第38話 オオネスカ帰還
巨大な「魔物」と戦うミノルフとそのそばに賢者「サルトル」を背にした青い飛竜「ペガサス」の姿があった。
【オーブ!ミノルフ殿が危ない!情報を!】
オオネスカの悲痛な精神通話がチームの脳に溢れた。
アルクネメとマリオネットすぐに「超探索」状態に入ったオービットを挟むように囲み、援護に入る。
アスカもまた、その少し離れた場所にしゃがみ、不測の事態に備えた。
その状況に防御剣士サムシンクは一瞬、虚を突かれた感じに見えたが、オオネスカの指示通りアスカとはオービットを中心に反対方向で防御幕と呼ばれるシールドを張った。
「ほう、学生もやるな。さすがは「特例魔導士」といったところか。こちらもオービットの援護に回る。全員、配置せよ。」
ダダラフィンの声の前には円形にアルクネメたちを守る陣を作った。
「天の恵み」表面では、ミノルフがまさに二つの頭を持つ「魔物」と戦いの最中で、「カエサル」を守るための盾になろうとしていた時であった。
オービットはミノルフのアイ・シートに強制同調し、「魔物」から飛来する刃に対して予測軌道計算を表示した。
ミノルフの反応も早かった。
即座にその情報の意味を理解し、ことごとく、その攻撃をよけきった。
オービットはそれに合わせた攻撃を展開するオオネスカにも情報を送り、戦闘の援護を続ける。
この状態はオービットにとっては全くの無防備状態のため、他のチームメイトはその状態のオービットを命に代えても守ろうとするのである。
それほどオービットの「探索能力」は群を抜いていた。
ただし、その状態のオービットの精神力・魔導力ともに恐ろしいほどのエネルギーを使うため、すぐにアスカによる治療が行われる必要があった。
この大きな「魔導力」は残っていた「魔物」たちを呼び寄せたようだった。
森から次々とウルフ級やタイガー級が迫ってきたが、デザートストームの前にはすべて殺されていった。
「すごいな、オービット殿の「探索」は。あの予測軌道など、初めてこの目で見たぞ!」
グスタムは自分のアイ・シートに展開されたミノルフの戦い、そのサポートをしたオービットの「魔導力」を称賛し、呼称まで敬意を示した。
今はとりあえずアスカに身を任せているオービットがかすかにほほ笑む。
「皆さんが私を守ってこそのこの力を使えるんです。私一人では何も…。」
「天の恵み」表面から巨大な「魔物」が落ちていくことを確認した。
ほかの学生や、「冒険者」たちもこの荒れた大地を駆けあがり、両脇の森からの「魔物」たちの攻撃に備えるための配置についていく。
その中央を国軍の車両が走り、そこから兵士たちが土木用の道具を持って降りてきた。
今回の作戦の目的はあの巨大な「天の恵み」の回収であり、その運搬に用いる巨大車両を通すことが国軍にとっての最大の仕事だ。
でこぼこのひどい状態であるこの大地をできる限り整地して、巨大車両を通りやすくする。
そのために「魔物」を彼らに近づけなくするための防護が、騎士団、「冒険者」、そして「クワイヨン高等養成教育学校」の学生である。
「クワイヨン高等養成教育学校」から参加した学生は207名。
チームにして38チームであった。
だが、先の野営地での戦闘により、既に23名がその数から除外されている。
欠落したチームは5チームにも上る。
5年、6年生は全員参加、あと4年生が15名、3年生がアルクネメを含めて3名が参加したが、既に3年生で現時点での参加者はアルクネメのみである。
他の2名の能力はアルクネメを超えているとの評価があったが、けがと精神的な不調により戦線を離脱した。
今、アルクネメは自分のチームのメンバーとデザートストームのメンバー計10名は当初の設定地点からさらに「天の恵み」の近くに配置が変更になった。
これは先の野営地での戦闘成績が高く評価された結果という事だが、「いいように使われてるだけさ」とヤコブシンは悪態をついていた。
単純に「天の恵み」までが傾斜のある場所を登らねばならい。
体力が簡単に減っていく。
そして、山の中に踏み入ることにより、「魔物」の量と質が上がっていく。
砲撃装甲車がいまだ各所に砲弾をばらまきながら、「天の恵み」までの道を示し続けている。
「魔物」達が「魔導力」に釣られて、アルクネメたちに散発的に襲ってきた。
基本的にオービットとアスカを守るような形で他の8名が進んでいた。
既に先の「天の恵み」で行われていた強大な「魔物」との闘いは終了したことをオービットを通じてオオネスカがアルクネメたちに伝えてきている。
ミノルフの超人的な働きとオオネスカ、オービットのサポートにより大きな被害はなかったようだが、疲労の蓄積はどうしようもなかった。
事実、賢者「サルトル」は、この闘いでかなりの体力を消耗し、賢者「カエサル」に連れられて、本隊に合流したそうだ。
オオネスカは一旦、チームに戻ってくると連絡してきた。
報告と対応を冒険者チーム・デザートストームの意見を求めているとの事だった。
リングでの連絡でなく、しっかりと顔を突き合わせて話したいとの事であった。
「そんな余裕があればいいが…。」
ダダラフィンはオオネスカの言葉に、そう返した。
今、この合同チームは傾斜を登りながら、森から襲ってくる「魔物」と戦っている。
ミノルフたちが相手にしたような化け物クラスの「魔物」ではないとはいえ、危険度Aランクのリノセロス級、エレファント級、パイソン級がたまに顔を出してくるのだから。
車内でその話をしていたのが遠い昔のことなのではないかと思うほど、アルクネメの剣の動きは既に百戦錬磨の勇者そのものであった。
ただ、とダダラフィンは考える。
この「魔物」達の量はまだしも、質、すなわち危険度の高い奴らが多すぎる気がしていた。
ダダラフィンたちが当初予測していた「魔物」達の戦力は、量的には現在遭遇している奴らの3倍以上、そして質は、いいとこ、タイガー級やベア級、たまにリノセロス級程度と考えていた。
量的な話はアクエリアス別動隊に「魔物」達が引き付けられているからだろうが、この襲ってくる「魔物」達のランクが高すぎる。
今、この山で何が起きているのか?
そのことに関して、オオネスカは話し合おうとしているのだろう。
空から銀色の鱗を輝かせたエンジェルが舞い降りた。




