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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第1章 「天の恵み」回収作戦 前夜
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第4話 ルーノ騎士団 調達局

「馬鹿なことを言いなさんな、ダズグ殿。こちらは納期を二日も早めたんだ。割増料金だって良識の範囲内だろう。それを言うに事欠いて、踏み倒しはなしでしょう。」


 ミフリダスの憤った声が事務所にこだました。


「払わないとは言ってない。ただ待ってくれと言っておるのだ。」


「割り増し分はまだしも、2日後には現物と引き換えで代金をいただくという事で契約をしたんですよ。大きいところならまだしも、うちのようなところで、この量は結構な現金が必要だってことは説明しましたよね。しかも、今回の鋼は、ムゲンシンの光鉱石を使ってるんです。結構な額になるのは理解してほしいんですよ。」


「こちらも急に「リクエスト」が入って、対応に現金が必要になってしまったんだ。なんせ、武具だけでなく食料や通信設備、搬送車の手配で火の車だ。でも、この「リクエスト」を消化できれば大きい金が入る。それは解ってほしい。」


 思案顔のミフリダス。

 当然売らないという選択肢は自分の首を絞めてしまう。

 かといって代金を回収できなければ、自分、息子夫婦、孫の4人が路頭に迷う。

 これが4大騎士団か、自治体直轄なら安心して待てるんだが、藩主の私設騎士団の色合いの強いルーノ騎士団となると考えてしまう。


「そちらの事情も、この緊急「リクエスト」という事はこちらでも理解しております。ではこうしましょう。まず2日後に半額を入金してください。あとの半額は「リクエスト」終了後の入金後という事でよろしいですか?ただし、割増料金を2割から4割にさせて頂きますが。」


 ハーノルドが二人の間に入り、代替案を出す。

 ダズグはその案に渋い顔を作る。


 納品時期を早めて、それに従ってくれたことは有り難い。

 この「リクエスト」に間に合うことは非常に大きいからだ。

 だが、先ほど自分で言ったとおり、武具以外にも緊急で調達しなければならないものが結構かさばり、現時点での騎士団の収支を圧迫している。


 この武具屋が腕がいいことは解ってる。

 今回限りで手を切るならいざ知らず、今後も世話になることを考えると極端な手段はとれない。


 そう考えるダズグの目に、輝きを放つ武具が映った。


「店主よ、その武具はなんだ?」


 ハーノルドは先ほどまで調整していた3種の剣が隠れ切ってないことに気付き、思わず顔をしかめてしまった。

 先刻、この「リクエスト」にやはり参加する旨の連絡を受けたセントジルム藩の騎士、キリングル・ミノルフから、注文していた剣を急遽引き取りに来ることを伝えられたばかりだ。

 その用意をしていたため、ダズグの目を忘れていた。


「その武具、かなりのものだな。それもルーノ騎士団に納入せよ。」


「それは出来ませぬ。この品はある騎士様より受注した品で、すぐに取りに来ると連絡がありました。」


「我が藩の者ではあるまい。この藩のためでもある。命令に従え!」


「すぐに代金を用意できるのですか?」


「うっ、それは…。」


 ダズグは唸った。これはできない相談だろう。


 その時だった。

 空から大きな翼が羽ばたく音が響いた。


 ブルックスが外に飛び出した。ミフリダスも後に続く。


「うわあー、飛竜だ。初めてとんでるとこ、見たあ。」


 ブルックスの声が事務所の中まで聞こえてきた。

 このタイミングで現れる飛竜使いは、どう考えても、この魔光石を使って作った剣の正当なる持ち主以外考えられなかった。


「セントジルム藩の騎士、キリングル・ミノルフだ。ハスケル殿!注文の剣、取りに参ったぞ。」


 飛竜が着地できる広い場所は、ここから歩いて2~3分くらいの場所になるだろうか。


 恐らく、ブルックスが追いかけているはずだ。


「ただいま、正当な所有者様が受け取りに参られました。受注した30の剣と30の槍をお持ちください。」


「この剣は飛竜の騎士の剣であったか。」


 受注者の個人情報は秘匿が原則のため、ダズグには言えなかったが、ああも大声で本人に言われては隠す必要はない。


「まさしくセントジルム藩の飛翔の騎士、キリングル・ミノルフ様が発注の品でございます。納得いただき、ありがとうございます。」


 飛翔の騎士、キリングル・ミノルフはセントジルムの騎士というよりもこのクワイヨンの4大騎士団に数えられるシリウス騎士団筆頭騎士、いわゆるエースである。

 この地元のルーノ騎士団に比べれば圧倒的な格の差であった。


「分かった、その剣は諦めよう。しかし、私も騎士団の調達担当の長でもある。少しでも武具をまわしてはもらえぬか?」


 実際問題として、あるのは試作品だけ。

 待てばもう少しいい条件で武具を欲しがる者がいるかもしれないが、ここはダズグの顔を立てる方が、後々に都合がいいことは明白ではある。


「承知いたしました。現時点でこの工房ではもう実際にお売りできるものは限られてはおりますが、剣を4本ほど用意はあります。あと、試験的に「テレム」を吹き付けてその「魔導」の力をより高める試みをした剣と盾が各一つずつなら用意はできます。」


「わかった。それも外の荷車に固定してくれ。今日中にセイレイン市18番門に届けねばならん。」


「あとよろしければ「テレム」濃縮器もありますが…。」


「それはいらん。では2日後に半額を入金、「リクエスト」終了後の報酬金より、残金を入金する。それでよいな。金額はいつも通り、指定のアドレスにコンタクトしておいてくれ。」


 ダズグはそう言うと腰かけていた事務所の応接椅子から立ち上がり、影のように付きそう従者に簡単に目で文字通り、指示を出す。


 工房にあった剣と槍を大急ぎで外の荷車に外れないように固定する。

 ハーノルドは、先ほど約束した追加の武具を倉庫から引っ張り出し、従者に渡す。


 従者はその追加分を別にけん引されている荷車に格納している。


 ハーノルドは出来れば試験用の剣と盾の威力を使用後に報告してほしいものだな、と考えていた。


 ダズグたちを乗せた大型の馬車は、馬よりも二回りばかり大きい動物、聖馬にひかれてすぐにセイレイン市に向かった。


 きっと飛翔の騎士、キリングル・ミノルフとは顔を合わせたくはないのであろう。


 ダズグが出発してすぐに背の高い男が中に入ってきた。


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