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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第3章 「天の恵み」攻防戦 Ⅱ
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第34話 賢者「カエサル」

 目の前の「魔物」に左手の剣先を向け、右手の長剣をもう一度振りかぶる。


 周りの景色が90度傾いた状態で、ミノルフはこの「天の恵み」表面から落ちないように、すり足で間合いを詰めた。


 「魔物」の口がまた開き始めた。


 いまだ!


 左手の剣先から光弾を放つ。

 幾条の光が、今、まさに空気圧力砲を撃とうとする口に吸い込まれていく。


「魔物」の口の中で力と力がぶつかる炸裂音がした。


「魔物」の体が少し揺らいだのをミノルフは見逃さずに、一気に懐にもぐりこんだ。


 もう片方の短い首がミノルフを睨むように視線を向けたが躊躇せずに、長剣を掬い上げるように長い首にたたきつけた。


 長剣が「魔物」の皮膚を切り裂き、刃が肉に食い込んでいったが、完全には切断できない。

 その動きが止まったミノルフに短い首が口を大きく開いた。


(逃げろ、ミノルフ)


 ペガサスの警告が脳内に響いた。 


 ミノルフは長剣を手放し、足の力を緩めた。


 ミノルフの体は重力に従うように落下、その直後に「魔物」の咆哮が聞こえた。


 身体を反転させ、また足元に「魔導力」を集中させる。

 できた光の円盤をけり上げながら、「カエサル」の元の戻ろうとしたが、先程のようなテンポで登ることが出来ない。


 くっ、「魔導力」を使い過ぎたか?


 かろうじて、「カエサル」を守る位置に着地し、足を吸着させるのがやっとだ。


 このままでは賢者を守り切れん!


 化け物の上半身と言ったらいいのだろうか?首の近くの前足をあげ、長い首に食い込んでいる長剣を剝がすために、のたうち回っている。

 全身を覆う赤い目が異常に発光を開始した。

 闇雲に咆哮をあげている。


(疲れではありません。この化け物ような「魔物」が「魔導力」の無効化をしています。「テレム」発生器を巧みに使えば、奴の「魔導力」に対抗できます)


(了解した、「サルトル」様)


 左手の剣の柄を握りなおして、「魔物」の動きを追う。

 先程感じた力が枯渇する感じは薄らいできた。


 背嚢のホルスターに収められた3本目の両刃の剣を抜き、構えた時だった。


 ミノルフの皮膚を冷気が這うような感覚を覚え、全身に力を込める。


 信じ難い光景が目の前に現れた。


 「魔物」の胴体を覆っていたはずの甲羅のようなものが何枚か開き、その甲羅に浮かぶ赤い目がミノルフを凝視していた。


 やばい!


 そう思った時、その甲羅が剣のように鋭い刃を作り、放たれた。


 避けるわけにはいかなかった。

 後ろの「カエサル」は「サルトル」のシールドに守られているとはいえ、どこまで持つかわからない。

 飛んでくる刃、すべてを叩き落さねばならい。

 必要があれば、この身を盾にするしかない。


 アイ・シートが薄く色を変えた。


 ミノルフは初めて見る現象に、戸惑った。

 そのあとすぐに、迫ってくる刃の軌道が描かれる。


 体が勝手に反応する。


 アイ・シートに描かれた軌道そのままに迫る刃を両刃の剣で落とし、左手の剣から光弾を撃ち、ことごとく落とす。

 さらに、後ろの「カエサル」に影響がないと判断できたものは、よけた。


(ミノルフ、ペガサス、援護する)


「ミノルフ殿!助太刀します。」


 エンジェルとオオネスカが迫ってくる「魔物」の背後に回り、上昇してきた。


(オオネスカ、行け!)


 エンジェルの背中からオオネスカが飛び上がり、アルクネメやミノルフがしたように、光る円盤を出現させ、中空を駆け登ってくる。


 気づいた「魔物」の甲羅が同じように開き、刃を放った。


 が、後方に守る必要のないエンジェルだけだったため、空中を自在に動き、その刃をよけた。

 その勢いのまま、開いている甲羅の無防備な背中に持っていた剣を突き刺した。


 「魔物」の体液が飛び散る中、さらに突き刺した剣を真一文字に横に薙ぎ払う。


 「魔物」は痛みに絶叫をほとばしらせ、ミノルフの長剣が食い込んだままの長い首がオオネスカに向き、口を大きく開こうとする。


 短い首もオオネスカに関心が行っていた。


 完全にミノルフから注意がそれた。


 ミノルフは右手の両刃の剣を振りかざし、「魔物」に飛びつく。

 長剣が食い込んでいる首の反対側から両刃の剣を叩きこむ。

 皮膚を破り食い込むが、まだ切断できない。


「頑丈な奴め!」


 ミノルフはさらに左ての剣に「魔導力」を込めて、両刃の剣の上からぶつけた。


 3回の打撃により、「魔物」の長い首が切断され、「魔物」の体から落ちていった。


 しかし「魔物」はいまだに死なない。

 より一層禍々しい赤い光を放ち、吠えた。


 ミノルフの体は「魔物」の首を切断したことにより、「天の恵み」の下方に落ちてしまっていた。

 「天の恵み」には取りついているものの、「カエサル」から離れてしまっていた。

 

 短い首だけになった「魔物」はしかしその短い首からも気体圧力砲を撃ったようだ。


「しまった!」


 「魔物」の雄たけびのような咆哮が耳に届く。

 ミノルフは懸命に「天の恵み」の壁を駆けあがっていく。


(大丈夫だ、ミノルフ卿。「カエサル」の仕事は終わっている)


 「サルトル」の思念がミノルフに届いた。


 ミノルフは「魔物」がいる位置を見上げた。


 「魔物」の向こう側に長身の赤い髪の男性が「天の恵み」表面に立っている。

 淡い笑みを浮かべて。


(ありがとう、ミノルフ卿。修復は終わった。君のおかげだ。「サルトル」のことも礼を言わせてもらうよ。彼女の体はまだ弱いから、ね)


 稲光のような光がミノルフの前で起きた。


 そこには体を両断された「魔物」が力を失い、赤い光が消えてミノルフの脇を落ちてゆく。


 あの硬い甲羅をいともあっさりと両断してしまった。


 なんという「魔導力」!


 そこには見慣れた自分の長剣を右手に携えた「カエサル」が、静かにミノルフを見つめている。


「いい剣だ。ここまで手に馴染むものは久しぶりだよ。しかも今の「魔物」をこうもあっさり両断できる切れ味の冴え。これは魔光石かな?」


「はい、ムゲンシン産のもので、鍛冶屋の「ハスケル」で鍛刀されたものです。」


「この国では結構名の通った刀鍛冶だったな。ちょうど手元の来たので使ってしまったよ。あの甲羅持ちの「魔物」はこう簡単にはいかないと覚悟していたのだが。」


 「カエサル」は持っていた長剣を、両刃をホルスターに戻したミノルフに渡した。


「この垂直の壁に立っているのも疲れるだろう。「サルトル」はこちらで預かるよ。君はペガサスに戻って、本来の職責を全うしてほしい。」


 背に「サルトル」を乗せたペガサスが「カエサル」のもとに近づいてきた。


 「サルトル」がペガサスの背から離れ、「カエサル」の腕に抱かれるように飛んでいく。


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