第39話 進化する「魔物」
空から銀色の鱗を輝かせたエンジェルが舞い降りた。
「オオネスカ先輩、お疲れ様です。凄いですね!あの化け物と戦うなんて!」
エンジェルの背から飛び降りてきたオオネスカにアルクネメが駆け寄った。
「結局賢者「カエサル」様が難なく真っ二つにしちゃったから。ため息しか出ないわ。」
「でも、相手は賢者様でしょう。それはあまり比べる相手ではないと思いますが…。」
「ミノルフ殿も凄まじかったわよ。オーブの支援があったとはいえ、あの降り注ぐような「魔物」の飛ばす刃を「カエサル」様を庇いながらすべてかわしたのヨ!」
オーブの「探索」の才能を通じて、ある程度の状況は共有していたが、オオネスカの語る戦闘状況はかなり切迫していたようだ。
あの甲羅のような鎧のようなものが拡がり、何かの攻撃をしていたぐらいしか、こちら側ではわかっていなかったからだ。
「さすがは騎士団筆頭騎士だけはあるな、ミノルフ殿は。」
ダダラフィンがオオネスカの言葉に懐かしむように頷いた。
「お知り合いなんですか、ダダラフィン殿。」
「まあな、ちょっとした知り合いってとこだよ。」
オオネスカの言葉に少し言葉を濁した。
「別に隠さなくてもいいんじゃないか、大将。キリングル・ミノルフは大将の親戚筋にあたるんだが、それよりは剣の弟子なんだ、ダダラフィンのな。」
バンスが言いづらそうにしているダダラフィンに代わり説明した。
「ミノルフ殿の剣の師匠にあたるんですか、ダダラフィン殿は!」
オオネスカはバンスの言葉に驚いたようにダダラフィンに視線を向けた。
「まあ、そんなこともあったって話だ。今では圧倒的にミノルフの方が腕が上さ。」
「謙遜は美徳ではないよ、ダダラフィン。」
バンスが軽くダダラフィンに皮肉を言った。
「それよりも、優先することを始めよう。」
「はい、では空からの概況の説明を。」
オオネスカは自分のリングの情報を全員に共有した。
「現在、かなりの数、先ほどの「天の恵み」での闘った「魔物」の倍はある化け物を含めて、アクエリアス別動隊が引き寄せて、こちらの「魔物」の数はかなり減らすことが出来ていると思われます。」
「やはりそういう事か。了解した。」
オオネスカの言葉にダダラフィンが頷く。
「ですが、思ってもいなかった事態が発生しています。これは賢者「カエサル」様からの情報ですが…。」
サムシンクはアルクネメから渡された「テレム」発生器を握りしめながら、今ここに居る11人をすべて包み込むように「魔物」から防御するための結界を展開させた。
学校では自分を防御するくらいしかできなかった「魔導力」が確実に強まり、今はこの人数を囲める結界が「魔物」から守っていた。
サムシンク自身が一番驚いている。
「あの「天の恵み」から漏れ出ていた「モノ」があるそうです。「カエサル」様と「サルトル」様が二人向かわれたのもそのためだそうです。その「モノ」を多少なりに吸い込んだ「魔物」が異常な成長を遂げた可能性が高いとの事です。」
オオネスカの説明にダダラフィン達の目が大きく見開かれている。
歴戦の勇者ともいえる冒険者チーム・デザートストームのメンバーにとって、その情報は大きな衝撃であった。
短時間での異常な成長。
ミノルフとオオネスカが戦っていた不揃いの二つ首の「魔物」の姿が想起された。
「あいつは成長途中の姿だった、という事か?」
「おそらく。」
ダダラフィンの呟きにオオネスカが頷いた。
「そして、これはミノルフ殿の推測でしたが…。」
バンスとグスタムがやおら立ち上がり、サムシンクの結界から外に出た。
そこには結構な数の、赤い目を光らせた「魔物」達が渦巻いていた。
それをすべて無力化して、二人は結界の外縁を時計回りに走る。
一瞬後には赤い目がすべて消え、「魔物」達の骸が転がっていた。
オオネスカはその姿を目で追いつつ、続けた。
