第37話 「天の恵み」回収作戦開始
「天の恵み」回収作戦が当初の予定より大幅に前倒しされた。
アクエリアス別動隊が大型の「魔物」に襲われ、戦列が瓦解した可能性が報告されたためだ。
既に飛竜に乗って上空から偵察・監視任務にあたっていた、ミノルフ統合司令が、シリウス別動隊の全権を国軍准将・バイエルに預けてアクエリアス別動隊を救援するために飛竜隊を伴い、現場に向かった。
オオネスカもエンジェルとともに戦場に向かった。
オービットがその間、このオオネスカのチームを任されている。
とはいえ、事実上「冒険者」チーム・デザートストームの補助的役割ではあるのだが。
作戦決行が決められると、すぐに移動車両から外に出て、徒歩で配置地点に向かう。
新しくサムシンクを加えた、新生オオネスカチームはリーダーのいないまま目的地点まで移動する。
すでに移動車両は、方向を変えて木々を迂回するように走り去った。
「オーブ、今何が起こっているの?予定時刻を大幅に前倒しして、飛竜隊も、今は上空にはいないようだけど。」
アスカがデザートストームの後ろを追っているオービットに問いかける。
アルクネメはすでにほかの地点で戦闘が開始されていたことを、かすかに聞こえる爆音から検討をつけていた。
たぶん、アクエリアス別動隊が「魔物」とかなり大きい衝突があったのではないか。
オービットは今、自分の「探索」能力を働かせている。
結構な量の情報がアイ・シートに展開していた。
これは先程の問いかけに対するオービットの答えだろう。
この森と言って差し支えない木々の中に、全く「魔物」の気配がない。
「おかしいな、この山でここまで奴らがいないなんてことがあるのか?」
デザートストームのリーダーであるダダラフィンが眉をひそめて言う。
ほかのメンバーもその言葉に同意した。
そこにアイ・シートに情報が映された。
現在の「魔物」の所在を教える赤い点が、今いる場所から「天の恵み」の着陸地点付近に移動している。
「これはどういう意味なんだ?」
デザートストームのグスタムがうめくように問いかけた。
「わかりません。ただ、あの「天の恵み」の方向で何かしらの異変があったと思われます。」
その直後、オービットの後方からウルフ級が襲ってきたが、瞬時にアルクネメの剣が首をはねた。
「ありがとう、アルク。」
オービットが礼を言ったのち、もう一度デザートストームのほうに視線を移す。
「今のようなはぐれはいると思いますが、ほぼ「魔物」たちはあちらに移動してます。このまま「天の恵み」の防護地点まではスムーズに移動できそうです。」
オービットの声に頷き、ダダラフィン達は速度を上げ、森を駆け始めた。
それに後れを取らぬようにオービットたちも駆けだした。
サムシンクも肩に全く不調を感じぬようにともに進む。
その姿にアスカ心の中で安堵した。
飛翔体の爆発で開けた大地は、何者かにえぐられたような空間が続いている。
途中何体かの「魔物」たちを倒して、ダダラフィン達はその大地を眺めた。
爆発がこの地で起こったことは知っていたが、なぜこのように「天の恵み」までの道のように開けているかまでは聞いていない。
しかし「天の恵み」とは反対方向を見れば、巨大な車両が見えたことからも「バベルの塔」がこの道を作るために何かをしたことは理解できた。
今、国軍の車両が次々とこのでこぼこの大地を登ってくるのが見えた。
「これはなにが起きた後なのでしょうか?」
アルクネメが呆然としながら、近くにいたバンスに聞くともなく聞いた。
巨大な「天の恵み」がその開けた大地の向こうに見て、アルクネメはこれが今回の目的物、「天の恵み」であることに気づかされていた。
「考えられることは一つだな。どのような手段かわからんが、「バベルの塔」が「天の恵み」回収のための道を強制的に作ったのだろう。ただ、まさかこの一帯にいるはずの「魔物」まで「バベルの塔」が掃討したとは思えん。特にここにはお前たち「特例魔導士」が多くいるんだ。集まってくることはあっても、いなくなるとは思えんのだが…。」
バンスはアルクネメに自分の思っていることを言葉にすることによって、自分の思考の整理をしているようだ。
「唯一考え付くのは、お前たちよりもおいしいものが別の場所にあるということなのか…。」
おいしいもの。
それは高濃度の「テレム」か「魔導力」。
アルクネメはまだかなり遠く感じる「天の恵み」表面で、何かが戦っているのが見えた。
「オーブ先輩!「天の恵み」表面に誰かがいます。多分そこに飛竜隊が向かっているようですが…。何かわかりませんか?」
すでにオービットは「探索」に入っていた。
次の瞬間に、不鮮明だがアイ・シートに映像が浮かぶ。
「ミノルフ殿!」
そこには巨大な「魔物」と戦うミノルフとそのそばに賢者「サルトル」を背にした青い飛竜「ペガサス」の姿があった。
【オーブ!ミノルフ殿が危ない!情報を!】
オオネスカの悲痛な精神通話がチームの脳に溢れた。




