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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第4章 「天の恵み」攻防戦 Ⅲ
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第47話 ツインネック・モンストラムの攻撃 Ⅲ

「学生たちが、素晴らしく働いているということですか。」


「結果的にはな。ただすべての学生がそうかというと、話が変わってくる。」


 「スサノオ」は手元のコンソールに手をかざした。


「学生たちが皆「特例魔導士」であることから、「魔物」に狙われやすいという事があるが、既に5チームが戦闘不能状態。現段階の「天の恵み」回収運搬車の通る道を整備する国軍を「魔物」から守るという任務を執行中だ。だが、彼らを守るために配置した「冒険者」チームとの諍いや、野営地での戦闘での役立たずぶりに怒った「冒険者」もいる。急造とはいえ、あまりにも経験者に対する接し方がなっていない。「特例魔導士」という事に変にプライドを持ち、他の者を卑下する輩もいたよ。」


「それを若さというものもいますが…。」


 大きくため息をつき、モニターに映る「クワイヨン高等養成教育学校」の学生のチームが表示されている。

 既に戦闘不能状態のチームは×印がついている。


「賢者「スサノオ」様。「バベルの塔」監視班より不可解な連絡が来ています。我々では意味が不明ですのでそちらに回します。」


 戦闘司令車国軍オペレーターの女性が「スサノオ」に脳波回線をまわす。


(こちら「バベルの塔」執政官「ランスロット」。「スサノオ」様ですか)


(何か動きがあったか?)


(いえ、ケース72ではありません。ただそれよりもことは重大かと…)


 ケース72より重大?現時点での洗い出しでは、そのようなものはなかったと記憶しているが?


(王都クワインライヒ近郊のアルトラクソン市のアマルヒムよりセイレイン市第18門を経由して、そちらの戦場に向かっている飛行物体を確認。重力制御駆動装置特有の重力波を検出しました。)


 重力波?重力制御駆動装置(GCDS gravity control driving system)だと?

 なぜ、そんなものが飛んでいるんだ?


(それは…本当か?本物なのか?)


(映像、まわします)


 モニターの右下隅に少し不鮮明の三角形の物体が高速で移動している姿を見せた。


(これは、1000年くらい前によく使われていた偵察型に似ているが、いや、かなり違うか?底の部分がやけにやぼったい)


(これは、偵察型ではなく、小型の自動配達用の民間装置です。それを改修したのか、修理したかで歪になっているようですね)


 「サルトル」が通信に干渉してきた。


(飛んできた方向はアマルヒムという事なら、鍛冶屋の「ハスケル」辺りが発進地と見て、まず間違いないでしょう。あそこは奇天烈なものに非常に興味を持ってしまう家系ですから)


(「ハスケル」?聞き覚えがあるが…。何者だ?)


(その名の通り、鍛冶を専門に扱う商業施設ですが。G42号が絡んでます)


(思い出したよ。「特例魔導士」アルクネメ・オー・エンペロギウスの知人だな)


 「スサノオ」が自分の記憶を思い起こした。


 だがGCDSは極秘中の極秘案件ではないのか?

 情報どころか、実物そのものをこの星の人間が操作しているとはどういうことだ。


(確かに重要だな。その「ハスケル」という鍛冶屋。強制権限を発動すべきか?)


(「スサノオ」様。現段階ではこのGCDSの問題は保留にしましょう。我々に対する叛旗となる可能性は低いと思います。あの家族にそのような思想を持つ者はいませんから。とりあえず、ケース207と分類。保留事項、記録。いいでしょうか?「ランスロット」殿)


(「サルトル」に同意。現在の案件に集中。運搬車、目的地点に到着。回収作業に移る)


(了解です。事態変更時、また連絡します)


(ありがとう、「サルトル」)


 脳波通信終了。


「思考が袋小路に入るところだった。礼を言わせてもらうよ「サルトル」。ありがとう」


「いいえ、そんな大したことはしていません。それよりも、安全に「天の恵み」回収を実施することが今は最優先という事です。とりあえず、ツインネックでしたっけ、あいつの動きを止めている間に事を済ませるのがベストでしょう。」


「もっともな意見だ。自分一人では、思考の罠にはまりやすいことを痛感したよ。」


 そこで「スサノオ」は一旦言葉を切り、先ほど「ランスロット」の通話を取り次いだオペレーターに向く。


「ツインネック・モンストラムのデーターをすべて提示してくれ。」


 20m以上の巨体、その巨体を支える太い8本の脚。

 身体を覆う固い甲羅。

 蛇の長い首と虎の長い首を持つ化け物。

 その体の所狭しと紋様のように見える赤い目。

 異形の「魔物」。


「化け物以外の何物でもないな。」


 「テレム」濃度がある程度以上を示す赤色部分がツインネックの全体を覆っている。

 つまり体の中の「テレム」が体全体に充満してるという事だ。

 これに「魔導力」が加わる。


 シールド発生器の周りはほとんど「テレム」か消えた状態に変わった。

 森からは「テレム」が流れてきているようだが、シールドで消えていくことがこのモニターに示されている。


 そのシールドがツインネックの周りを覆い、事実上、ツインネックに「テレム」は供給されない形になっている。

 ただし、シールド付近では「テレム」がない以上、「魔導士」も力をうまく使うことはできない。

 飛竜に至っては、その飛行能力を「魔導力」に頼っているため、それを補強する「テレム」がない状態では飛ぶことが出来なくなる。

 それを理解しているから、ミノルフは対「魔物」シールド発生器設置後、すぐに退避させたわけだ。


 「スサノオ」はもう一度、ツインネック・モンストラムの「テレム」の濃度状況を見て、先ほどとパターンが異なることを見つけた。

 わずかだが、身体の中心の赤が濃くなり、尻尾部と足の先端が薄くなっている。

 これは、まさか…。


「オペレーター!ツインネックが先ほど攻撃をしようとした時の「テレム」濃度の変化を見せてくれ。」


 オペレーターは頷くとすぐにモニターにレーザーを照射したと思われるときの奴の体の中の「テレム」濃度の変遷が映し出される。

 オペレーターはその図と、現在の濃度変化を退避できるように配置してくれた。


 その二つは同じような濃度変化を示している。

 ただ、先ほどの照射したときの方が速度が速いが、「テレム」量が今の状態より多くあったためと推察できる。


「これは…。」


 「サルトル」が立ち上がり呆然として、呟いた。


 そうこれは明らかに…。


「ツインネックは、また照射する気だ。」



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