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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第4章 「天の恵み」攻防戦 Ⅲ
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第48話 デザートストーム参加理由

 「天の恵み」に運搬車の巨大な「腕」が「カエサル」によって固定されている。

 それを3体の「鉄のヒト」がそれをサポートしている。


 この作業に関しては国軍兵士も訓練は受けていないようで、静観するのみであった。


 ダダラフィンは3年前にも「天の恵み」回収作戦に参加した経験がある。

 それはこれほど過酷な状況ではなかった。

 今のように垂直に立っていたわけではなく、水平状態の横になり地面に食い込んでいた。

 そこそこの「冒険者」が集められ、「魔物」除けとして使われている感じだった。

 来る「魔物」もランク的には下級が多く、強くてもタイガー級程度で、「魔導力」もそれほど高い奴らはいなかった。


 回収作業自体も「天の恵み」運搬車が横付けして、今使っている「腕」を固定して持ち上げ、運搬車の荷台部に移動、さらに固定して出来上がりといった感じで、困難な作業とは感じなかった。


 今回は落ちた場所の悪さ、落ち方、そして支援を受ける都市部からの距離が悪く、これだけの大部隊になったと思っていた。

 あんな特別級の巨大な化け物、ツインネック・モンストラムなどというものの存在などまったく知らされていなかったのだ。


 ツインネックはミノルフたちの活躍で動けないようにしたが、他の「魔物」達は結構な数が襲ってきている。

 今回殺した「魔物」の数は、ダダラフィンが今まで倒した「魔物」の数を優に超えている。

 前回の時は倒した「魔物」の取り合いになったが、今回はとてもそんな気にはなれない。

 食用としても、甲羅や骨、爪などの硬度の高いものなど、結構利用価値はあるのだが、そんなものを集め始めたら、とてもではないが持って帰ることは出来そうもないくらいの量があるのだから。


 「冒険者」達は多かれ少なかれ、そんな心境に達している。

 もともと騎士団や国軍兵士にとって、「魔物」の素材はそれほど興味あるものではない。

 求めている価値観が違うからだ。

 国軍兵士は国に、騎士たちは騎士団が守るべき領主や領地の民に忠誠を誓っている。

 「冒険者」は自分のためにこの仕事をしている。自ずから行動の原則が異なるのだ。


 だが、強制的にこの作戦に参加させられた「クワイヨン高等養成教育学校」の学生はどうだろう。

 野営地での戦闘、そしてこの場所でのとてつもない化け物との遭遇。

 既に3分の1の学生が戦意を喪失して後方の移動車両に避難させられている。

 本来ならここに居る騎士や「冒険者」達よりも能力的には高い若者が、精神を病んだ状態に陥ってしまった。

 そして「特例魔導士」となり、慢心している者は、防護者のはずの「冒険者」を蔑んでる輩もいた。


 さらに自分の能力が「学校」内で優れていると自尊心の強かった学生は、とんでもない活躍をしたオオネスカのチームに対して敵愾心を燃やし、ただただ「魔物」を狩り続けている状態だ。


 どうやら「腕」を「天の恵み」に固定する作業が済んだようだ。

 「カエサル」がその位置から「天の恵み」の設置部分に移動して、また何かをし始めている。


 この「天の恵み」周辺と、回収用道路の両脇には対「魔物」用シールド発生器が作動しており、「魔物」が接近できない状態にはなっている。


 あの巨大な「魔物」を殺せなかったものの、固定してあらかたの脅威は封じ込んでいる。


 さっさと「天の恵み」回収を終え、早くあの城壁の世界、クワイヨンに帰るべきだ。

 この山は危険すぎる。


「ダダラフィン殿、手持無沙汰のようですね。」


「ミノルフ卿、素晴らしい活躍でしたね。」


「やめてください、そんな他人行儀。いつも通り、ミノで結構ですよ、師匠。」


「とてもじゃないがそんな呼び方は出来んよ。シリウス騎士団筆頭騎士に対しては。で、順調に言っているのかい、シリウス別動隊統合司令殿。」


「まあ、いいんですけど。師匠にも無理を言って申し訳ありませんでした。急に子供のお守りみたいな真似をさせて。」


 ふっ、とダダラフィンは軽く笑った。

 ミノルフの頼みで急遽解散したはずのデザートストームを招集したのだから…。

 もっとも、全員がこの国にいたから集められたようなもんだ。


「それはもういいさ。というより、今ではよく頼ってもらえたと思ってる。才能っていうやつの開花する瞬間を見せてもらえた。彼らにとってそれが幸福に通じるかはわからんが…。だが、あの輝きは何物にも代えられん感動だよ、ミノルフ卿。」


「それは、まさしくその通りですね。まさか彼らがここまでやるとは…。というよりも、助けてもらった立場で言えることではありませんが。単純に知り合いの友人を何とか生還させたい一心だったんですよ。」


「あのアルクのことだろう。初陣でかなり緊張していたのに…。女が化けるとはよく言ったものだ。」


「それは、意味が違う気がしますが…。」


「何とかなりそうじゃないか。」


「まだ中途もいいとこですよ。変に気を抜いたら、何が起こるか分からない。」


 そう、こんな戦いになるなど、思いもしなかった。

 すでにアクエリアス別動隊は半数の人員を失っているのだ。


 ここにきて順調すぎて、逆に悪い予感に包まれてしまう。


 そして、こういう予感は当たってしまうことが往々にある。


 「天の恵み」で何かの調整をしていた「カエサル」が急に動き出した。

 そしてミノルフを見つけると戦闘リングを指さす仕草をしている。


 戦闘通信を開ける。


「大変なことになりました、ミノルフ卿。」


 本当に嫌な予感は当たる。


「ツインネック・モンストラムのあの攻撃の準備をしていることが確認されました。」



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