部分を握ってみる。


「持ちやすさはさほど変わらないが、やはりいくぶんか太い。この柄はどうなっているのか。」


「その柄は着脱が可能にしてありますので、使いづらければ外してください。そこには小型の「テレム」発生器を取り付けました。」


「「テレム」発生器?「テレム」濃縮器ではなく?」


「はい、私共の愚息、ブルックスが開発しました。今までの「テレム」濃縮器は空気中にある「テレム」を空気ごと取り込み、空気と分断、収集して空気のみを輩出して集めていました。この「テレム」発生器は「テレム」を生成する植物中の「テレムリウム」をフィルタに集めています。結果、空気を吸入するときにその中の物質と「魔導力」より「テレム」を発生します。つまり、「魔導力」が大きい騎士様ほど十分な「テレム」が生成できると思います。」


「そんな御大層な装置が、こんなに小型に出来るものなのか?」


「小型化に関しては私と父ミフリダスとで開発しました。発生した「テレム」は柄の中心より、「魔光石」でできた剣に注がれ、強力な武具となりえるでしょう。ただし、使用してその実感がなければその部分を捨ててもらえれば、通常の剣としてお役に立つはずです。」


 ミノルフがその「テレム」発生器付きの剣を軽く振る。


「ふむ、違和感は全くないな。よし、リングにいい値を入金する。コンタクトしてくれ。」


「いつもありがとうございます。」


 リングが入金を直接ハーノルドに伝えた。

 とりあえず、ルーノ騎士団からとりはぐれた代金の代わりには十分以上の額を確認した。


 ハーノルドの表情が緩んだことに、ミノルフは気付き、話しかける。


「今回の「リクエスト」は非常に危険だと思う。」


 ハーノルドは急に深刻な話を始めたミノルフに瞳を向けた。


「ガンジルク山は、もともと「魔物」たちが多い場所だ。巣窟とも言われている。私も騎士として今まで何度も「リクエスト」に参加し、「魔物」と戦っては来たが、ガンジルク山そのものには近づいたことがない。「天の恵み」回収の「リクエスト」の場合、「天の恵み」自体が巨大で、それを運搬する特殊車両も「バベルの塔」が管理している。実際に制御するのは我々人類ではない。「鉄のヒト」だ。「天の恵み」がどこにあるかはまだ定かではないが、その巨大運搬車が通れる道の確保が、この回収「リクエスト」の最大の任務になる。それを「魔物」の巣窟とまで言われるガンジルク山に作るとなると、確保できる人材は最大限でなければならないんだ。」


「それで養成学校の学生まで動員するという事ですか。」


「そう、私は考えている。この国の未来を背負うことになる筈の人材を潰してでも、「バベルの塔」は「天の恵み」の回収を最大限の目標にしている。もし店主たちの知り合いがこの「リクエスト」に初めて参加するようであれば、止めることを勧めるよ。」


 ミノルフはそう言うと、ハーノルドから剣に視線を移す。


「ブルックスが、何か言ってましたか?」


「知り合いが養成学校にいることを不安げに私に言ってきたよ。」


 そう言いながら、ミノルフは受け取った剣を野戦装備のホルスターに次々と納めていく。


「この「テレム」発生器付きが俺を、この戦いに参加する人々を守ってくれるように、どの神でも構わん。祈っていてくれ。では、良い剣をありがとう。行ってくる。」


「ご武運を‼」


 ハーノルドの言葉に軽く手を振り、ミノルフは背筋を伸ばした姿勢でこの工房を後にした。

 暫くすると甲高い鳴き声とともに羽ばたく音が響く。

 飛竜が飛び立ったようだ。


「父さん、今の騎士様の言葉、本当?」


 息子のブルックスが先ほどの会話を聞いていたようだ。

 てっきり飛竜をずっと見ているものと思っていた。


「おそらく。アルクちゃんを止められるなら止めるべきだが…。」


「バッシュフォード伯のお嬢様が絡んでるみたいで、断ることはできないらしい。」


「そうか。では、お前が出来ることをしてやれ。ハイブリッド・バイクを使ってくれて構わん。油は満タンだからセイレイン市までの片道分は充分だろう。」


「ありがとう、父さん。出来ることなら、止めてくる。」


 ブルックスはアルクネメに渡す武具防具一式を、植物油を燃料として動き、「魔導力」でも動力として動かすことのできるハイブリッド・バイクに固定した。

 イグニッションキーをまわし、エンジン始動。

 座席にまたがり、リングに位置情報を設定、一路セイレイン市を目指し、走り出した。



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