第36話 会話 Ⅰ
【とりあえず、表面開閉ユニットを戻せたのは助かった】
【まったくだ。あの部分の異常が全く認識されてなかったのは何故だ?よりによって「テレム強化剤」の冷却庫の接続部分だ。連合政府は何をやっているんだ。】
【その連合政府の動きが完全に掴めなくなってから、もう100年は過ぎておるのだ。なにが起こっても不思議ではないが…。】
【だからと言ってこの星を完全に見捨てるわけにはいかないのではないか。】
【確かにあちらでは最重要の鉱物が、ほとんど産出しなくなってるとは聞いていたが。】
【こちらの文明度合いでは、我々が使う以外の分はほぼ手つかずだ。貴重な惑星だ。見捨てられるわけがない。】
【だといいんだが。「天の恵み」の一つが予定コースを大きく外れて海に沈んでるだろう?】
【モンデリヒト宛と聞いているが。モンデは何と言ってる?】
【海に落としたのはあちらの政府の責任だと言って、再度の運搬を請求しているらしい】
【当然だな】
【漏れ出た気体はやはり効果が高そうだ。「カエサル」が、危険度が跳ね上がったと報告している】
【まだ、「天の恵み」の回収は終わっていないぞ】
【中間報告というか、アクエリアス別動隊の件でだろう】
【とりあえず、甚大な損害を出したとはいえ、いまだ機能して、あの化け物としか言いようのない「魔物」を引きずり出して、関心をアクエリアス別動隊に向いている。計画通りだよ】
【しかし、「魔物」はどこまで体を強化していくんだ?レーザー照射など初めて聞いたぞ。体内で何が起こればそんな内臓が出来上がるんだ?】
【それは研究したいところだが…。現状では難しいか】
【「魔物」達の制御が1000年以上経っているのに未だ達成することが出来ていない】
【ここでその研究ができないからですよ。だからこそ、こちらで考えた実験方法とサンプルを「天の恵み」で送って、あちらで研究を代わってもらっているわけですよ。その一つの成果が「テレム強化剤」なのではないですか。まさかその部分が破損するなど】
【単なる事故ならいいのだがな。海に落ちた「天の恵み」、「魔物」の巣窟と言われているガンジルク山への不時着と試験用サンプルの冷却庫の破損。その物質が「テレム強化剤」。出来すぎている気がする】
【疑問は尽きないが、今回の「リクエスト」について。本議題に入る。現状の困難さに対し、「天の恵み」を破壊するよう意見が出た。あの場所からこの「バベルの塔」までの運搬は非常に危険だと主張されている。であれば、「テレム強化剤」もろとも完全に消去すべきだと】
【「テレム強化剤」については、あんな化け物を結果的には作ってしまうかもしれない。だが、今回の「天の恵み」には、非常に重要な我々のための物資がある。その意見に対しては反対としか言えない。そもそも「天の恵み」を破壊してしまっては、連合政府が欲しがる物資を運ぶことはできない。却下だ】
【わかりました】
【「カエサル」がミノルフにかなりの情報を与えていたが、あの時点なら、目撃者をすべて始末した方がよかったのではないか?】
【確かにあの「魔物」を葬るついでに殺すことはできただろうに…】
【それは3つの理由から反対だ】
【何故だ、一番楽な方法だ】
【まず、「サルトル」がミノルフの飛竜、ペガサスの背にいた。飛竜たちはテレパスで人語を解する。ペガサスを殺せば、あの時点では「サルトル」の身体は死ぬ】
【ふむ、確かに。我々の精神波に同調率が高いものはそうはいないからな。だからこそ、「サルトル」アーサーはあの11歳の子、確か名はリラとか言ったな、でも憑依するしかなかったんだからな】
【第2にミノルフはシリウス別動隊の統合司令だ。死ねば隊に多大な喪失感を与え、この「天の恵み」回収作戦の遅延・失敗に繋がる】
【そうだな。あれだけの男。既に生きながら伝説になりつつある】
【そして第3.これが一番大きい理由だが、オオネスカのチームに「特例魔導探索士」オービット・デルム・シンフォニアがいる。あの時点でオオネスカを通してあの「天の恵み」での「魔物」との死闘を見ている。その結果、ミノルフのアイ・シートに強制的にリンクして、「魔物」の無数の刃の軌道計算を瞬時にミノルフのアイ・シートに表示、ミノルフもその情報を最大限に活用し、自分と「カエサル」を守り抜いた】
【つまり、目撃者がいると…】
【それもあるが、オービットはG12号だ】
【そ、そうか、だから…。わかった、この件は「カエサル」を全面的に支持する】
【あのミノルフの質問に対しての回答は、今後の信頼関係の構築には絶対必要だった。となれば、もともとあの程度の情報は彼らには意味は解らない。もっとも個人的には喋りすぎているとは思っています】
【そういう事だ。まだ終わってはいない。完全にこの作戦が終わるまでは気を抜くな。そして、不測の事態に備えて、あらゆる手段を使えるように】
【了解した】




