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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第3章 「天の恵み」攻防戦 Ⅱ
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第33話 「天の恵み」上での戦闘

 「カエサル」に「魔物」の長い首が襲いかかる。

 距離的には充分であり、「カエサル」はそのものに食いちぎられる、かに見えた。


 だが、ミノルフの未来予想図はものの見事に外れ、「カエサル」の頭上で大きな口を広げたまま、固まっていた。

 「カエサル」はそのことを一向に気にせず、「天の恵み」の表面の亀裂を封じる作業を続けていた。


「とりあえず、「カエサル」の周りに私がシールドを作りましたが、長くは持ちません。ミノルフ卿、奴を倒してください。」


「ここからでは届くかどうか?」


 「サルトル」を救うためにかなりペガサスは高度を落としたのが裏目に出ている。


「ロングソードが使えるのなら、その光を小刻みに相手に当てるように出せるはずです!やってみてください。」


 ミノルフは「サルトル」の言葉を受け、剣を「魔物」に向けた。

 そして、剣を大きくするためではなく、剣先から光を押し出すイメージを描く。

 その精神波に呼応するかのように、柄が淡く輝く。

 と同時に剣先から無数の光の弾が「魔物」に向かって打ち出された。


 固まっていた「魔物」にその光弾が突き刺さるように当たる。

 しかし、足や首の部分には突き刺さり消滅していくが、胴体の背中に当たった物は弾かれていった。


「甲羅が、くそみたいに硬い。」


 ペガサスの上昇が鈍ってきていっる。


(二人分はきついか?)


(俺を誰だと思ってる?)


 強気な思念を返してきているが、明らかに力が弱まっている。

 考えてみれば、今朝がた未明の戦闘から飛竜の長として体を酷使してきたのだ。

 無理もない。

 「サルトル」が軽いとは言っても、荷重はかかる。


(申し訳ない。この体は、まだ持久力が少ない。力の回復に時間がかかる)


 やはりそうか。


 見た目と精神力の違いがやけに大きいと思ったら…。


 ミノルフは考える。

 自分にもアルクネメのような「特例魔導士」並みのことが出来るのか?


(できます!ミノルフ卿、あなたなら!足の裏から大きな鈎が出ているイメージを描いてください。あなたの「魔導力」とその「テレム」発生器を使えばできます)


 「テレム」発生器を知っている?


 だが、今はそんなことを考えている時ではない。


(ペガサス、「サルトル」様を頼んだ!)


(承知!)


 ミノルフは、ペガサスの背に「サルトル」の幼い体を括り付け、跳んだ!


 剣を「天の恵み」表面に楔のように打ち付けようとしたが、跳ね返される。

 だがこれは想定内だった。

 先のロングソードで傷ひとつつかなかったのだ。

 当然だろう。


 ミノルフは足の先に鈎のようなイメージではなく、吸盤のように吸着するイメージを描く。

 そのまま右足の先をけるように「天の恵み」表面にぶつけた。

 うまい具合に張り付き、はがれることはなかった。

 続いてこのそそり立つ「天の恵み」の側面を水平な場所に感覚を変更。

 左足の裏を表面に張り付かせ、垂直に立つその壁を床にイメージチェンジ、そのまま右足の裏も吸着させ立ち上がることに成功した。

 

 ミノルフはそのまま「天の恵み」を駆け登り、さらに「カエサル」に攻撃を加えようとする「魔物」に接近した。

 そのまま剣を左手に変え、長剣を右手に握る。


 もう一度左手の剣先から光弾を放ちつつ、右手を振りかぶった。


 光弾はやはり、その大部分を弾かれたが、「魔物」の関心を「カエサル」から離すことに成功した。


 その長い首がミノルフに向き、大きな口を広げ咆哮を発した。


 右手の長剣を振り下ろそうとしたミノルフは、そのまますさまじい圧力を一身に浴びてしまった。

 かろうじて両足は「天の恵み」の表面に張り付いたままで踏みこたえることが出来た。


(気体圧力砲です。空気を圧縮して吹き出し、相対するものを吹き飛ばす力を持っています)


「サルトル」が今起こったことを説明してくれた。

 何が起こっているかわかれば、対応方法はある。


 ミノルフはもう一度足に力を入れ、剣を振り上げた。


 再度、「魔物」が咆哮した。

 だが、ミノルフの姿はそこにはなかった。


 ミノルフの足元に光る円盤が発生し、ミノルフの体を「カエサル」と「魔物」の間に移動させた。


「賢者「カエサル」様。お怪我はありませんか?」


「ああ大丈夫だ。今、とりあえずの凍結処理を終えた。この後、この機体の表面をふさぐ。もう少し時間を作ってくれ!」


「了解しました。」


 「天の恵み」の地上接地区域は、先程の爆撃で木々は燃え尽きていたが、次々と「魔物」どもが集まり始めていた。


 ミノルフの視界の範囲に、シリウス別動隊の「サルトル」配下の砲撃車が「魔物」を蹴散らしているが、数が多すぎる。

 だがその後ろに、本隊の「天の恵み」運搬車の巨大な姿が現れている。

 本隊直属の機械化部隊もすぐにこの戦線に加わるだろう。


 ミノルフは目の前の巨大な「魔物」の相手に全力を尽くすために、「魔導力」を高める。


 アイ・シートには自分の持つ「魔導力」と「テレム」の数値が表示されていた。

 見たことのない高い数値が刻一刻と更新されていく。


「この程度の敵を叩けなければ、あの地上を蹂躙している化け物には歯が立たないわけだ。」


 モナフィートの指揮の下、残存兵力は飛翔体を打ち終わった運搬車を盾に、再配置が進んでいる。

 あの化け物相手に、馬鹿げた肉弾戦には映らず、当初の目的通り、囮に徹する判断をしたようだ。


 そう、この「天の恵み」を回収することが目的だ。

 あの化け物を引き付けてくれれば、「天の恵み」の回収が容易になる。

 だが、仕留められるのであれば、さらにこの作戦を完遂しやすくなる。


 目の前の「魔物」に左手の剣先を向け、ミノルフは右手の長剣をもう一度振りかぶった。


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