第49話 絶望へのカウントダウン
「スサノオ」、「カエサル」、「サルトル」の3賢者が一堂に会し、「天の恵み」回収作戦について協議に入っている。
「天の恵み」は、どのような方法か分からないが、「カエサル」が調整を終えると、この巨体がガンジルク山に突き刺さっていたような状態から浮上を開始して、完全にその銀色に輝く全体を晒した。
この光景は、3年前の時と一緒であることをダダラフィンは思い出した。
その時にダダラフィンは「そのままこの空中に浮いた状態で回収すればいいのではないか?」とその時の司令官に問いただしたことがある。
答えは簡単だった。「この状態を維持するための力がない」
空中に浮いた状態でその巨体を90度向きを変え、水平状態になった。
運搬車の中で「鉄のヒト」が何か操作しているようだ。
その横になった「天の恵み」はゆっくりと「天の恵み」運搬車の荷台に乗る。
荷台に接触すると、荷台からワイヤーが射出され「天の恵み」を固定するように絡みついていく。
さらに荷台の一部がせりあがり、それに合わせるように「天の恵み」の表面の何か所かが開き、荷台の固定具を受け入れる。
このようなことが、かなり前の設計時から仕込まれているのであろう。
ここからは細かい固定作業が、国軍兵士によって行われていく。
「あと10分もすれば、あらかたの作業は終了しますが、ここからこの「天の恵み」を乗せた状態でこのガンジルク山を出るのには最低90分は欲しいところです。」
「カエサル」が説明している。
その言葉に「スサノオ」が顔を歪めている。
いま、この「天の恵み」運搬車のそばに作られて野営テントの中には、「スサノオ」が気付いたツインネック・モンストラムの「テレム」の分布状況が書かれた図が中央のテーブルに置かれている。
その周りを3賢者とシリウス別動隊統合司令キリングル・ミノルフ シリウス騎士団筆頭騎士、シリウス別動隊参謀長タスクノライド・エーミン・バイエル准将、「天の恵み」回収作戦参謀長アンドール・ヴァン・エルドメリ中将、本隊統合司令ユニスモーラ・クリフォント少将、マルス騎士団第1大隊隊長サザンバルナー・ケンタウリス、ウラヌス騎士団統合本部司令クラウンド・クルルジンが集まっている。
「概要を説明させてもらいます。」
賢者「サルトル」がその図を示しながら声を出した。
すでに戦闘用リングで事の深刻さは、ここにいる全員に通達は届いている。
アクエリアス別動隊の指令クラス、モナフィート・デム・ギルガメントとアナシルク・ニールセン中佐は、さすがにこの場所に来ることは出来ず、戦闘用リングを通じて参加している。
「巨大な「魔物」、呼称ツインネック・モンストラムの「テレム」濃度がある動きを示しています。」
この作戦の首脳以外にオオネスカのチームとデザートストームのメンバーが野営テントの外側で待機していた。
このチームはツインネックの「天の恵み」に対する攻撃を防いだことを評価されて、今ここに待機している状態である。
必要があれば意見を求められるオブザーバーとしての意味合いもあった。
「前回のツインネック・モンストラムの特殊攻撃時の「テレム」濃度の変化と同じような動きを示しています。今の状態は周りからの「テレム」を供給できないはずです。ですのでツインネックは自分の中にある「テレム」を攻撃に回すため、身体の中央に集めている最中です。他からの供給がない分、攻撃までの時間はかかっているようですが、先の攻撃までの時間に補正を掛けた結果、早ければ30分、遅くとも1時間以内には再攻撃をしてくると思われます。」
「サルトル」は説明を終え、一歩下がる。
「そこでミノルフ卿、実際に戦ったものとしての意見を聞きたい。ツインネックは倒せる相手か?」
「スサノオ」がミノルフに聞く。
「今の戦力では不可能です。」
「その理由を聞いていいかな。」
「ツインネックの表皮に文字通り刃が立ちません。先程は衝撃で首の角度を変えることによって、「天の恵み」に被害がない状態でした。剣、そして「魔導力」が通じない以上、奴を倒すことはできません。「バベルの塔」の武器にしてもどこまで奴に通じるかは未知数です。あの空を飛んでいく爆裂飛翔体が使えるならまだ分かりませんが…。」
「あれは全て使い切ったよ。」
「賢者様が戦うのなら何とも言えませんが、我々では無理です。それ以上にツインネックの足止めに使ってるシールドが我々から「テレム」を奪っています。飛竜を使うこともできない。つまり、高速での接近はまず不可能です。」
ミノルフはため息をつく。
そう、この状態は八方ふさがりである。
もともと、先の戦い方は「天の恵み」回収のための時間稼ぎであったのだから。
その時間内に「天の恵み」回収が出来なければ我々の負けだ。
「我々でも無理だろう。君たちより「魔導力」にしろ、「テレム」にしろ使い方については一日の長があるとはいえ、君たちの剣が通じないのであれば、我々でも勝つのは難しい。では、それを前提にして、今後どうやれば、あのデカ物を無傷で持ち帰られるか、という事だ。」
「基本的には奴の攻撃時に方向をずらすしかないわけだが…。」
「カエサル」が確認するように言う。
ここに居る者は、心の中で様々な考えを巡らせてる。
その大部分を「スサノオ」は聞くことが出来たが、妙案はなかった。
「シールドが足かせになっている。が、シールドを解除すれば、奴の攻撃時間を短縮させてしまう。二律背反のいい例だな。」
アンドール・ヴァン・エルドメリ国軍中将が吐き捨てるようにつぶやいた。
「一番現実的と思われるのは、シールドを解除、飛竜隊投入、こちらからツインネックの動きをアイ・シートに接続して、タイミングを見て先と同様に首の向く方向を変える。これしかないのではないか?」
ユニスモーラ・クリフォント国軍少将が上官特有の部下に「死んで来い」というような言い方をした。
この場にいる戦場を経験したものは強い反感を抱いた。
「先ほどの結果は奇跡的に行われたものだ。計画してやろうとしたら、何度も訓練を必要とする。ぶっつけ本番でできるものではない!」
官位は下のはずだが、バイエル准将がクリフォント少将に強い口調で反論した。
その言にその場の殆どが頷く。
「君もえらくなったものだな、バイエル准将。この少将である私に意見するとはな。」
「申し訳ありません。が、その計画は現場の者に負担が大きすぎます。」
「では、「天の恵み」は破壊されてもよい、と貴君は言うのだな。」
嫌なもの言いだ。だが、反論できるものは誰もいない。
「仕方がありません。クリフォント少将の策を検討しましょう。今一番重要なのは、時間です。」
自分たちを守る発言をしてくれたバイエル准将に申し訳なく思いながら、ミノルフがそう言った。
それを聞いたバイエルの右の拳が固く握られたのをミノルフは奥歯をかみしめながら見た。
テントの外にいるデザートストーム連合部隊のメンバーも悔しさに、身体に力が入る。
「アルク姉さん!」
その場にあわない声がした。
小型飛翔体が戦場に到着した。