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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第4章 「天の恵み」攻防戦 Ⅲ
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第46話 ツインネック・モンストラムの攻撃 Ⅱ

 まずい。2射目が放たれる。


 ミノルフは、しかし今の剣裁きの運動から次の行動にはすぐには移れなかった。


 オオネスカもまた上空に上がってしまっている


 もう一つの虎の首が口を大きく開いていく。

 まるでコマ送りのようにその風景がミノルフの視界で動いている。

 そして自分の動きもまたコマ送りで動き、間にあわない。


 虎の首の口の上顎あたりが、赤い輝きを増した。

 ミノルフが思った瞬間、虎の首が極端に横に振られた。

 いや、強制的に弾かれたことに気づいたのは、そこにアルクネメの剣と男の腕がミノルフが認識した時だった。


ー-------------------------


 アルクネメと、マリオネットは光り輝く円盤にその身を置き、加速しながらツインネック・モンストラムのいる場所に向かった。


 明らかにアルクネメの足元の円盤はしっかりとした印象を与えるのに対し、自分が作り出した輝く光の円盤は小さく、自分の体を支えるには頼りなく思えってしまう。

 しかしその感情とは別に、自分でもこのフライングソーサーを創れたことに驚きと喜びがあった。


 まだ、アルクネメに追いつく可能性がある。


 つい先刻、自分の中に現れた負の感情に縛られていた心が解きほぐされた気がした。


 前を行くアルクネメに懸命に追いつこうとしながら、さらに自分の「魔導力」が高まっていくのを肌で感じていた。


 アルクネメは、自分にしっかりっと追いついてくるマリオネットに不思議な安心感を覚えながら、ツインネックを目指す。


 アルクネメの視界に、ミノルフとオオネスカが口元を光らせた蛇の首を上方にはね上げる姿をとらえた。

 その口元が赤く光った。

 そう思った瞬間、上空にかすかな空気の揺るぎを感じた。


 間違いない。

 あの化け物が「天の恵み」を狙って何かの攻撃を行ったのだ。


 そして、あの二人がその攻撃方向をそらしたことにより、「天の恵み」を守ったのだろう。


 だが、アルクネメとマリオネットの目に、虎のような首をしたもう一方の口が開き、赤い輝きをとらえた。


「アルク!」


「はい、マリオ先輩!」


 二人はお互いの名を呼び、滑空速度をさらに上げた。


 そのスピードのままアルクネメは剣を構え、マリオネットは右の拳に力を込め、虎の首に向かう。

 そしてぶつかるように虎の首の右喉元にアルクネメが先に剣をつく。

 すぐその後にマリオネットの右の拳を叩きこんだ。


 アルクネメの剣先はほんの少し食い込んだだけであったが、二人分の衝撃が虎の首を強引に吹き飛ばす。


 その衝撃とほとんど間を置かずに、ツインネックの口元の空間がゆがんだ。


 一瞬後、ガンジルク山の麓のまだ木々が生い茂る森が火を噴くがごとく燃え上がった。


 ミノルフは二人の体当たりにも近い形で、ツインネック・モンストラムの「天の恵み」への攻撃回避を確認してすぐに命令を発した。


「飛竜隊、全員急上昇でこのエリアから退避。」


 地上で作業を終え、ツインヘッドの動きに体を硬直させていた隊員がすぐさまミノルフの命令に従った。


 100を超える飛竜が一気に上空に退避したのをミノルフは確認した。


「対「魔物」シールド発生器、起動!シールド発生!」


 地上に備え付けられた対「魔物」シールド発生器が低いうなりを上げ、周りに微妙な振動を伝えた。


「対「魔物」シールド発生器、正常に作動開始。シールド発生確認されました。」


 戦闘用リングから対「魔物」シールド発生器を管理しているアクエリアス別動隊の戦闘指令車から連絡が届く。

 アイ・シートにその展開範囲が映し出された。


 その範囲がツインネック・モンストラムに届くと、それまでも緩慢だった動きが、完全に足を止めた。

 

 さらにその巨体を支えていた足が、力なく折れていく。


「止まったのか?」


 モニター越しにツインネックを見ていた賢者「スサノオ」が呟いた。

 横で力なく眠りに落ちていた「サルトル」の瞼がかすかに動いた。

 そしてゆっくりと瞼を開ける。


「起きたか、「サルトル」。」


 体を起こし、位置を変えてしっかりと座りなおした。


「申し訳ありません、「スサノオ」。気を失ってしまったようで。」


「気にするな。君の使用してるリラの体は元々11歳だ。我々より体力の限界は早くてもおかしくはない。君の精神力がいかに大きくてもな。」


「なんとか、「天の恵み」を修復出来て、助かりました。「カエサル」は?」


「今は外に出て、「天の恵み」を回収するために運搬車に同乗している。「鉄のヒト」も一緒だから何か問題があればすぐに連絡が来るだろう。」


 その言葉に一息つき、「スサノオ」が見ていたツインネック・モンストラムに視線を移した。


「うまく足を止めたようですね。」


「まったくだ。あれが出てきた時はどうなるかと思ったが。「テレム」の濃い場所は「魔物」の成長が桁違いであることが分かったよ。まさかレーザービーム照射ができるなど、誰が考える?」


「レーザーだったんですか?」


「周りからは全く見えない状態でミサイル運搬車をあっさり切断した。さらにこちらが打ち出したミサイルを首を振ることで切断して破壊した。あの化け物、ツインネック・モンストラムと呼称が決まったが、あの二つの首、それぞれレーザー照射することが出来るらしい。ただ、照射後、ある程度の時間がないと次発を打てないようだ。いま、ミノルフとオオネスカのチームが実にいいタイミングでレーザーを逸らすことに成功したよ。さらに奴の周りに「テレム」分解シールドを展開させて、足止めに成功したところだ。」


「学生たちが、素晴らしく働いているということですか。」


「結果的にはな。ただすべての学生がそうかというと、話が変わってくる。」


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