「死んだその「魔物」達が「天の恵み」から剥がれ、地面に落ちるや否や、他の「魔物」達が群がって、喰らっていました。」
「いや、お嬢ちゃん、それは当たり前だろう。奴らは同族でも、隙があれば喰らい、己が「魔導力」のさらなる強化をしているというのが、奴らの知られている生態の一つだと理解しているが。」
ヤコブシンがここではじめて口を開いた。
彼もまた防御剣士である。
今、陰ながらサムシンクの結界を補佐している。
が、そのことに気付いているのは「探索士」であるオービットとシシドーくらいであった。
「その通りです。ただ、今回の場合、その死んだ化け物たちを喰らった「魔物」どもが、同じように異常な成長を起こし、その成長したものを喰らうとそのものも異常に成長していく…。」
そのオオネスカの語る推測は、今の状況を如実に表している。
ダダラフィンは非常に暗い気持ちになりながら、納得している自分がいた。
「ミノルフ殿はこの地区に存在する「魔導力」を持つ「魔物」達を、すべて底上げしていると、おっしゃっていました。」
「そうなると危険度が一気に跳ね上がるぞ。どのくらいの冒険者がついてるか、全くわからんが、学生が危険だ!」
「当然ですが、成長を促しているのが最初の化け物のような「魔物」だとすれば、「天の恵み」周辺の危険度が跳ね上がっています。早急に駆逐していかなければなりません。」
「オオネスカの言いたいことは分かった。これより、我々は最大の移動速度で先頭を行く砲撃車と合流する。うまくすれば「バベルの塔」のバックアップが受けられるかもしれん。そこでより正確な情報を収集、その後「天の恵み」そのものを目指す。それと潰した奴らは出来るだけ焼き尽くす。バンス、戻っているか!」
「後ろの来てるさ、大将。学生たちに見せればいいんだろう。ちょうどさっき作り上げた骸の束がある。実演するぜ。」
「了解だ。サムシンク、ヤコブシン!結界を解け!オオネスカ、アルクネメ、マリオネット!バンスの今からの行動、技を盗め!今後、できうる限り、「魔物」どもを焼き尽くせ!」
全員が立ち上がると同時に、結界が解かれる。
周囲にいた新たな「魔物」達が11人に迫る。
バンスは新しく群がる「魔物」と骸になった「魔物」、それを喰らう「魔物」に対して、自らの持つ剣を数度横に振る。
その剣先のスピードが常人にはとても捉えることは出来ず、残像を残すのみであった。
その剣先のスピードがあがると、周りの空気を以上に高温となり、炎がその剣を包み始めた。
そしてその炎が高速で周りの「魔物」達を襲う。
一気に「魔物」達を焼き尽くした。
「バンスのファイヤーソードだ。お前達「特例魔導士」には難なくこなせるはずだ!行くぞ!」
「はい!」
「オーブは引き続き、「探索」、皆に情報を共有。特にAクラス以上の動きをサーチしろ。サムシンクはオーブを守れ!アスカはシシドーと協調して行動!できるなら、宙空を駆けろ!」
バンスが先頭を切り、炎の剣で道を切り開く。
その後をダダラフィンとグスタムが続く。
ヤコブシンはシシドーとアスカを伴い、その後の続いた。
サムシンクはオービットの手を取り、結界を展開させつつ、この開けた先の「天の恵み」を目指す。
二人はできうる限り奴らの脅威のない場所に移動するつもりだ。
「探索」で安全度の高い地点を目指す。
オオネスカはエンジェルに飛び乗り、空に舞う。
アルクネメは足元に光る足場、フライング・ソーサーを発現。
マリオネットを共に乗せ、低空を疾走した。
下方に見える「魔物」達をつい今さっきバンスの行ったファイヤー・ソードを叩きつける。
異様な叫び声と共に、その赤い目をした者共が朽ち果てていった。
極力早く、「天の恵み」の周辺の「魔物」を焼き尽くさねば、仲間たちの死が多くなる。
アルクネメは焦りを抑え、宙空を跳んでいく。




