第40話 賢者「カエサル」の苦悩
賢者「カエサル」は「サルトル」を伴い、「天の恵み」回収用運搬車の奥に控える、今回の作戦の総司令部である賢者「スサノオ」の戦闘司令車にいた。
「スサノオ」の姿は銀髪碧眼の30代半ばの落ち着いた雰囲気を持つ男性であった。
静かに自分の前にある巨大なモニターを見ていた。
国軍の人間は別室に控えている。
「スサノオ」の右隣に「サルトル」が静かに寝ていた。
「カエサル」はモニター上に展開されている本隊と二つの別動隊の現在の配置図に対して、「魔物」達の赤い光点を見ている。
急にその点が微妙にずれて映った。
「「魔物」達のいる地点と、Aランク以上のいる地点。ほとんど差がありませんね。」
そのモニターの意味を察した「カエサル」が呟く。
「恐ろしい勢いで、奴らの「進化」が起こっているな。ある意味「テレム強化剤」が活性化されている証拠でもあるが…。やってくれるな、本国政府は。」
「やはり計画的に行われたと。」
「と、私は考えている。既に100年以上まともな連絡が取れていない。「天の恵み」絡みの連絡事項がどうにかやり取りできる程度だ。こちらも、考えられる場合を想定して事を進めている。最悪、本国政府が消失していることも想定されているが、「天の恵み」の連絡で、そこまでには至っていないとの判断だ。」
「実際問題として、これ以上の兵士の死は避けなければいけません。早急にあのデカ物を回収して、撤退しないと。どうも王都の方でケース72が動きそうだという連絡もあります。」
「カエサル」は「スサノオ」の懸案事項の一つを口にした。
「今は「バベルの塔」には「ランスロット」のみです。彼だけでも十分対応できるとは思いますが、この件で国が割れることは避けなければなりません。今回の着地地点がここでなければ、これほどの人材を当てることはなかったんですが。」
「ガンジルク山への着地と表面開閉部の誤作動は仕組まれたものだよ。逆に今回の数を出さなければ、最悪全滅、ガンジルク山の「魔物」の進化、それに伴うクワイヨン国の崩壊。最終的に我々の全滅で幕が下りるところだった。それにね、「カエサル」。私は今回のこの事件は好機ととらえているんだよ。」
「好機、チャンスですか?」
「スサノオ」の言葉に、ただオウム返ししかできない。
「「バベルの塔」に叛旗を翻すものがどうなるか、国民にしっかりと意識させなければ、今後のこの星の人類は、戦うこともできずに朽ち果てていくことになる。」
「このクワイヨン国ではなく、ハイリゲスラントが滅ぶと…。」
「その可能性もあるという事だ。こちらがコントロールできる叛乱は、治政において一番効率が良いそうだよ。戦争などよりもな。」
「カエサル」は「スサノオ」の言葉を理解はできたが、賛同する気には、なれなかった。
既にこの戦いで数多くの人命を失っている。また我々はこの人類に対して罪を重ねていってる。
「カエサル」は「スサノオ」に顔を向けた。
「今後の指示はいかがいたしましょうか?」
「既に「天の恵み」までの道は、ほぼ整備できた。運搬車を「天の恵み」に向けて動かせ。そして、より重要なことは、「魔物」どもに絶対破壊されないように、国軍、騎士団、冒険者、学生に指示を出し、守らせろ。あれを壊されたら、とてもではないが、あんなデカ物を我々だけでは持って行きようがないからな。」
「御意‼」
「カエサル」は今の命令をすぐに戦闘用リングを通じ全戦闘員に通達した。
そのまま戦闘司令車から外に出る。
アクエリアス別動隊からは逐一戦況に対しての報告が来ている。
うまく囮となって、あの化け物を「天の恵み」から引き離してくているようだ。
戦端を開いてしまって、最初の段階では対応しきれず、参加者の殆どが滅ぼされるかと思ってしまった。
それでも「カエサル」にとって「テレム強化剤」の大気中への拡散を止めなければならなかった。
モナフィート卿にも、亡くなった兵士たちにも本当に申し訳なく思っている。
それでも中盤から残存兵力を把握しての、本来の作戦へ軌道修正できたモナフィート卿の手腕をただ、ただ、ありがたく思っている。
あの化け物は我々の想定外であった。
「空の目」を終始使い、この星の状況は監視していたはずなのに、あそこまで大きい「魔物」に育つことは考慮に入れてなかった。
しかも内臓に高出力レーザービームを照射できる器官を作り上げている。
奴が現れたのは、「テレム強化剤」が気化する前であった。
つまり、あの薬がない時代にあの大きさにまで成長していたという事だ。
この作戦が終わり次第、もう一度今までのデーターを精査する必要がある。
「カエサル」にとって、この「天の恵み」の不時着が純粋な事故なのか、または計画的な着陸なのかの判断はできない。
だが、この戦闘でも、ケース72の事態が発生したとしても、誰も死んでほしくなかった。
「天の恵み」運搬車が動き出していた。




