第44話 ツインネック・モンストラム
「ここは先程からの一番長く戦っている場所だからな。」
「どういうことですか?」
ミノルフの横にオオネスカとエンジェルがいた。
「早いな、オオネスカ卿。」
「卿付けはやめてください、統合指令殿。で、先程行っていた意味は?」
「この地で長く戦い、さらに爆破炎上が相次いで、木々のあらかたがなくなっている。」
巨大な「魔物」の周りにはむき出しの大地が見えているだけだ。
「つまり「テレム」の濃度が極端に薄くなっているということですか。」
「そう考えていいだろう。あの化け物の巨大な体は8本もある足が支えてはいるのだろうが、「魔導力」と「テレム」によっても支え、動いているはずだ。「テレム」が少なくなれば、それだけ動きに支障が出てくる。あいつが今、移動速度が極端に遅いのもそのためだろう。」
オオネスカとミノルフは高度を落とし、巨大な「魔物」の観察を続ける。
「魔物」の赤い目が執拗に彼らを追っている。
「ではさらに足止めが、私たちがするべきことですね。倒すといえないことが悔しいですが…。」
その発言にミノルフはかすかに笑った。
オオネスカの成長も素晴らしいな。
技術的なことだけでなく、指令としての資質も上がっている。
この巨大な敵を倒すことしか考えられないようだと待っているものは死そのものだ。
その状況を確実に判断し、引くべきところは引ける判断を持っている。
何としてもこの子たちを死なせることはできない。
「モナフィート卿から連絡がきた。爆裂飛翔体射出機を破壊した何らかの力が今のところ出ていない。2回行使した後は使われていないが、「魔導力」をかなり使うのではないかということだ。そのため、奴はためを行っているのではないかと言っている。」
「それで、それが何時かは解るんですか?」
「わからんとのことだ。だが使わせるときにその方向をかえさせて、使わせればかなりの時間を稼げる。」
巨大な二つ首の「魔物」を低空から観察を続ける二人に、コバエを振り払うようにトカゲの首が迫ってきた。
二人は思わず急上昇をかけ、その首から逃れた。
大きく口を開けた上あごに赤く光る大き目の石のようなものを見つけた。
「あれは…。」
「わからんが、あれが何かをするための器官かもしれん。」
ミノルフはオオネスカのつぶやきに答えるように話す。
「先程、運搬車のルートに対「魔物」シールド発生器を設置してました。あれは近隣の「テレム」を分解する効果があると聞いてます。かなりゆっくり進んでいるこの化け物の周りに設置できれば、進行を止めることが出来るんじゃないですか。」
オオネスカの提案にミノルフは少し考えこんだ。
(面白い提案ではないか、ミノルフ卿)
オオネスカを乗せているエンジェルがオオネスカの提案に同意した。
(やってみる価値はあると思うよ、ミノルフ。あんな化け物、まともには戦えない)
ペガサスは乗り気である。
いくら数を用意しても、あの化け物に勝てる気がしないミノルフは、この案ができるか、本隊に連絡を取った。
本隊はマルス騎士団、ウラヌス騎士団が護っているが、この作戦の総合司令官は「バベルの塔」執政者「スサノオ」である。
彼の同意がこの計画には必需である。
そして今、賢者「カエサル」が傍らにいるはずである。
自分の意見は最低限届くはずだ。
連絡を本隊に繋ぐとすぐに了解のコールバックがあった。
賢者「カエサル」がミノルフに連絡通信波を脳内に送ってきた。
(了解だ、ミノルフ卿。君の意見をもとに今作業工程を整えている。ただ、機材の運搬がシビアだ。君たちの飛竜隊を借りられるかい?)
いくら歩みがのろいといっても、あの巨大な体を前に作業ができるのは、早さを兼ね備えている飛竜隊しかいないだろう。
(それしか手がないでしょう。機材は何処にとりに行けばいいのでしょうか?)
(アクエリアス別動隊の機材を今運べるようにしている。アクエリアス別動隊の飛竜隊も参加する。仕切ってもらえるか、ミノルフ卿)
(了解しました。作戦開始は?)
(20分後の13:00。それがギリギリだろう。奴の今の移動速度から、配置ポイントを送る。一気に配置してくれ!)
(了解)
そのあというべきか迷っていた提案も「カエサル」に伝えることにした。
(奴の個体名称を決めていただけませんか?)
(ツインネック・モンストラム。二つ首の魔物という意味の古代語だ。これで呼称を統一してくれ)
(すでに決まっていたんですね。ただちに伝達します)
ミノルフは部下とアクエリアス別動隊の飛竜隊に通達を行った。




