第42話 マリオネット・オグランドの心情
アルクネメとマリオネットは「天の恵み」の着陸地点に到達していた。
低空からそこにいた「魔物」たちを切り裂き、そのまま骸を焼くための炎を放つ。
すでにこの時にはアルクネメ自身の感覚が研ぎ澄まされており、剣を使わなくてもその周囲の気体を瞬時に圧縮して、高温を発生する術を体得していた。
動いている「魔物」に対してはさすがにその照準を合わせることはできなかったが、動かない骸を焼き尽くすことは簡単にできるようになっていた。
この力の発現はアルクネメ自身が驚嘆している。
ブルックスの「テレム」発生器の補助があるとはいえ、ここまで自分の「魔導力」が高まっていることは素直に驚いていた。
「アルクの才能は凄まじいな。」
単純な驚きをマリオネットはそう表現した。
「いえ、ブルのこの機械のおかげです。」
「いや、その機械はただのきっかけに過ぎないと思う。この「テレム」発生器自身が優秀なことは俺自身も使っているからわかるが、それだけでアルクの戦果は説明できない。この極限の状況がアルクのもともとの才能ってやつを開花させたとするほうが自然ってもんだ。」
この地域の「魔物」の掃討が済み、今二人は自分の足で大地に立っている。
そして、全長60m以上と伝えられている「天の恵み」を見上げた。
ミノルフとオオネスカはこの壁のような「天の恵み」の表面であの怪物どもと戦ったのか。
あの二人も間違いなく化け物だな、とマリオネットは心の中でため息をついた。
自分はこの女性たちと同じチームで戦うことが出来るのだろうか?
ふと弱気になる自分を、頭をふって追い出す。
元来、マリオネットという男は自信を漲らせた男だった。
がさつとも表現できるその性格は攻撃的で、そして弱いものに優しかった。
それは自分が強い男として、自信があったからだ。
だが、今、目の前にいる女性、アルクネメ・オー・エンペロギウスという名の16歳の少女は決してか弱い女性ではない。
学校での演習時ではあまり前に出ようとせず、オオネスカのサポートに回るような、弱い存在だったはずだ。
だが、アルクネメはその持てる力すべてを開放し、迫りくる「魔物」たちを、ことごとく燃やし尽くしていく。
賢者に触れるものはその「聖なる火」でその身を焼かれ、この世から消されるという伝説を体現化するように…。
自分は今、誰とともに戦いに身を投じているのか?
年下の、下級生でもあるアルクネメだ。あの、すぐにでも泣きそうだった、少女。
それが今、その才能を惜しげもなく出し切り、さらにその才能をあげていこうとする。
その姿はまぶしかった。
その姿は美しかった。
その姿は崇高な存在に見えた。
その姿は、……妬ましかった。
その姿は誇らしく思えた。
その姿は、…羨ましかった。
その姿は輝いて見えた。
その姿が、………自分ならよかったのに…。
その姿を見ていられなくなっていた。
自分の中の負の感情、妬み、嫉み、憎しみ、羨望、僻み、嫉妬、憧れ、羨ましい……。
マリオネットの心の中を負の感情が果てしなく螺旋を描くように、奥底に落ち込んでいく感覚に包まれていく。
(そうだよ、君はこちら側に来るべきなんだ。そんな女たちは君にとって邪魔なだけだよ)
おかしな思考が自分の中に流れ込んでいる。
俺はそんなことを考えているのか?
だめだ、マリオ!今、そんな感情に振り回されるな!
今すべきことは、この「天の恵み」を回収すること。
そのために、この周りの強力化した「魔物」を一匹も残さず葬ることだ。
闘え!マリオネット!
「大丈夫ですか、マリオ先輩。」
しばし、うつろに「天の恵み」を見上げていたマリオネットにアルクネメが心配そうに尋ねてきた。
「いや、悪い。この大きさに圧倒されちまったよ。今、気にすべきはこの後ろにいる奴ら、だな、アルク。」
雑念を振り払い、マリオネットは体全体に力を集中させる。
アルクネメから渡されたブルックス作成の「テレム」発生器を握りしめる。
自分の中をめぐる血液が、力強く脈打っていることが意識できた。
大丈夫だ、俺ならできる!
アルクの才能を抜くことが出来る!
周りの「魔物」たちに、モンキー級やウルフ級といった野営地を襲ってきた低級の「魔物」たちはいなかった。
最低でもBランクのタイガー級やベア級、タートル級。
それ以上のリノセロス級、パイソン級、コモド級や、それ以上の大きさのものが、全身に赤い目を血走らせて迫ってきた。
マリオネットはそのまま彼らの真っただ中に突っ込んでいった。
「マリオ先輩!」
急な動きに、アルクネメは少し慌てたが、すぐに自分のできることを巡らせる。
マリオネットの脇から襲ってくるタイガー級を長剣からミノルフの行った光弾を繰り出す。
その光弾が突き刺さり動きを止めた「魔物」たちを、すぐに周りを高熱化、焼き払った。
「さすがの腕前だな、アルク。だが、まだ俺は負けてはいないぜ!」
マリオネットはリノセロス級に真正面から突っ込み、そのリノセロス級が遠隔攻撃を駆使する前に、力を漲らせた右のこぶしを眉間の間に叩き込んだ。
リノセロス級はそのまま動きを止めて、倒れこんでいく。
まさに一撃必殺の拳であった。
リノセロス級を打ち取ったマリオネットはその衝撃の反動をそのまま外に流すようにリノセロス級を飛び越え、後ろにいた大きなコブラのような、パイソン級の口元を掴み、胴体を左手で抑え、一気に引き裂いた。
パイソン級の断末魔のような叫びが「天の恵み」に響く。
アルクネメは、次々と「魔物」の骸を作っていくマリオネットを追い、火を放っていく。
その炎は近くまで来ていた「魔物」たちを、後退させることに成功する。
その瞬間を逃さず、マリオネットに当たらないように、長距離まで伸びるロングソード現象にファイヤーソード現象を乗せた形で、一瞬に周りに「魔物」を炭に変えていった。
そのなにもいなくなった空間に、国軍の兵士が素早く対「魔物」シールドを張っていった。
作戦は二人の活躍で大幅早く進行していく。




